【あとがき】



 そんな訳で鎌池和馬です!!

 今回のテーマは災害環境シミュレータ。大災害が発生すると一つの大都市から何十万単位の人がどこへどう逃げるのか、その時渋滞などの混乱は起こらないのか、そして遅滞している間に被害は拡大しないのか。そんなのを調べるスパコンのプロジェクトがあるようで。画面の中では本当に小さな米粒みたいな『人影』がわらわらわらわらー!! と地図上を一斉に動いている訳です。面白いような、ちょっと怖いような、こうして今生きている自分が実はデータの中ではどこへ逃げても確実に助からない『詰み』の状況とかだったらやだなあ……とか何とかもやもや思いまして。

 この機械化した死神の予言と、さあ何を組み合わせたら盛り上がるかな……! という考えで、ひねり出された答えは『ゾンビと吸血鬼の大戦争』でした。

 この二つのイメージはどっちも人に噛み付いては仲間を増やし、やがては一つの街をも呑み込んでいくパニックホラー。ですが本文で語った通り、冷静に考えてみると同じパニックホラーでもかなり質が違うんですよね。

 ゾンビの方はひたすらに数を増やし、明らかに異常な事態が進行していると誰の目にも明らかなのに止められない、その圧倒的な多数決の暴力でもって都市インフラを完膚なきまで破壊する。言ってみれば『頑丈な暴徒の群れ』。

 吸血鬼の方は見た目が見目麗しいのが幸いに、人間社会に溶け込みながら少しずつ仲間を増やし、気がついたら都市インフラの根っことなる重要部分を丸ごと乗っ取っている。しかも噛み付きという秘密の儀式がえらく血腥い。言ってみれば『カルトの支配』。

 ……これは明確な一個の答えの出ない質問ではありますが、皆様にとってはどちらが恐ろしく感じましたでしょうか?

 今回はシミュレータ要素を強く出すために、主人公のサトリとパートナーのマクスウェルをどこかすっとぼけた調子にして、ちょっと離れた位置から状況を観察するような文体を目指してみました。なので、パニックホラーを題材にしているものの、『そのもの』とはまた違った雰囲気になったと思います。やっている事は凄惨でも、案外サクッと読めてしまうような軽めの入口となる一冊を目指してみたのですが、いかがでしたでしょうか。

 この辺りのパニックホラーは『俺だったらこうする』『私だったらこうなると思う』というifの自分をいかに投入するかで面白さが変わってくると思います。主人公達の言動はその手助けとなるように努力してみました。ゾンビと吸血鬼で溢れ返った街の中で、是非ともあなたなりの冒険を楽しんでいただければと思います。



 イメージイラストの真早さん、担当の三木さん、小野寺さん、阿南さんには感謝を。自分で書いておいて何ですが、今回のお話は災害環境シミュレータというギミックを一枚挟んでいるため、かなり『カラー』が難しい作品だったと思います。単純なホラーではなく、かと言ってギャグというほど明るくもない。ややこしい構造でしたが、お付き合いいただきありがとうございました。

 そして読者の皆様にも感謝を。もちろんTPOなど条件次第でいくらでも変わってきそうですが、皆様は吸血鬼とゾンビ、どちらの群れが勝利すると思いますでしょうか。できる事、やってる事は極悪でも、根っこのところは優しい彼女達を気に入ってもらえたら幸いです。



 それでは、今回はこの辺りで。


 ……シミュレータを一人で組んだ主人公も主人公でバケモンかも?     鎌池和馬