俺を好きなのはお前だけかよ


第三章 俺ってほんと、どこにでもいる平凡なモブなんだ


 俺の名前は如月雨露。通称ジョーロ。

 俺の名前から「月」を取ると「如雨露」になる。だからジョーロ。単純な話だろ?

 容姿並……よりちょっと上。成績並……よりちょっと上。運動並……より割りと上。

 何をやってもちょっぴりパッとする高校二年生の男子だ。

 中学時代も男女問わず、皆とそこそこうまくやれていたし、自画自賛ではない……はずだ。

 部活動はやってねぇけど、去年の十月から生徒会で書記をやっている。

 特に立候補などをしたわけではねぇけども、今年の生徒会長が美人だったから、副会長になった奴とそれなりに交流があったので、頼み込んで推薦してもらった。

 そいつには「単純作業で僕にかなう奴はいないんだ!」とゴリ押ししたらなんとかなった。

 世の中、案外なんとでもなるもんだ。

 ……なに? 最初と自己紹介が違う?

 あんなん嘘だよ。嘘。ああやって紹介しとかねぇと、こっちにも色々あるんだ。

 だって、ああしないと嫌われるかもしれないじゃん? 主に……読者さんとかに。

 それって怖いし……ねぇ?

 つうわけで、心の声では本性を露にした俺だが、このキャラを外面に出すつもりはない。

 俺の学校での印象は、僕僕キャラの巻き込まれ系鈍感&純情BOYとして確立しているのだ。

 今更、こっちのキャラ(本性)を出したら全てが崩れ去る。

 故に、このままのキャラで高校生活は押し通すつもりだ。

「おっはよー! ジョーロ!」

「おはよ。ひまわり」

 いってぇな。背中を叩くな背中を。

 てめぇに叩かれると、背中にくっきり紅葉ができんだぞ?

 体育の前の着替える時間に、ジークフリートとか言われる俺の気持ちを少しは考えろボケ。

「昨日はありがとね」

「あ、うん」

 ぶっちゃけ心の中では怒りの炎が燃え盛っていたが、俺はそれを外には出さない。

 まだチャンスはあるのだ。コバンザメ作戦のためにも、好感度を落とすわけにはいかん。

「あ、あのさ……。それで、昨日のことなんだけど……」

 もじもじと言い辛そうに振る舞うひまわり。

 仕方がない。ここはポイント稼ぎも兼ねて、俺から言ってやるとするか。

「僕に任せてよ。ちゃんとひまわりの手伝いをするからさ」

「ほんと? よかったぁ。わたし、どうしたらいいか、分からなくてさ!」

 へいへい。分かってますよ。ちゃんとお手伝いさせていただきますよ。

 ま、こっちにもちゃんとメリットはあるしな。

 しっかりと協力しておけば、もしこいつがフラれた場合、いい感じに……クックック……。

 が、協力の前に、俺の保身を優先させてもらおう。

「あ、でもその前に……」

「ん?」

「これは言っておかないといけないと思ったから言うんだけど、僕さ、コスモス会長にも同じこと頼まれてるから」

「えぇぇぇ! 何それ!」

 そっくりそのままこの台詞を返してやりたい。

 俺の状況の方が遥かに、『えぇぇぇ! 何それ!』だ。

 まぁ正直、俺もこれを言うかはかなり悩んだが、素直に言う方を選んだ。

 後でコスモスにも同じことを伝えるつもりだ。

 どっちにもいい顔をして、その後にバレてお前はどっちの味方なんだと二人に同時に責められてはたまったものではない。

 そんな愚行を俺はしない。

 先手必勝。こっちが先に情報を開示するのだ。

「土曜日にね、ひまわりと同じことを相談されて頼まれたんだよ」

「うぅー……。コスモス会長。やっぱりそうだったんだ!」

 てめぇ、気づいてたのかよ! やるな。

 俺は、てっきりコスモスが俺を好きだと期待に胸を膨らませていたよ。

 そして、膨らみすぎてそのまま破裂したわ。

「こないだ視察に来た時に、その後野球部に行くって言ってたからね! どう考えてもうちのテニスコートから野球部の練習を見に行くのは非効率なのに! それに前々からあの女、やけにサンちゃんを気にかけてたし、怪しいと思ってたんだ!」

「そ、そうなんだ……」

 それでてめぇは俺にボールをぶつけてきたのか。人を八つ当たりの対象にするな。

 本人にやれ本人に。今なら俺が許す。やってしまえ。

 ついでに声がこえぇよ。ブラックひまわりさんのご登場って感じだわ。

 ナチュラルにコスモスを「あの女」呼ばわりしてて俺の心はドン引き状態だぞ。

「でね。僕なんだけど、二人ともに協力するつもりだから」

「えぇ! ジョーロはわたしの味方じゃないの?」

「もちろん味方だよ。でも、コスモス会長の味方でもある。だから二人ともに均等にサポートする。僕にだって立場はあるし、頼んできたのはコスモス会長が先だ。どっちがサンちゃんと付き合うことになっても恨みっこなし。嫌なら僕は協力しない」

「うっ!」

「それと、この話は今日学校に行ったらコスモス会長にもするつもりだから。ひまわりだけがこの事情を知っているのはフェアじゃないしね」

「えーやだぁ!」

「昨日、内緒にしてとは一言も言ってないよね? それなのに今更文句を言うのは卑怯だよ」

「ぶー!」

 ハムスターのように頬をプクリと膨らませて、「文句があります」と露骨にアピールしてくるひまわりだが、それはもう俺には通用しない。調子に乗んじゃねぇ。

 大体、俺に協力を頼んでいる時点で十分卑怯(ひきょう)だ。

 そのまま秘境(ひきょう)にでも行け。そこでウンバーウンバー現地人と仲良くしてろ。

「でね、ここからは今後の作戦の話だよ」

「え! 考えてきてくれたの?」

 尻尾がこいつに付いていたら、垂れ下がっていたのがピョンと上がる感じの動きだ。

 ああ、可愛い可愛い(棒読み)。

 ちゃんとモブとして、君のために考えてきましたよぉ~っと。

「もちろんだよ」

「わぁ! ジョーロ、ありがとぉ!」

 ひまわりは俺の言葉が嬉しかったのか、俺に抱きついてきた。

 ほのかに甘い石鹸の香りが鼻孔に届き、ほんわかと心がときめく……わけねぇだろが!

 この天然系ビッチめ! 貴様の行動でどれだけ、俺が騙されたと思っている?

 もう二度と騙されん!

 だからしばらくそのままでいろ! できればもっと密着率を上げてな!

 もっとしっかりがっしり、決して離さないように強くな!

「よっと。……それで、どうするの?」

 すぐさまパッと離れおったぞこやつ! おのれ……。これがモブの限界であったか。

「まず、ひまわりの印象を変えることから始めよう」

「わたしの印象?」

「そう。こういう場合、一番大事なのは、『まずは相手に自分を知ってもらうこと』だと思うんだけど、ひまわりはこれに関しては問題ない。サンちゃんとは中学時代からの長い付き合いだからね。けど、それがデメリットにも繋がってるんだ。今までの印象が原因で、サンちゃんにとって、ひまわりは『女の子』じゃなくて『仲の良い友達』なんだ。言ってる意味、分かる?」

「うん……。サンちゃん、いつもわたしと遊んでくれるけど、ジョーロと一緒にいる時とそっくりだもんね」

「その通りだよ。だから、まずはその印象を変えよう。ひまわりを『女の子』としてサンちゃんに認識してもらうようにする。これだよ」

「ジョーロ……。すっごぉい……」

「それで一つ目の作戦だけど、今日から僕と一緒に教室に入るのはやめよう」

「へ、なんでぇ?」

「サンちゃんは、僕とひまわりを恋愛絡みで、よくからかってくるでしょ?」

「……うん」

 俺の言葉にシュンとするひまわり。まぁ、そりゃ気にするわな。

 好きな相手から別の相手に気があると思われるのは、きついだろう。

「その原因の一つは、僕とひまわりが一緒に登校しているからだと思うんだ。だからそれをやめる。ただ、学校に通うまでの道は一緒に行こう。そこで僕が考えてきたことを伝えるからさ」

「なるほどぉ! ジョーロ、さすがだね!」

「多分初めは、いきなり僕達が一緒に来なくなったら、サンちゃんが疑問を持つだろうけど、それでいい。僕達は付き合っていないということ、ひまわりも僕もお互いを異性として意識していないってことを伝えられるから。だけど、教室ではいつも通り仲良く話す。喧嘩してるって誤解されちゃうかもしれないからね。だから今日からは、あまり仲が良すぎる様子は見せない。それと、一緒に教室には入らない。学校の少し手前で別れる。わかった?」

「うん! ばっちりだよ!」

 そうかそうか。理解度が高くて助かるよ。

 なのにどうして、俺の気持ちをまるで理解してくれていないのかな?

 え? どうでもいいから? めっちゃ、むかつくな! 自爆ですけど!

「それじゃあ、今日から早速それで行こう」

「おっけー! それじゃあ学校まで……レッツダーッシュ!」

 話を聞いたひまわりは変に張り切って、俺の手を取って猛然と走り出した。

 作戦を伝えたんだから、これ以上てめぇと俺が一緒にいる意味はねぇだろが。

 いちいち俺を巻き込むんじゃねぇよ。まぁ……。遅刻はしなくていいけどな……。



 ……疲れた。学校手前でひまわりとは別れたが、とにかく疲れた。

 なんだって俺まで、あいつのランニングに付き合わされにゃならんのだ。

 まぁいい。とにかく教室に入るとしよう。

 お? ひまわりの奴、早速サンちゃんに話しかけてんな。

 なら、二人の世界を堪能してもらうとするか。モブキャラは空気を読みますよっとさ。

 というわけで俺は、二人に対して声はかけず、静かに自分の席に着いた。

 ついでに、この後の作戦でも考えるとするか。

「おーい。ジョーロ!」

 と思っていたが、サンちゃんがこっちにやってきた。作戦を考える時間はなさそうだ。

「どうしたのサンちゃん?」

「あのさ、お前とひまわり。なんかあったの? 今日、別々に来たよな?」

「いや、何もないけど?」

 当然ここはすっとぼける。

 当たり前だ。サンちゃんにこの件がバレるのは、なんとしても避けなくてはならない。

 しかし、このまま言及されるのは少しめんどくさい。

 俺はひまわりに目で合図をして、こちらに来るように促す。

 それを見たひまわりは、コクコクと頷いた。

 ……ん? 腕を広げてこっちに来てるし、さてはサンちゃんに背後から抱きつくつもりだな。

 なるほど。天然系ビッチならではの中々にナイスな作戦じゃねぇか。

 よしいけ。てめぇのBカップの破壊力を見せてやれ。

「ジョーロ、サンちゃん! ずるい…………ぞぉ! 二人で仲良く話して!」

 やらねぇのかよ! なんであと一歩のところで、ひよってんだよ!

 しかもそのままのポーズできやがった。その広げた腕をどこに収集するつもりだ?

「お! じゃあひまわりも一緒に話すか?」

「うん! 話す話すぅ!」

 嬉しそうにピョンピョン跳ねるな! まず、自分の失敗を反省しろ!

 てめぇは今、一つのチャンスを失ったんだぞ!

 ……ったく、しゃあねぇなぁ。今度は失敗しないように、俺で練習させておくか。

 非常に遺憾で、嫌で嫌で仕方がないが、特別に俺の背中に抱きつかせて練習させよう。

 絶対にな!

「そうだ! サンちゃん、わたしね、昨日映画観たんだ!」

「へぇー。そうなのか?」

 ほう。てめぇにしては、いいチョイスの話題じゃねぇか。

 それなら「今度はサンちゃんも一緒に行こう」と、ごく自然な流れで誘うことができるぞ。

「うん! 昨日、ジョ……」

 ぶわっかもんがぁぁぁぁ!

 何おもっくそ、俺と一緒にいたってを露呈しようとしてんだ! ダメに決まってんだろが!

 んなこと言っちまったら、またいつものパターンになるって、考えて行動しろ!

 ったく、咄嗟に俺が目を見開いて、ひまわりの爆弾発言は止めたが、どうすんだよこれ?

 いきなり発言が止まったから、サンちゃんが眉をひそめてんじゃねぇか。

「ジョ? どうしたんだひまわり?」

 俺、知ーらねっと。

「ジョ、ジョ…………ジョージョエン・スカイウォーカーの演技がすごくよかったの!」

 なんだその、焼肉屋とフォースが合体したかのような俳優名は!

 『ジョ』の後だったら、『ージ・クルーニー』とか、『ニー・デップ』とか、『ニー・ライデン』とか色々あんだろが。なぜ自分のオリジナリティを追及した?

「へぇ~。ジョージョエン・スカイウォーカーか。俺は聞いたことがない俳優だな」

 そりゃ、架空の人物ですから。メイドバイひまわりさんの人物ですから。

 ……ん? 何かひまわりが俺を涙目で見つめてきているぞ。これはアイコンタクトだな。

 えーっと……。なになに?

『ナントカシテ』

 無茶振りすぎるわ。もうちょっと具体的な指示をよこせ。

 ジョージョエン・スカイウォーカーに勝る話題なんて、ヒョイヒョイ出てくるかっつーの。

 が、一応、協力することになってるしな。ここでひまわりから俺への印象を下げてしまうと、こいつがくいっぱぐれた時にコバンザメできなくなってしまう。

 ならば見せてやろうではないか。モブキャラの力というやつをな。

「ねぇ、ひまわり。それって、一人で観に行ったんだよね?」

「う、うん! そ、そうだよ!」

 ここで説明しよう! 俺のこの発言には、二つの意図がある!

 一つ、『ひまわりが一人で映画に行っている』という意図。

 二つ、『その情報を俺がサンちゃんより先に知らなかった』という意図。

 これによってサンちゃんは、ひまわりに特定の男……つまりは彼氏的な存在がいないのだなと想像し、さらに、俺が自分よりも先に情報を知り得る存在ではないと理解できるのだ。多分!

 完璧なフォローではあるが、ひまわりの視線が右往左往しているのが、不安でならない。

「そっか……。ねぇ、サンちゃんは最近、映画とかは観に行ってる?」

「いや、ずっと部活ばっかだし、あんま行ってないなぁ」

「じゃあさ、今度ひまわりと一緒に行ってきたら? ひまわりって、昨日は一人で観に行ったみたいだけど、本当は誰かと一緒に映画を観に行くのが好きらしくってさ。ほら、観終わった後に感想とか言えるしね」

「そりゃ、確かにそうだな! ってなら、ジョーロと行けばいいんじゃないのか?」

「ひまわりと僕ってさ、映画の趣味が違うんだよね。サンちゃんとひまわりは話も合うし、映画の趣味も似てると思うんだ。だから、どうかなって」

 どうよこれ? 天才じゃねぇ? ジョージョエン・スカイウォーカーを吹っ飛ばした上に、完膚なきまでのパスをひまわりに放ってやったぜ。さぁ、決めちまいなひまわり!

「わたすも、サンぢゃんどいぎだい!」 

 はい! 俺のサポートが木っ端微塵に砕けましたぁ!

 いったいそれは、どこの地方の方言でしょうかねぇ?

「そ、そうか? へへ……何か嬉しいな」

 おい。まじか。奇跡が起きたわ。ここでサンちゃんが頬を赤らめたわ。

ってことは、サンちゃんって、案外ひまわりのことまんざらでもないんだな。

「サンぢゃんに喜んでもらえるんど、わたすも嬉しいだぁ」

 うん。ひまわり地方のひまわり弁は置いておくとしても、これは良い返しだ。

 いいぞ。その無邪気さを使って、どんどんサンちゃんを攻め立てなさい。

 後のことは任せろ。俺はコスモスと幸せに過ごす。

 ……が、残念ながら、それ以上進展せず、その後俺達は三人で何気ない会話をして過ごした。

 まぁいい。こうして俺とひまわりが普通に話しているところを見せることで俺達が喧嘩をしたわけではないとサンちゃんにバッチリ伝わったからな。

 当初の目的は十分に果たせている。

 そして、いい情報が得られたぞ。サンちゃんはひまわりからの言葉で照れる。

 つまり女としては、意識しているってことだ。



 ……っち、もう放課後か。

 行きたくねぇけど、行かねぇわけにもいかねぇしなぁ……。

 HRが無事終わると同時に、俺は足早に生徒会室へと向かった。

 うちのクラスの担任はいい意味で適当だからな。HRが終わるのが早い。

 他のクラスよりも大分早く終わるこの時間を利用して、生徒会が始まる前にコスモスに作戦を伝えられる。

 ちなみにコスモスは、絶対最初に生徒会室にいる。

 どんな手を使っているかは知らないが、それは絶対だ。

 コンコンとノックをし、「どうぞ」という声を聞いてからドアを開ける。

 ほら、やっぱりいた。

 ノートをパタンと閉じ、ニコリと麗しく笑いかけやがって……。

 てめぇがそんな瞳を向けるから、俺が騙されるんだ! 無知は罪と知れ!

「やぁ。ジョーロ君」

「こんにちは。コスモス会長」

「そうだ。土曜日はありがとう。とても嬉しかったよ」

「いえいえ、こちらこそ」

 これが女神の微笑なんだろう。すごくよく分かる。

 がそれも土曜日まで。今の俺に効果はまるでない。じめんタイプに十万ボルトだ。

「今、コスモス会長は時間ありますか?」

「ん。そうだな。まだ開始時間ではないし、少しだけなら」

 よし。それならさっさと話を切り出そう。

「それじゃあ、土曜日の話なんですけど」

 そう言った瞬間、コスモスの体がビクンと固まった。

 すげぇな。普段からぜってぇ取り乱さないと思っていたのに、俺の一言でこれかよ。

 まさに恋する乙女だ。俺にも是非、その視線を向けてほしかった。

「な、なんだい? ここで話しても平気なのかい?」

 シュバっとノートを開き、構えるコスモス。凄まじいやる気である。

 いいやる気だ。そのやる気に応えて、俺も全力でサポートさせてもらおう。

 そしてもし、てめぇがフラれた場合はこの俺と……クックック……。

 おっと、いかんいかん。まずは保身を優先しなければ。

「まぁ誰も来ていませんし、大丈夫でしょう」

「そ、そうだね! どうせ他の者は開始時間まで来ないしね」

 その通り。

 俺はコスモスを一秒でも長く見たい、少しでも好感度を稼ぎたいから早めに来ていたが、他のメンバーはそこまで頑張ってはいない。

 早くても開始時間の五分前にしか来ないのだ。つまり、時間はまだたっぷりある。

 ま、モブキャラどもは空気をちゃんと読んでくれますよってやつだ。

 ……すでに、俺も同じポジションへと落ち着いてしまっているがな。

「ですがその前に、伝えておかなければならないことがあります」

「ん?」

「実はひまわりにもコスモス会長と同じことを頼まれました」

「なんだと?」

 それを告げた瞬間、コスモスの目が一際鋭くなった。

 うわ、こえぇ! まじこえぇんだけど!

 何か背中から黒いオーラが溢れてるよ。よし、これをダークコスモスと名付けよう。

 思わず後退りしそうになるが、ここでびびってちゃいけない。立場はこちらの方が上だ。

 コスモスはひまわりと違い、俺の力がなければほとんど進展はできない。

「日曜日にひまわりと出かけて、そこで頼まれたんですよ」

「あの小娘……。やはりそうだったか!」

 うわ、こっちもばっちり気づいてたよ。

 女って、こえぇな。しかも「小娘」呼ばわりかよ……。印象変わるわぁ。

「先日、視察に行った時に明らかに私に敵意を持っていたからね。特に私が野球部を見に行くと言った時の態度だ。露骨にふてくされて、君にボールをぶつけてきただろう? ああいった不真面目な行為をしてしまうから、その後の会議で予算カットをされてしまうのだ」

「そ、そうですか……」

 何この人、こんなに怖い人だったの? 敵に回したくねぇ~。

「それでですが、僕は二人ともに協力するつもりですので」

「そ、そんな! てっきり君は、私の味方になってくれると思っていたのだが?」

 なめんな。そんな焦った表情をしたからって、優しくされると思うんじゃねぇぞ。

「もちろん味方です。でも、ひまわりの味方でもあります。だから二人ともに均等にサポートします。僕にだって立場はありますし、ひまわりは大切な幼馴染です。どちらかがサンちゃんと付き合うことになっても恨みっこなし。嫌なら僕は協力しません」

「うっ!」

「もちろんこの話はひまわりにもしてあります。ひまわりは了承してくれましたが、コスモス会長はどうしますか?」

「そう言われるとな……」

 一見、コスモスに決めさせているようだが、こいつに選択権はない。

 ここで俺の協力を断ったら、俺は完全にひまわりの味方になるのだから。

 そんな愚行をコスモスはしないだろう。別に断ってくれてもいいんだけどな。

「むぅ……。分かった。それでお願いするよ」

 ほらね。こうなった。

「それじゃあここからは、今後の作戦です」

「考えてきてくれたのか?」

「もちろんです」

「ありがとう! 心強いよ!」

 いちいち手を握るな。てめぇに手を握られても何とも思わねぇっつーの。

 証拠を見せてやるから、あと三十分は離すんじゃねぇぞ!

 もっとしっかりがっしり、決して離さないように強く!

「ふぅ。……それで、どうすればいいんだい?」

 すぐさまスッと離れおったぞこやつ! おのれ……。やはり俺は所詮モブか……。

「まず、コスモス会長の印象を変えることから始めましょう」

「私の印象?」

「はい。こういう場合、一番大事なのは、『まずは相手に自分を知ってもらうこと』です。これに関してコスモス会長は、ほとんどできていない。サンちゃんとは、生徒会や部活を通じてたまに関わる程度の付き合いですからね。はっきり言ってしまうと、コスモス会長はサンちゃんにとって、『女の子』ではなく、『会長』なんです。言っている意味は分かりますか?」

「ああ。具体的に言えと言われると難しいが、要は真面目な先輩という印象なのだろう?」

「その通りです。ですから、まずはその印象を変えましょう。コスモス会長を『女の子』として認識してもらうようにする。これです」

「あ、ああ。すごいな君は……」

「つきましては放課後、サンちゃんと一緒に帰りましょう。コスモス会長にとっては嫌かもしれませんが、僕も一緒にいます。今日は寄りたいところがあるから付き合ってほしいと、彼にはすでに言ってありますので」

「そ、そこまでしてくれていたのか! いや、むしろ君がいてくれて助かるよ! 突然彼と二人きりになってしまったら、恐らく私は緊張して何も話せない! あぁ! 今から何を話すか考えないと……」

 こらぁ~。俺の話はまだ終わってないぞぉ~。いきなりノートに色々書き始めるなぁ~。

「一応、気をつける点ですが、生徒会の業務が終わっても、生徒会室からは出ないでください」

「えっと、まずは彼の趣味を……。ん? 私が出ると不都合な点があるのかい?」

「はい。生徒会はいつも十八時頃終わります。対して野球部は十九時に練習を終えます。ただ、その間にテニス部の練習も終わります」

 そう言っただけでピクリとコスモスの眉が動いた。察しがいいことで。

「そうです。もしコスモス会長が生徒会の業務が終わっているにも関わらず、学校に残っているのを見かけたら、ひまわりはすぐに気が付くでしょう。そして、自分もサンちゃんを待つと言ってくるに決まっています。そうでなければひまわりはたいてい、部活のメンバーと一緒に帰るので」

「でも、いいのかい? 君は彼女の味方もすると言っていたが?」

「あくまでも二人とものです。ひまわりはコスモス会長とは違い普段の授業などで一緒にいるので、放課後はコスモス会長の協力をする。それ以外の時間はひまわりの協力をする。昼休みに関しては、どちらの手伝いもしません。何か行動を起こしたい場合は事前に相談して下さい。その際は協力します。何もない場合は僕も一人でやりたいことがあるので何もしません」

「分かった!」

 ま、やることなんてねぇんだけどな。

 ただ、朝も昼も放課後も他人の色恋沙汰のために、自分の時間をつぶすのが嫌だっただけだ。

 昼休みぐらいは静かに一人で過ごしたい。それだけだ。

 ……それにしても疲れた。同じことを二回喋るのってめんどくせぇな。

 ついでにひまわりと同じ反応をしすぎだコスモス。脳回路は案外似ているのか?

 だとしたら、この後に不安しか見えてこえねぇぞ……。