まずご注意です。これから初めて小説を完成させようとしている方、まだ一度も小説を書いた事のない方は、この項目を読み飛ばしてください。ここで説明するのは『応募したけど落選してしまった時』の事なので、まだ応募をしていない方には関係のない話ですので。
 始める前から失敗のイメージをつけてしまうとマイナスの効果しか生まないため、絶対に読まないでください。
 では、該当する方だけどうぞ。


 率直に言って、この項は失敗から学ぶ、敗者復活のためのロジックです。
 もしもあなたが電撃小説大賞など何かしらの小説賞に完成原稿を送って、芳しい返事が得られなかった場合。web小説として公開してみたけど人気が伸びなかった場合。その時は、自分で自分の原稿の何が悪かったのかを精査するかしないかで、その後の伸び幅が大きく変わります。
 落ちたんだからもう原稿データはいらないや、消去……ではなく、きちんと精査してみる事をオススメします。
(加えて、その原稿も捨てずに保存しておく事も強く推奨します)
 この問題はプロになっても普通に起こる事で、原稿を書いたけど没になった、出版できなかった、などの事例は事欠きません。……私も辛いのであまり具体例は出したくありませんが、でも直視しないと先へは進めないのですよ……。
 失敗はプロになってからでも普通に直面する問題ですので、失敗しないのはもちろん、失敗するだけでは終わらせない方法論を身に着けておくのは絶対に有意義なはずです。
 そして大前提として、世の中にはつまらないものを作ろうと目指して一〇〇%完璧につまらない作品ができた、などという作品は存在しません。みんなが面白いものを目指し、究極の一冊を作ろうとして、それでも結果に差が出てしまうのです。
 では、何が問題だったのか。
 失敗から学び、次へ繋げるべく、共にもう一度原稿と向かい合ってみましょう。


『パターン1。作家の思う面白いと、読者さんの望む面白いの間に誤差がある』

 オリジナリティを追求した結果、いわゆる王道から外れすぎてしまい、読みにくい、文字を目で追うのが引っかかる、疲れてしまう、といったケースですね。
 この場合重要なのは、『自分の望むストーリーを理解してもらうため、分かりやすい架け橋を用意できているか、否か』といった部分です。
 例えば潜水艦を使った手に汗握る海洋バトルを書きたい! と思ったとして、乗組員の最年少が三〇歳、最年長が六五歳、全員むさ苦しい男性。……リアルなのですが、はて中高生メインのお話に相応しいかと問われれば首をひねるでしょう。
 その場合、

『潜水艦そのものを実習艦や教導艦、つまり学校にしてしまい、乗組員を全員学生にする』
『周りはむさ苦しいが、何故か艦長だけは美少女にする』

 こういった『分かりやすい』努力が、『理解への架け橋』となります。ようは、『読んでみれば面白い』のですから、『試しに手に取ってもらえるように』最初の入口だけでも大きく間口を広げて、その後に続く深い深い作品世界へぐいぐい引き込もう、という訳ですね。
 最も大事なのは、『メイン層となる読者さんは誰で、何を望まれているか』を強く意識する事です。
 例えば中高生男子をメインと想定した場合、彼らに理解のできる内容にしなければなりません。従って、『パチンコ、パチスロ、競馬などをテーマにした作品は難しい』という訳ですね。
 とはいえ、難しいだけで不可能ではありません。
 そうした場合、たとえ話などの表現を徹底的に中高生向けにアレンジするなど『本物を知らなくても作品を理解できる』ようにするための努力が不可欠となります。その極致はファンタジーやスペースオペラなど、舞台設定そのものが現実世界から大きく離れているお話ではないかと。
 もちろん硬派な道を貫き、時代が追い着いてくれるのを待つのも一つの道です。ただ、もしも柔軟に対応できるのでしたら、ちょっとした迂回路を模索してみるのもいかがでしょう。


『パターン2。作家の思う面白いと読者さんの望む面白いは重なっているが、それが伝わっていない』

 ジャンルやキャラクターなどがジャストミートしているはずなのに、何故か読者さんの心を掴めない、というパターン。その場合は、キャラクターの口調や主義信条に『引っかかるもの』がないかどうかを精査してみます。
 ようは、正しい種は植えたけど芽が出ていない状態なのです。しっかりと育てて奇麗な花を咲かせれば成功の道が開く、というパターンですので。
 このケースでありがちなのが、『主人公やヒロインが胸に秘めている想いが、読者さんに理解されていない』という問題です。
 例えば主人公がヒロインに辛く当たっているのは、ヒロインを最強の聖女にしたい、過酷な戦争の中でも彼女に生き残ってもらいたい、という想いの裏返しだったとします。
 ですが、この想いが分からなければ、ただ意地悪しているようにしか映りません。
 もちろんキャラクターの心情を一〇〇%台詞で出し、『僕はあなたの事がだいだいだい好きなんです』と臆面もなく語ってしまうのは論外ですが、受け入れられなかった場合は、挙措や態度など、もう少し分かりやすく表現してみるのも一つの手です。
 言外に語る、というのは上級者テクニックで、一般的には行間に隠したワードは完璧には理解してもらえるとは限らないものとみなすべきですからね。
 他にも、

『最強の兵器やスキルが本当に最強っぽく見えているか』
『架空の街や大陸が魅力的に見えているか』
『主人公やヒロインのビジュアルが、その説明だけでパッと頭に浮かぶか』
『その真相に辿り着くために必要な情報(=伏線)は全て揃っているか』
『感情を盛り上げる段において、途中で余計なノイズ(例えば今すぐ飛び出さないとヒロインが死ぬという状況において、主人公自身の死の恐怖の方ばかり描写するなど)が挟まって、変なブレーキが働いていないか』

 なども、一通りチェックしてみて損はないと思います。


『パターン3。優れた内容なのに、作品そのものに興味を持ってもらえなかった』

 身もふたもない、とがっくりする前に話を聞いていただけますと。
 これは、特にバトル、ラブコメ、ホラー、スポコンといった分かりやすいジャンルの枠に入らない作品に当てはまる問題です。どのジャンルか分からないから、面白そうかどうか分からないから、敬遠してしまう。実際に読めば面白いのに、最後まで読んでくれない。または最後まで読んでもらえたが、根幹となるテーマを分かってもらえなかった。そういった問題ですね。
 こうしたケースに当てはまるか否かをチェックするのに簡単なテスト方法があります。
 例えば電撃文庫の新刊には『帯』というものが存在します。本を手に取っていただければお分かりの通り、文庫の下の方、四分の一くらいを隠す宣伝用の紙巻きがありますよね。あれの事です。
 あそこに入る文字は、せいぜい三〇から五〇程度。
 タイトル、表紙イラスト、そしてこの帯だけで宣伝をしなくてはならない……と考えると、この『帯』だけで作品の素晴らしさをまとめられるのか、というのはとても大きな問題になってきます。
 バトル、ラブコメ、ホラー、スポコンなど、分かりやすいジャンルがある場合は、それを素直にそのまま書くのが近道です。『鎌池和馬が贈る最新鋭召喚術バトル!』などですね。
 ただ、ジャンルの定まっていない作品の場合は、何か別のものを用意する必要があります。作品テーマであれ、キャラの魅力であれ、特殊設定であれ……。その作品を語る上で絶対必要な、逆に言えばこれさえあれば作品の風景を切り取れる何か。
 これをパッと浮かべられれば、その作品は『ふわっと』はしていません。今回のケースには当てはまらないでしょう。
 浮かばなかった場合は問題です。作品全体のイメージが『ふわっと』していて軸がない(あるいはあるのに見えない)、宣伝の仕方が分からない作品になっている可能性があります。
 ……解決方法はシンプルで、その作品の中に一本の明確な『軸』を作る事です。
 例えば、バトルもラブコメも何もない。だけど突き抜けた自由な青空を体一つで飛ぶ感覚がどこまでも気持ち良いんだよー、という話を書きたい場合、それを『ホウキに乗って』『ドラゴンに乗って』など、分かりやすいセンテンスでまとめ直してみる、というのはいかがでしょう。
 この場合、青空を飛ぶ感覚それ自体は本文を読まなければ分かりませんが、ホウキやドラゴンといった既存のツールが存在するため、

『魔女のホウキと巨大なドラゴンが飛び交う異世界で「天」を目指せ!』

 ……と、『帯』にはっきりとした、みんなでイメージを共有できる宣伝を突っ込む事ができるようになるのです。そして『帯』に書けるくらいですから、一目見ただけでどのようなビジュアルかもある程度推測ができる、つまり『最後まで読まなければ面白さが分からない=ならいいや』という負のスパイラルを抜け出せるチャンスが回ってくる訳ですね。


『パターン4。出し惜しみをしすぎている』

 主人公もヒロインも重厚で深みがあって魅力的なのに、どうしてここまで練りに練ったキャラクターが受け入れられないのだろう、という場合に発生するケース。
 これは『続きもの』を意識するあまり、最初の一巻目では情報を出し惜しみしようとすると頻発します。前述の通り、読者さんはエスパーではないので、『文章に書かれない事』を理解してもらえるとは限りません。構想五〇年だろうが、その作品を作るために二〇〇〇ページの設定資料があろうが、本文に載っていない情報は『推測』するしかないのです。
 主人公の過去は封印しておきたい、ラスボスはまだまだ出てこない、これはほんの序の口……分かります、すごく分かります。それは紛れもなく作品に対する愛があるためです。ただし『それなら、その秘密がなくても十分面白いものを作れているか』という問題をもう一度強く頭に浮かべた上で、原稿を読み直してみるのも一つの選択です。
 明確な秘密として隠しているのに、その秘密の中身が分からないとキャラクターや世界観が輝かない、ではあべこべなのです。例えば『主人公の正体は大天使である』という情報を隠して話を進める場合、『実は大天使なのに薄給でバイトに明け暮れている主人公カワイイ』といった演出は期待できません。それでニヤニヤできるのは作者だけなんですよね。


 ここで、やや本題からは外れますが、でもちょっと掠る話を一つ。
 個人的にはシリーズ最初の一冊目は、それだけで楽しめる、それ以外の負担や出費を読者さんに強いらせないようにするべきではないかな、と考えています。つまり一冊目は、一冊目として完成させる。続きの二冊目を出せる権利をもらえるのは、一冊目を見てもらってからだ、と。
 もちろん間髪入れずシリーズを展開させたい場合、勝手に二冊目、三冊目を書き進めるのは可能です。ですが、それが実際に出版されるか否かは、一冊目のジャッジ次第。そこで否定されれば、一〇冊だろうが二〇冊だろうが、事前に書き溜めた原稿はお蔵入りになると覚悟を決めるべきなのです。
 これは応募原稿にも当てはまります。最初の一冊目がジャッジに落ちたらそれまでなのに、出し惜しみをしてはみすみすチャンスを棒に振るようなものです。『ここだけは隠しておいた方が美味しい』と確信を持って断言できるもの以外は、血の一滴を搾り出してでも書き込むべきです。それが、一%でも〇・一%でもデビューへの道に近づき、人気作となる鍵なのですから。その積み重ねで一〇〇%の値をもぎ取る事こそが目的のはずなのですから。
 ……ただし、これは『資料集を二〇〇〇ページ作ったから、取捨選択なしに二〇〇〇ページ分全部載せちゃえ』という話ではないのであしからず。『渾身の隠し球』と『不要な情報』は明らかに違うものですので。


『例外。読者さんを攻撃している』

 ご法度中のご法度です。
 ……まあ、たまにプロ界隈の作品でも見られる現象なのですが。
 メインターゲットを中高生男子に設定しているのに、作中の人物(それも主人公やヒロインなどメイン格)が徹底的に中高生男子という存在を全否定してしまう、というものです。それはまあ読者さんからすれば、自腹でお金を払って趣味の時間を潰して何をやっているんだろう自分、という気分にさせられますよね。
 これは、『誰に向けて、誰を楽しませるために書いている作品なのか』の部分で迷走すると起きる現象ですね。
 読者さんは主人公に肩入れし、ヒロインを好きになる。これが理想なのに、その主人公やヒロインが読み手を排除してしまった場合、作中に肩入れするべき居場所がなくなってしまう、という訳です。
 これは、作家当人にその自覚がないケースもありますのでご注意を。
 例えば『ラスボスをムカつくヤツにしたいから、主人公を全否定しよう』と考えた際、度が過ぎて肩入れしているメインターゲットにまで罵声を吐いている、というパターンです。
 注意すべき項目として、

『メタ発言に気をつける』

 というものがあります。作中のボスキャラが主人公に台詞を吐いている内はセーフですが、どうもボスキャラが作品設定を飛び越えてリアル世界について語っていないかこれ? という場合、その中に読者さんを直接攻撃するワードが紛れている危険性があります。
 これは前述した事ですが、一番危険なのは『状況説明独り言』です。主人公が『誰に』向けているでもなく、ただシーンを回すために、声に出してぶつぶつ語っている台詞。これは『ページの枠を飛び越えて、キャラクターが直接読者さんを認識している、語りかけている』とみなされる場合がありますので、ここに読者さんを攻撃するような台詞が混じると、ダイレクトに突き刺さってしまいます。また、『そういう意図はなかったのに』という事故を起こしてしまうケースにも繋がるおそれがあります。
 メタ発言そのものにも賛否はあると思いますが、メタ発言が好きで多用したい場合は、この辺りに気を配ってみましょう。
 他にも、いわゆる毒舌キャラを登場させる場合は、明確に作中の『誰に』向けた台詞であるかを提示して、あらぬ誤解を受けないよう十分な配慮をする必要があると思います。