おそらく創作活動に携わっていない方は、文章の書き方より前の段階、『どうやって三〇〇ページなり四〇〇ページなりのストーリーを考えているんだ? 思いつくんだ?』の部分から不思議に思えるかもしれません。
 ただ、特別な事は何もないと思います。私の場合はいきなり頭の中に起承転結フルセットのストーリーがドカンと落ちてくる訳ではありませんし。
 こんなキャラクター、こんな台詞、こんな武器、こんなワンシーン、こんな台詞……。あくまでも小さな小さな『点』だけが浮かび、それを形にするために周りを固めていくと、一冊の本の形になっていく、といった方が正しいかも。
 なので。
 これはプロアマ、文系理系、そんなの関係なしに、小説を書くのに必要なアイデアだけなら、どなたでも毎日当たり前のように浮かんでいるものではないか、というのが私の持論です。
 いわゆるプロアマの違いとは、日々頭に浮かぶ小さなアイデアを『忘れずに、記録しておけるか(そう、記憶する、ではないのです)』、そして『そのアイデアを、自分以外の第三者(つまり読者さん)に理解していただけるよう整える事ができるか』でしかないのかな、と。


 日々思い浮かぶ小さなアイデアやちょっとした意見といった、お話の種を『点』とするなら、それらを繋いで『線』にしたもの、均等に箇条書きされた情報を一本の流れへ束ねたものがストーリーとなります。
 もちろん人によりけりだと思いますが、私の場合は一〇~三〇くらいの小さな『点』を繋げて『線』に整えていくような。
 なので、小説を書きたいと思う方は、まずこの『パッと浮かんでパッと忘れてしまうアイデア』をいかにストックしておけるか、が第一ステップとなります。
 とはいえ、大仰な準備はしません。
 大学ノートや携帯電話のメモ機能などがあれば普通に何とかなります。とにかく『いつでもどこでもパッと取り出して書き込みができるもの』なら。
 後はその時その時思い浮かんだものを箇条書きでも良いのできちんと書き込む。これは別に、殊更格好良いとか奇抜で珍しいとか、そういう『ふるい』は意識しません。役に立つか立たないかは後で決める、くらいの感覚ですね。
 例えば、私の場合は、

プラントタンカー
 防腐剤に果実を漬け込むのを避けるため、内部を大規模な野菜工場にし、果物や野菜を『生きたまま』輸送する。
 ただし不要な外来種まで運び入れるリスクが増大する。

弾丸シジル
 跳弾を自在に操る技術で、それを使ってシジルを描いて魔術を行使する。

 ……こんなもんです。これだけだとちっともストーリーに繋がらないというか、『ゴミのような情報』に過ぎないのがお分かりでは。ただ、これが一〇個二〇個と積み重なり、一つ一つを関連付けていくと、次第に設定に厚みが生まれてくるのです。
 なので、この段階では『気にしない』のが大切です。恥ずかしいとかは思わず、とにかく思い浮かんだアイデア、小さな芽は片っ端から『頭の外にある別の媒体』へ保存してしまいます。
 人間の頭は、自分が思っているよりもはるかに忘れっぽくできているものです。ベッドで見る夢と同じく、それが実生活と関係のない情報であればなおさらです。『頭の中では分かっているよ』はあてにならないと考え、『日々泡のように浮かんでは泡のように弾けていく』アイデアを、どれだけ効率的に拾い上げる事ができるか、を努力するのが第一ステップなのかな、と。


 ちなみに、『電撃文庫らしい話』では、こうしたメモを黒歴史ノートと揶揄する傾向があります。自分の作品でもいくつか例があるので心苦しいのですが……でも実際、現実世界では恥ずかしがる必要は特にないと割り切っています。
 例えば、お笑い芸人の方は持ちギャグをストックするためのネタ帳を持っていますし、手品師の方はトリックノートを持っています。それは血と汗の結晶であり、決して笑われるようないわれはないはず。そして別段、準備段階のノートに書き込まれた内容全てが一〇〇点満点でなくとも全然構わないのです。そのストックはアイデアであり、まだ作品ではないのですから。他の業種では当たり前にやっている事を、作家だけがやってはならない、というのも考えてみれば不思議な話ですよね。


 また、余裕があればこうしたアイデアの羅列はパソコンのワープロソフトなど、ファイル内検索ができる媒体へ定期的に移しておくと便利です。
 特に手書きの方は要チェック。
 こうしておけば、『あの時のあれどこやったっけ?』という本末転倒な事態を回避できます。
 テキストを検索用に加工する場合は一つ一つのアイデアの末尾に、ファンタジー、メカ、クリーチャー、人物、武器、小物など、ジャンルを足しておく事と利便性が格段に上がります。
 これがあるだけで、『やられ役の雑魚キャラ三人欲しいんだけど、長々とあるファイルのどこにあったっけ?』などといった場合に『人物』で検索をかければザザッと出てきてくれますから。実体験を正直に話しますと……最初の方は気になりませんが、項目が一〇〇、一〇〇〇と超えていくと、こうしたちょっとした手間が馬鹿にならない差を生み出します。