ここではバトル系のキャラクターを基準にしています。ホラー、サスペンス、ラブロマンスなどの場合はまた違った方法になるはずですが、ひとまず自分が一番手がけてきたもので基本事項をまとめてみたいなと思いまして。
まずは主人公について。
主人公は『メインとなる読者層はどの辺りになるか』を真っ先に考えます。例えば中高生の男子をメインターゲットにする場合、最もストレートで効果的なのはお話の主人公を中高生の男子にする事です。
ただ、ファンタジー世界で騎士団の話をやりたいのに中高生じゃないだろう、というケースももちろんあります。
そうした場合、『どこか中高生男子にも通じる価値観を割り振っておく』事を意識します。
例えば剣と魔法の世界のファンタジーだが、主人公の少年は騎士としての活躍より周囲の女子からの評価が滅法気になる、騎士団には入団テストがあり、それがどこか高校や大学の入試に似ている、などですね。
主人公の行動原理についてはできるだけシンプルな『欲』を与え、かつ、その『欲』から生々しさを取り除く……というのが重要ではないかな、と。
インデックスの上条当麻に欲なんてあるのか? とお思いの方もいらっしゃるかもしれません。ですが、彼の『目の前で泣いている女の子を助けたい』という行動原理は、言い換えれば『この女の子の笑顔が見たい』という極めてシンプルな欲になりますよね。
ヘヴィーオブジェクトに出てくるクウェンサーの『金持ちになりたい』などはさらにストレート。これだけだと嫌なヤツに聞こえるかもしれませんが、『でも、金持ちになって何がしたいの?』という具体例まで頭が回らない、今はそれどころじゃない、とする事で、生々しい印象が出ないよう蓋をしています。
(……逆に、悪の親玉などの場合は『世界征服をした後に何をしたいのか』まで生々しく明示する事で、こいつは今すぐ倒さなきゃダメだ感を高められる、という訳で)
女の子と仲良くなりたいでも、動画サイトで注目されたいでも、何でも構わないのです。その『欲』が身近であれば身近であるほど、読者さんは共感してくれるのではないでしょうか。
主人公は『理解はできるけど共感はできない』ではちょっとばかりきついです。よって、身近にある小さな想いを肥大化させて特異な個性を作る、というのを意識した方が成功の近道になるのではないかな、と。
例えばですが、『女の子と仲良くなるために頑張ったら世界を救っていました』というのは、『誰でも共感できる、でも誰にもできない主人公』として受け入れてもらえると思います。
主人公に魔法、超能力、武装などを与える場合、『その主人公が何をしたいのか』を把握するのが一番大切です。
日本刀や馬鹿デカいリボルバーを持たせるのは格好良いですが、主人公の目的が『暴走した女の子モンスターを助けるため』だった場合、この武器は完全に持て余します。また、一族郎党を皆殺しにする復讐劇なのに使える武器が握り拳だけでは、殺すまでに何十回殴らなければならないのか分かったものではありません。
この辺りは、インデックスの上条当麻の右拳にある幻想殺し(イマジンブレイカー)と、ヘヴィーオブジェクトのクウェンサーが持つ爆薬の違いを照らし合わせていただければすっとご理解いただけるかと。
(ただし、鉄板を軽々と両断する業物の日本刀を持っているが、常に峰打ちしかやらないなど、何かしらの縛りを与える事でクリアできる場合もあります)
また、個人的には主人公は一点特化型にしてしまう方がストーリーは作りやすいかな、と思います。
そちらの方が隙は多くなり、ピンチに陥りやすいですし……何より限られたカードを上手に使い回してあらゆるピンチを潜り抜けていく方が、『主人公がその武器に愛着を持っている、背中を預けている、研究し尽くしている』感を高められますからね。
多くの武器を持たせる場合は、それらを管理するアイテムを別枠で一つ用意する、というのも使える手かもしれません。一千の召喚獣を呼び出せる図鑑がある、などですね。この場合は毎回使う召喚獣が別物であっても、使えば使うほど図鑑への愛着は増していくものですし。
ちなみに、主人公を作るために基準値を用意する、という方法もあります。
想定される読者さんの過半数をプラマイ0とした上で、マックスはプラマイ100。では主人公の値(これは出自、勉強、スポーツ、金銭、対人関係、特殊能力、全てひっくるめた人としての値です)はどこにするか、といった方法ですね。
スタンダードだと、主人公はマイナス5か10くらいを意識します。
バトルとか信条とかはすごいけど、貧乏だったり不幸だったり女難だったり馬鹿だったり諸々まとめると読者さんより値が下になる、という感じですね。
ただ、これとは逆に主人公をプラス100くらいに設定する場合もあります。推理小説の名探偵や時代劇のサムライなどでしょうか。
始めに基準値0からのキャラ相対値を決めておくと、キャラ付けでの迷走を避けられます。例えばマイナス10に設定した主人公を作るつもりなのに『やたらスポーツ万能』『常に美人のメイドが五人掛かりで甘やかしてくる』などプラスの要素を足し過ぎると相対値が上がってしまい、本来あるべき位置を離れてしまう、といった弊害が生じます。
名前については、『主人公だけは読みやすいものにしておく』のが無難ではないかな、と思います。何しろ、一冊の原稿の中で最も多く出てくるのが主人公の名前ですからね。
続いてヒロインについて。
ヒロイン格(女性主人公の場合は男性キャラ)については、皆様の頭の中にある『理想の異性』を引き合いに出すのが一番ではないかな、と。……うう、エモーショナルな部分なので技術的に書く事があまりない……。
ただ、それをそのまま出す他に、もう一つテクニックがありますのでそちらを紹介します。
まずは頭の中にある『理想の異性』を思い浮かべます。これは人の心の中で一番デリケートな部分で、ひょっとしたらほんの少しも手を加えたくない方もいらっしゃるかもしれません。ですが、いったん心を鬼にして、一つ一つの単語を並べて説明してみましょう。例えば、黒髪、ロングヘア、巨乳、ぶかぶかセーター、優しい、年上、家事ができる……などなど。
その上で、作中に登場する全ての女性キャラに、それらの個性を一つずつ割り振っていく、という方法です。
『理想の異性』をそのまま出してしまうと、作り手がそのキャラに肩入れし過ぎて他のキャラの出番がなくなる、という現象が発生する事があります。それがメインではなくサブヒロインだと結構面倒な事に。
こういったエモーショナルな問題を回避するため、『理想の異性』の個性をバラバラにして複数のキャラへ分けていく事で、どのキャラも均等に活躍の機会を与えられるようになる(=作り手側の愛着が湧く)……といった心の動きを発生させる事ができます。
ヒロインの性格設定の上で分かりやすいのは、『何か一つ弱点を作っておく事』です。品行方正、才色兼備、文武両道、天下無敵のヒロインだけど、でも地図だけはどうしても読めない、などですね。
他のキャラクターと違って、ヒロインは基本的に見目麗しく、読者さんに不快感を与えにくい造形を目指すものですので、そのまま極めると逆にマネキン臭くなってしまいます。これを払拭しつつ、でも『理想』は崩さないために、わざと弱点を『一つだけ』作っておく訳ですね。
関連して、ヒロインにも主人公同様『欲』を与える事もできますが、その場合は食欲や睡眠欲など、より分かりやすくて微笑ましいものを選択するのがベターではないかな、と。
ちなみに、ビギナーの方向けのアドバイスをしますと、口調については、
『~わよ、~わね』
『~だよ、~だね』
『~です、~ます』
この辺りから始めて、要所に手を加えて個性を出していくのが近道かな、と。
例えば同じ敬語パターンでも、
『やーですよー、何だってわたしがそんな事しなくちゃなんないんですかー?』
(しなくちゃ、なんない、など砕けパターン。『ー』多用)
『了解。信号を承認、標的を捕捉、これより支援攻撃を開始します』
(言葉ぶつ切りパターン)
『本日は当館にお越しいただきありがとうございます。どうかごゆるりとおくつろぎくださいませ』
(ATMや電話ガイダンスのように丁寧だが無機質パターン)
など、味付け次第でいくらでも広がっていきますので、その人物の性格や立場などに合わせて口調を固めていけば、そこから十人十色に化けていくと思います。
また、例えば一つの作品の中に複数人敬語パターンの人間が登場する場合、その敬語パターンの人間が一堂に会するようなシーンはできるだけ避けるべきです。
同じ場所にさえいなければ、多少被っていても混乱は起きないと思います。
……奥の手としては、日本語は本当に優れた言語ですので、一人称を変えてしまう、という方法も。『私』『わたし』『ワタシ』『あたし』『ぼく』『わし』『わらわ』『キャラ名』などなど、これをばらけてしまうだけでも個性になりますしね。
ただ、海外翻訳版になった時にどうなるかの保障まではいたしかねます。
最後に敵キャラについて。
敵キャラについては、『そいつが何を得意とするのか』『どんな方法で主人公と戦うのか』を最初に決めた上で、名前、容姿、性格、能力などを決めていきます。敵が魔女ならステッキを持たせる、などですね。
主人公やヒロインと違って『読者さんに好かれる』必要がないため、多少奇抜な格好や言動をしていても問題ないように思います。
ここで注意しなくてはらないのは、敵キャラがしょぼくなると主人公も引きずられるようにしょぼくなる、という点。
憎い相手だから気が進まないとか、主人公とヒロインのイチャイチャを書きたいから手を抜くとか、そういう風には考えず、『主人公を際立たせるため、徹底的に敵キャラの細部を詰める』くらいの気持ちで書き込んでいきます。
敵キャラの信条については主人公とは逆で、共感させる必要は感じていません。『理解はできるけど納得はできない』くらいの温度感が大切かな、と。
よって、身近にある誰でも思う問題を解決しようととことん肥大化させていく内に本末転倒になる、といった風に味付けする事が多いです。
例えば、
『地球温暖化に歯止めをかけるため、地球人口を半分ほど殺してみよう』
などです。
また、大仰な事を考えている割に、根っこにあるのは身近な人の悲劇だった、というパーソナルな理由も用意する事で、敵側にも感情移入のきっかけを作れます。
この大きな理由と小さな理由は、乖離しては意味がありません。
大きな理由を解決すると、小さな理由も包括して解決する、くらいの温度感が大事なのでは。
ちなみに後述しますが、主人公サイドの場合は逆に小さな理由を解決すると大きな理由も解決できる、といった方が燃えます。例えば『目の前のヒロインを救うと戦争を回避できる』などですね。
敵キャラに魔法や能力を与える場合、頭隠して尻隠さず、といった塩梅が好ましいです。
初回登場時は絶対無敵の壁に見えるけど、でも角度を変えて眺めると普通に弱点があるぞ、と後になってから気づくパターンですね。また、その突破口は主人公側が持つ特殊スキルじゃないと活用できない、となればパーフェクトです。
例えば、
『敵キャラはグレネード使いで超高火力。まともに近づく事もできないが、電気使いの主人公なら敵キャラが手に持っている爆弾を撃ち抜いて直接起爆できる』
などですね。
補足として。
キャラクターのメインカラーを一つ決めておくと、キャラ付けがぐっと分かりやすくなります。例えばインデックスの白い修道服や座敷童の赤い浴衣など。
ただ、キャラクターのイメージとカラーリングが乖離してしまったら本末転倒です。
この辺りの色を決めるのが難しい、という場合は、色彩調節・カラーコンディショニングの書籍を頼ってみる、というのもアリです。電車の運転席は疲労を抑えるために薄い青で塗ってある、とかいうあの分野ですね。色彩にはそれぞれ人に与えるイメージがあり、それを専門に研究している方々もいらっしゃいますので、そうした助力を素直に受けるのが近道だと思います。専門書は高過ぎる! という場合は、近所の図書館や図書室を活用してみてはいかがでしょうか。
それから、一点だけ気をつけなくてはならない事があります。
白と黒はあてにならない、というものです。
この二つはパンチが効いていない、という意味ではありません。白と黒は共に強烈なカラーです。ただし、『白と黒の場合、二色目、セカンドカラーに何を置くかで印象がガラリと変わってしまう』という問題があるのです。
例えばメインカラーが黒の場合、
『黒+黄色で、ハチやクモのような警戒色』
『黒+スカイブルーで、高圧電流のスパークのようなイメージ』
『黒+赤で、悪魔的なモチーフ』
……などですね。
なので、白や黒をメインカラーに置く場合は、もう一歩だけ踏み込んで『二色目のセカンドカラーには何を置くか』まで考えた方が安全なのです。
また、もう一つだけ補足を。
こちらはほとんど反則的な手法ですが、極めて機械的にキャラクターを作る方法に、モンタージュがあります。
英単語の勉強などに使う手書きの単語帳、そう、金属のリングと厚紙でできたあれです。あれをいくつか用意して、リングで束ねた一つ一つに、
『髪型(ショート、ロング、ポニーテール、ツインテール、など)』
『年齢(それこそ0~100歳まで)』
『身長(高い、普通、低い、など)』
『体型(巨乳、普通、貧乳、など。より細分化するならスリーサイズでそれぞれ用意)』
『性格(快活、おしとやか、ボーイッシュ、生真面目、など)』
『系統(文系、理系、文化系、体育会系、優等生、不良、など)』
『服装(セーラー、ブレザー、ジャージ、着物、ドレス、など。必要なら武器の単語帳も)』
『メインカラー(白、赤、青、黒、など)』
こういった項目ごとに候補となる単語を片っ端から並べ、後は必要に応じて複数の単語帳をパタパタとめくり、その組み合わせでキャラを作ってしまう、という方法です。
どんな形であれ、頭の中だけで揉むよりも、外界にあるものを使い、手を動かしていった方がイメージはしやすい、というものですね。
……当然ながら、これは本当に最後の手段であって、あまり推奨はしません。機械的に作ったキャラクターには愛着が湧かない事もあります。ただ、どうしてもスランプを抜け出せず一人もキャラが作れなくなった場合や、一つのお話で雑魚キャラを何十人も用意しなくてはならず、頭のリソースがなくなってしまうといった場合などの心の安全弁としては、覚えておいて損はないかと。
キャラクターの名前は、主人公は分かりやすく、ヒロインや敵キャラは応相談、といったところでしょうか。こんな感じのパターンがあります。
『単純な名字+複雑な名前パターン』
井上氷柱(いのうえつらら)、田中真理佳(たなかまりか)など。一見読みやすい名字から始まってガクッと途中で詰まらせるパターンで、目を留める強い印象を与えられます。かつ、しょっぱなから難しい漢字のオンパレードよりは拒絶感が少ないのも特徴。面倒なら『井上さん』『田中さん』で省略してしまえば良い訳ですしね。
『能力や特性に尖ったパターン』
火坂煉助(ひさかれんすけ)、知念操次(ちねんそうじ)など。火炎系、精神系、などの能力がまずあり、それに由来した字面を当ててしまう、というやり方です。特に敵キャラに有効なパターンでしょうか。
『ありがちな名前の漢字を付け替えるパターン』
中村壱郎(なかむらいちろう)、鈴木狂子(すずききょうこ)など。本来普通にあるべき名前の組み合わせだが、使う漢字を別のものに組み替えてしまうやり方です。文字は違っていても読み方は同じなので、意外にするっと呑み込めてしまう効果があります。
ただし、元となった名前が何なのか、その骨格が分からないと効果が死にます。『錫機饗弧(すずききょうこ)』では原形を失い過ぎている、という訳ですね。
キャラクターのストックを溜める場合は、自分に一番合ったフォーマットを探します。
例えばTRPGのキャラクターシート、格闘ゲームのキャラ表、オンラインゲームのキャラメイク、TCGのカード解説、ここ最近ではソーシャルゲームのカード解説などなど。多くのキャラクターをまとめておくためのフォーマットというのはすでに存在するので、自分が興味を持っている形で、自分の作ったキャラクターをまとめておくと、いざ『とりあえず主人公とボスの他に三人くらい欲しい』といった時などに苦労しないで済みます。
ただ、ここで重要なのは、どれだけ楽しくても面倒で手間のかかる作業になるようなフォーマットは選ばない、という事ですね。