噺家ものがたり ~浅草は今日もにぎやかです~ 特別版



【前編】



「皆様、こんにちわ!」

「以下同文!」

「言ってくださいよ、これぐらい! あいさつだけでしょ!」

「こんにちわ!」

「お願いしますよ、ジジイさん! では改めまして、皆様こんにちわ!」

「こんにちわ!」

「本日は、この『噺家ものがたり』の作品ページにアクセスして頂きまして、誠にありがとうございます!」

「どういたしまして!」

「ジジイさんに言ってませんよ! このページをいま見てる読者に言ってるんですよ!」

「失礼しました!」

「では仕切り直しまして、えー、この『噺家ものがたり』のテーマになっている落語。この小説を読むにあたって落語になじみのない方も多いでしょうから、本日は落語がどういうものなのかについて、皆様にご説明したいと思います! というわけで本日案内役を務めます、前座見習いの千野願と申します!」

「願さんでございますー!」

「『噺家ものがたり』の主要人物として登場いたしますので、詳しくは本編をご覧になってください! そして本日、そんな僕のパートナーを務めるのは?」

「創風亭一門で前座をやっております、創風亭糞爺でございます!」

「通称、ジジイさんでございます!」

「ジジイでございますー! いい歳した老人ですが、今日はテンション上げていきますよー!」

「ちなみにジジイさんって、おいくつでしたっけ?」

「24・5です!」

「靴のサイズでしょそれ! 違いますよ、年齢を聞いてるんですよ!」

「年齢は、7、80です!」

「2、3個みたいに言わないでくださいよ! 7、80って人生の10年を何だと思ってるんですかジジイさん! 10年も違ったら全然違いますよ年齢! 正確に答えてくださいよ!」

「私の年齢は、78歳でございます!」

「78ですか!」

「よろこびことぶきです!」

「きじゅって読むんですよあれ! で、喜寿は77ですよ!」

「10年後には、こめことぶきです!」

「べいじゅって読むんですよあれ!」

「2年後には、さんじゅです!」

「読めてるじゃないですか! なんで喜寿と米寿だけ読めなくて一番厄介な傘寿だけちゃんと読めるんですか!」

「ちなみに願さんは、おいくつでしたっけ?」

「22です!」

「あ、意外に小さいんですね足!」

「だから靴のサイズじゃないですよ! まぁうだうだ言ってても仕方ないんで、そろそろ落語の説明に入らせてください!」

「まいりましょう!」

「というわけで、まずは落語の由来について解説したいと思うのですが、いかんせん僕はまだ前座見習いの身分です! 落語についてそれほど詳しくないのでジジイさん、ご説明のほうをよろしくお願いします!」

「承知しました! えー、落語というものが成立したのはですね、江戸時代の初期と言われておりまして」

「ずいぶん古いんですね!」

「江戸の初期なんで、今からですと、えーとだいたい6000年ほど前ですかね!」

「紀元前でしょ、6000年前だったら! アダムとイブやってませんよ、落語!」

「その頃、京都に露の五郎兵衛という人がいまして、町中で滑稽な話を披露し、ござに座った聴衆から銭貨を得ていました。当時このスタイルでお金を稼ぐ人のことを『噺家』と呼び、落語家の始まりとされているんです!」

「そうだったんですね!」

「露の五郎兵衛に少し遅れて、今度は大坂の町に米沢彦八という者が現れ、神社で滑稽話を披露するようになりました。ちなみにこの大坂ってのは、今でいうところの鳥取県ですね」

「違いますよ! 大坂って言ってるんですからどう考えても大阪でしょ!」

「そういった黎明期を経まして、やがて室内で落語が披露されるようになっていきます。浄瑠璃や説教など、江戸の町で聴衆を集めて席料を取るようになり、これがいわゆる『寄席』の始まりとされています。ちなみにこの江戸ってのは、今でいうところの山口県ですね」

「東京ですよ! 山口県民は江戸っ子じゃないですよ! 『このフグ、てやんでぇ』とか言いませんよ!」

「やがて江戸後期になると、庶民の娯楽としての江戸落語が盛んになっていきました。そして明治になって近代落語を完成させたと言われているのが、かの有名な三遊亭」

「それは僕も知っています!」

「栄養失調」

「圓朝ですよ! 栄養失調じゃなくて三遊亭圓朝ですよ!」

「ちなみにこの栄養失調師匠は、初代です」

「二代目いませんよ、栄養失調なんかに! 誰がそんな名前継ぎたがるんですか! そもそも栄養失調師匠に一門率いる体力ないですよ!」

「とまぁ、簡単ではございますが、落語の由来について解説してまいりました!」

「おかしなところもいっぱいありましたけどね!」

「ところで皆様の中には、そもそも落語がどういう話芸なのかご存じでない方も多いと思います!」

「でしょうね!」

「なので今から、落語そのものについて順を追って説明していきますね!」

「よろしくお願いします!」

「まず落語というのはですね、人間がやるんですね!」

「それは知ってるでしょさすがに!」

「人間がですね、着物を着て座布団の上に座ります。人間がマイクの前で話してお客さんがそれを聞きます、ちなみにこのお客さんも人間です。そして人間が身振り手振りで噺を進めていき、それを聞いた人間であるお客さんが人間」

「人間人間うるさいっすね! 人間不信になりますわ!」

「そして落語家は話しながら、たくさんの登場人物を演じ分けていきます。演者の話術と聴き手の想像力で噺の世界が広がっていく、シンプルながらもとても奥の深い演芸なんです!」

「簡単そうに見えてこれがムチャクチャ難しいんですよね!」

「そうなんです! なかでも大変なのが、小道具に頼らずに物語を進めることです! 落語で基本的に使用していいのは、扇子と手ぬぐいだけなんです!」

「そうなんですよね! 噺の状況を、扇子と手ぬぐいを使って表現します。扇子を箸と見立てて蕎麦をすすったり、手ぬぐいを紙のように見せて文字を書いたり」

「ちなみに私は、扇子と手ぬぐい以外に、噺によっては入れ歯をはずして使いますよ!」

「入れ歯使って表現するんですか?」

「します、します! 私の落語にケガした小鳥を治るまで家で飼う噺があるんですが、口を開けてエサを待っている小鳥は入れ歯で表現しますよ!」

「気持ち悪いですね、それ!」

「ケガが治った小鳥が飛び立っていくシーンは感動的で、入れ歯をカタカタ鳴らしながら大空に向かってパタパタパタ、パタパタパタパタ!」

「えぐいことしますね! せっかくの感動シーンが台無しですよ!」

「元気でなー! 元気でやるんだぞー!」

「1ミリも感動しないですわ! むしろ気持ち悪すぎて正視できないですわ!」

「このように、落語というものは一筋縄ではいきません!」

「ジジイさんも一筋縄ではいかないですけどね!」

「他にも大変なのが、落語中に足が痺れてしまうことなんです!」

「落語家はずっと正座してますからね!」

「落語中に足が痺れたら噺どころじゃないんですね!」

「ちなみにジジイさんは、何か対策なさってますか?」

「やってます!」

「どんな対策を?」

「私は落語中に足が痺れると困るんで、いつも前もって足を痺れさせてから座布団に座るんです!」

「失礼を承知で言いますが、バカですね! 兄弟子なんで悪くは言いたくないんですがジジイさんはとんでもないバカだと思います!」

「ところで少し話が変わりますが、落語という話芸が、三部構成になっているのを皆様はご存じでしょうか?」

「それは僕も知っています!」

「落語というのはですね、『枕』『本題』『オチ』の3つのパートで成り立っているんです!」

「そうなんです! 落語ってのは通常、いきなり本題には入りません。世間話をしたり、ちょっとした面白エピソードを話したり、本題につながるような小咄を披露したり。そういったトークをひっくるめて『枕』と呼ぶんです!」

「最初なんで、客席の雰囲気をあたためる必要があるんですね!」

「ですね!」

「私も、枕は必ず披露するようにしてます! 自然に本題に入るための流れをつくる必要があるんで、噺家の腕が問われるんですよね!」

「ちなみにジジイさんは普段の舞台で、どういった枕を披露されてるんですか?」

「そうですね。私が最近よく使うのがですね、えー、私の知り合いに旅行が好きな人がいまして、その人が先日、10万円で世界一周旅行をする方法はないかと考えたものの思いつかず、開き直って危ないクスリを10万円分購入して使ったら、一周どころか十周できました」

「すごいのぶち込みますね、いきなり! ジジイさん、前座なんでトップバッターでしょ!? 出てきていきなり何言うんですか!」

「そして、枕に続くのが、本題です! これはもうその名の通り、噺の本編のことです!」

「詳しくはのちほどご説明しますが、これは『本ネタ』とも呼ばれ、本ネタの最後は必ず『オチ』で締めます! このオチのことを別名『サゲ』と呼び、枕を話して本編につなげ、綺麗にサゲて終わるのが落語の基本的な形となります!」

「そしてそんな落語なんですが皆様、落語には古典落語と創作落語というものがあるのをご存じでしょうか?」

「落語は、二種類あるんですよね!」

「古典落語というのはですね、一般的には、江戸時代から明治・大正にかけてつくられた噺のことを指します! 平たく言えば、昔につくられた噺を古典落語と呼ぶんです!」

「ですね!」

「落語に詳しくない方でも、江戸を舞台にした古典落語を一度や二度は耳にされたことがあると思います! 有名な古典落語を挙げていきますと、まず『らくだ』ですね!」

「らくだは超有名ですよね!」

「続いて、芝浜」

「芝浜も有名ですね! 夫婦の愛が泣かせるんですよね、あの噺!」

「あと有名なところですと、時パスタ」

「時そばですね! パスタの屋台なんてないですよあの時代に!」

「あと、ボタン泥棒」

「牡丹灯籠ですね! ボタンだけ盗むせこい泥棒なんていませんよ! 服ごとくすねますよ普通!」

「あと、マンション狭い」

「饅頭こわいですね! ベッド置いたら予想以上に狭かったーとか知りませんよ! 間違えすぎててもうジジイさんがこわいですよ!」

「あと、シュレック」

「えっ?」

「シュレック」

「……」

「……」

「…………寿限無!? そのシュレックってもしかして寿限無のことですかね!?」

「あ、寿限無でした!」

「間違えすぎでしょ! 一般人とチンパンジーぐらい違いますよ、それ!」

「そしてそんな古典落語がある一方で、落語には創作落語というものも存在しているんです!」

「別名、新作落語というやつですね!」

「そうです! 古典落語と違って、創作落語は噺を0からつくらなければなりません! これがすごく大変で、うちの創風亭一門は師匠の方針で主に創作落語をやる一派なんです!」

「ちなみにジジイさんは、持ちネタの創作落語は何本ぐらいあるんですか?」

「そうですねー、だいたい400本ぐらいですかね!」

「400本もあるんですか!?」

「ありますよ!」

「ムチャクチャすごいじゃないですか、400本って! 正直、見直しましたよジジイさんのこと!」

「恐縮です!」

「尊敬しますわ!」

「ただその400本のうち、舞台にかけられるレベルのものはだいたい6本ですね!」

「軽蔑しますわ! 前言2秒で撤回します、軽蔑しますわ! どんだけ完成度低い台本量産してるんですか!」

「ウケるネタをつくるのは、それだけ大変なんです!」

「ちなみにそのネタって、どんなタイトルなんですか?」

「そうですねー、一番よく舞台にかけるのが、『片翼の堕天使』」

「片翼の堕天使!?」

「他にはそうですねー、先週舞台にかけたのが、『メモリー・オブ・ディスティニー~いつかの虹を追いかけて~』」

「……」

「あと、お盆公演でよくやるのが、『追憶のカサブランカ』」

「……」

「それと、これは私の勝負ネタなんですが、お正月によくやらせて頂く『ブラッディ・キャット~暗闇の断末魔~』」

「中二臭えぐいっすね! のきなみ常軌逸した中二ですねタイトル!」

「そうですかね!」

「ち、ちなみにその『ブラッディ・キャット~暗闇の断末魔~』ってのは、どんなお噺なんですか?」

「拾ってきた野良猫に、真夜中に耳を噛まれる話です」

「かっこつけすぎでしょ! 暗闇の断末魔って、それ単に夜中に噛まれて叫び声あげてるだけでしょ! もっと落語らしいタイトルつけてくださいよ! タイトルと中身が全然合ってないで――」

「はいはい、そこの二人、そこまでよ!」

「あ、おかみさん!」

「これを見てる人が飽き始めてるんで、この続きは後編でやりなさい!」

「承知しました、おかみさん! というわけで説明の途中ですが、今回はここまでです! 次回また、後編でお会いしたいと思います! ジジイさん、最後に何か言っておきたいことはありますか?」

「以下同文!」

「もういいよ!」



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