あらすじ、と言っても『序盤を描いた紹介ページ』ではなく『起承転結を全て箇条書きしたもの』という意味のものです。
 ここがプロットの一番の胆ですね。
 おおよそ文庫換算で250~400ページの長編小説を書くとして、どんな風に章立てしていくのか、もっと言えば『頭の中にあるモヤモヤっとしたイメージをみんなで共有するにはどんな形にすると分かりやすいのか』をまず考えます。
 一番まとめやすいのは、四章立てにしてしまう事です。これは起承転結を一つずつ当てはめる事ができるため、特に有効な手段だったりします。
 もちろん起承転結以外の形式、例えば序破急などに準拠する場合は三章立てにする事をオススメします。
 ここでは一番スタンダードな四章立てで例を出します。
 起承転結を各章に割り振った場合、それぞれの章で必要な項目は、

 一章・起
 世界観やキャラクターなど、基本的な情報を開示。このキャラの話だったら最後まで読んでみたい、と思わせるよう感情移入を促す。分かりやすく言えば、ラブコメなどを強く意識して増やしてみる。

 二章・承
 この世界におけるスタンダードなバトルを描く。中ボスを出すならこの辺。ここまでで、このお話の目的や着地点をいったん提示しておく。

 三章・転
 ネガティブなどんでん返しを用意する。倒せると思ったボスが倒せない、ボスを倒したと思ったのに裏に大ボスが待っていた、など。この時点で、主人公とヒロインを徹底的に追い詰める。ヒロインと別れなければならない可能性なども列挙する。
(故に、この三章までには完全に感情移入を済ませなければなりません)

 四章・決
 主人公側の逆転劇。絶対に倒せないと思ったボスを倒す。状況説明は三章までで終わらせてあるので、四章ではひたすらバトルバトルバトルで詰める。よほどひねった構成でない限り、主人公の勝利で終わらせる。

 などでしょうか。
 ちなみに、起承転結には序章と終章は入りません。この二つは起承転結で入らなかった情報を詰め込んでおくための空きスペースとして取っておきます。
 例えば一章の始めがいきなり長い説明パートになってしまう場合、前段階の序章ではラブコメに集中し、『最初に読者さんの心を掴んでおく』ために活用したり。
 逆に第一章から全力全開のラブコメをやる場合、作品全体が『軽く』なり過ぎないよう、序章で硬い世界観説明をして調整を施したり。
 序章と終章は『不足を補う』ためのものであり、『序章のために他の章を調整する』といった事はしません。


 このあらすじでは、起承転結などの構成の他に、回収するべき伏線や設定を並べて、回収し忘れを防止する、という大きな意味があります。
 何度も書いていますが、『頭の中では分かっている』は意外とあてになりません。そしてミスは忘れた頃にやってくるのです。


 また、もちろん起承転結に囚われないひねった作風を選択する事もあります。
『簡単な~シリーズ』などはその極みですね。
 ただし当然、基本から離れれば離れるほど『理解してもらうのが難しく』なります。
 だからやってはならない、ではなく、『難しくなってしまう』のを最初から考慮した上で、普通の話を書くよりもさらに丁寧に疑問を潰しておく事を心がけるのが大切なのかな、と。
 起承転結は極めて有効な章立てである一方で、スタンダード過ぎて展開を先読みされてしまうリスクも当然あります。起承転結に慣れてきたら少しずつ形式を崩していくのも、それはそれで大切なのではないでしょうか。


 ……と、ここまでお読みいただいた方ならお分かりの通り、短編ではこれを一章分のサイズで凝縮しなければならない訳で。
 一つのシチュエーションを切り取る、一瞬の時間に特化する、などでページを圧縮する事はできますが、基本的に短編は『残りページに余裕があり、比較的自由に書き込める』長編よりも難しいものです。
 ただ、短編が書けるようになると、今度は『一冊を通しての起承転結の他に、各章ごとに小さな盛り上がりを作れる』ようになってきます。
 時間を掛けて長編一冊分が書けるようになってきたら、他の形式の文章にも挑戦してみるのも有用だと思っています。
 それがエッセイであれ、ポエムであれ、作詞であれ、あるいはレポートであれ、作成できるものの幅が広がれば、基本である長編の方にもフィードバックできるようになりますので。
 ちなみに私の場合は、『ヘヴィーオブジェクト』では普通の文章の他に、超大型兵器オブジェクトのスペック表を織り込む、といった方法を使っています。
 小説は文字のメディアですが、基本を押さえた上でのスパイスとしてなら、こうした数字の羅列さえお話作りに活用できる、という訳ですね。ジャンルによっては、野球のスコアブックやサッカーの選手配置、料理のレシピ、楽譜なども使えるかもしれません。ただしこれはあくまでスパイスであって、大皿いっぱいに胡椒だけ山盛りにしてはならない、とも思っています。