噺家ものがたり ~浅草は今日もにぎやかです~ 特別版2



【後編】



「皆様、こんにちわ!」

「以下同文!」

「それやめてくださいよ、だから! あいさつだけでしょ!」

「こんにちわ!」

「お願いしますよ! そもそもこんにちわより以下同文のほうが言葉数多いでしょ!」

「失礼しました!」

「しっかりしてくださいよ、ホント! というわけで出ばなをくじかれましたが、今回もまず自己紹介のほうだけさせてください! 前回に引き続いて案内役を務めます、前座見習いの千野願でございます!」

「同じく、前座の創風亭糞爺でございます! よろしくお願いします!」

「よろしくお願いしますー!」

「しかし、あったかくなってきましたね、願さん!」

「すっかり春ですね!」

「ちくわのおいしい季節になりましたね!」

「通年でしょ、あれ! 旬なんてないですよちくわに! 年がら年中出回ってますよ同じ味で!」

「うだうだ言ってても仕方ないんで、そろそろ本題に入りましょうよ!」

「こっちのセリフですよ!」

「まいりましょう!」

「さぁ、というわけで皆様、後編です! 前回の前編では、落語の由来やルール、噺の構成などについて解説してまいりました!」

「今回はさらに一歩踏み込んだ形で、落語の魅力についてお伝えしたいと思います!」

「今回もよろしくお願いしますね、ジジイさん!」

「お任せください! まず今回は最初に、落語の用語について解説したいと思います!」

「業界用語うんぬん、落語には一般の人が知らないような言葉がたくさんありますからね!」

「そうなんです! そこでまずご紹介したいのが、『寄席』という言葉です! 前編でも軽く触れましたが、落語を中心に演芸が専門に行われている劇場のことを、『寄席』といいます!」

「この言葉はご存じの方も多いでしょうね!」

「そして、寄席の入り口のことを『木戸』、木戸で支払う寄席の代金のことを『木戸銭』と呼ぶんです!」

「ですね!」

「そして、木戸の近くにあるスペースのことを『ロビー』、ロビーにある座席のことを『イス』、ロビーの近くでお弁当などを売っている場所を『売店』と呼びます!」

「知ってますよ、それは!」

「あ、間違えました、『販売店』です!」

「どっちでもいいですよ、それは! そもそも落語用語でも何でもないでしょそれ!」

「そして、販売店で売られている茶色い液体のことを『お茶』」

「もういいですよ、それは!」

「そして、販売店で働いている人のことを『守銭奴』と呼びます!」

「呼びませんよ! 劇場で働いてる人に怒られますよ!」

「そして、これは落語を観る上でぜひ覚えてほしい言葉なんですが、落語が行われる舞台のことを、業界用語で『高座』と呼ぶんです!」

「『高座』というのは、舞台そのものを指したり、噺家が座布団越しに座る、赤い布で覆われた木の台のことをいったり、はたまた落語をすること自体を『高座を務める』と表現したりするんですね!」

「そして、落語家が高座に上がる際に流す音楽のことを『出囃子』、舞台の端にある、落語家の名前が書かれている紙のことを『めくり』と呼びます!」

「出囃子は基本、三味線で演奏されるんですが、どの曲にするかは落語家さんの自由なんですよね!」

「そうなんです! なかには派手な洋楽を流して登場する、とんでもない噺家さんもいますからね!」

「ちなみにジジイさんって、出囃子は何の曲なんですか?」

「君が代です」

「ジジイさんが一番とんでもないですよ! 君が代を流してるんですか!?」

「はい!」

「何様なんですか、前座の分際で! スベったら切腹もんですよそれ! ていうか日の丸背負ってあんなふざけた創作落語しないでくださいよ!」

「ちなみに落語の用語で、日常会話で頻繁に使われている言葉もあるんですよ!」

「そうなんですか?」

「たとえば、労力と利益が見合っていないときに使う、『割に合わない』って言葉。落語家の出演料のことを『割り』と呼び、元々は噺家が使い始めたといわれているんです!」

「そうなんですね!」

「知らなかったでしょ?」

「初めて知りましたわ、それ! ジジイさんって意外と博識ですね!」

「さっき人に聞いたんです!」

「前言撤回しますね! 一瞬でも見直した自分が馬鹿でした!」

「そして割りの話が出たので続けますが、高座で頂戴する割りの金額は、落語家の立場によって違います! 落語家には、階級が存在しているのをご存じでしょうか?」

「これは、知らない方も多いんではないでしょうか?」

「落語家には、偉さの序列として階級が三つあるんです! 一つめが、前座」

「ジジイさんはこの前座ですね!」

「一つめが前座で、そして、えー、えーなんだったかな前座の次。二つめはなんだったかな」

「二つ目です! 二つ目であってますよ! 前座の次は『二つ目』って呼ぶんです!」

「あ、二つ目でしたね! で、次が、えー、えー、ダメだ、出てこない。続・二つ目じゃないしな」

「当たり前でしょ! 続・二つ目にするぐらいだったら『三つめ』って言いますわそれ!」

「えー、なんだったかな」

「『し』がつきます! 冒頭に『し』がつきますよ、ジジイさん!」

「し?」

「そうです!」

「し、し、し、しっかり者?」

「断りますわ、そんなダサい名前だったら! 前座、二つ目、しっかり者って嫌でしょ! 落語300年の歴史をなめないでくださいよ!」

「なんでしたっけ?」

「真打ちですよ!」

「あ、真打ちだ!」

「しっかりしてくださいよ! ジジイさんは真打ちじゃなくまずしっかり者を目指してくださいよ!」

「失礼しました!」

「ちなみに僕は現在、前座の前段階である『前座見習い』という立場です! まだ噺家名はなく、寄席の楽屋入りも許されていません!」

「芸の道は厳しいですからね! 平均すると、前座は3~4年、真打ちに至っては入門してから12~15年かかるといわれているんです!」

「大変ですね! なかでも一番苦労するのが、やはり前座時代みたいですね!」

「そうなんです! 前座といえども、高座に上がることはあります! ですが前座の主な仕事は、平たくいえば雑用なんです!」

「ですね!」

「前座の雑用は、多岐に渡ります! 師匠や兄弟子を車で送り迎えしたり、和服の着付けを手伝ったり、楽屋でお茶くみをしたり」

「することいっぱいありますね!」

「あと、浮気がバレた師匠の代わりに奥さんに殴られにいったり」

「断ってくださいよ、そんなの! とんでもないパワハラでしょ、それ!」

「他にも、寄席で使用する音響関係も基本、出囃子の三味線以外は前座が担当します! 寄席の開場の際に鳴らす太鼓を『一番太鼓』と呼ぶんですが、その太鼓を叩くのも前座の仕事なんです!」

「そういえばジジイさん、よく寄席で太鼓叩いてますもんね! ホントに大変ですね、前座の仕事は!」

「そうなんですよ! ただ、前座から二つ目に昇進すると、環境や待遇がガラッと変わるんです!」

「どのように変わるんですか?」

「まず、師匠の家や寄席での雑用がなくなります! あと、前座のときと衣装が変わります!」

「衣装が?」

「前座は基本、和服は着流ししか身につけられません! それが紋付きを着て、羽織りも身につけられて、場合によっては袴を着けることもできるんです!」

「そうだったんですね! いいですね、羽織りを身につけられるなんて!」

「でしょ! 私は寒がりなんで助かりますわ!」

「理由クソしょぼいっすね! ジジイさんの辞書に名誉って言葉ないでしょ!」

「しかも二つ目になると、前座と違ってきちんと割りももらえるんです!」

「そうなんですね!」

「前座は、出演料以外は基本的に無給のところが多いです! ですが二つ目になると、その日の寄席の入りに応じてちゃんとしたギャラがもらえるんです!」

「どれぐらい頂けるもんなんですかね?」

「その噺家の人気や所属している一門によってバラバラなんですが、平均するとだいたい月収40万円ぐらいだといわれています!」

「いいですね!」

「いいでしょ! 月収40万もあったらもう蝉を食べなくて済みますよね!」

「貧乏すぎるでしょ! どれだけお金なくても蝉だけは手ぇ出したらダメでしょ!」

「そして、二つ目からさらに昇進すると、ますます待遇は変わってきます!」

「真打ちは待遇がすごそうですね!」

「真打ちになると、まず弟子を取れるようになるんです!」

「二つ目だと弟子は取れないんですね!」

「次に、寄席のプログラムで最後に出られるようになります! 最後に高座を務める噺家を『トリ』と呼ぶんですが、トリを務めていいのは真打ちだけなんです!」

「そうなんですね!」

「あともちろん、割りの金額も変わってきますよー!」

「真打ちはやっぱり、すごい金額なんですかね?」

「真打ちの稼ぎは二つ目よりも格差が大きいといわれているんですが、それでもなかには一回の高座の割りが100万円を超える噺家さんもいるんです!」

「すごいですね!」

「落語一席で100万ですよ100万!」

「とんでもないですね!」

「それだけお金あったら蝉を食べるときにキャビアのせられますよ!」

「蝉を食べなくていいんですよそもそも! なんでそんな稼いでる人がアブラゼミをバクバクいくんですか! 一席100万の人が弟子に『飯行くぞ』って公園連れてったらドン引きですよ!」

「このように、同じ落語家でも階級によって権力や収入が全然違うんです!」

「ちなみにジジイさん、落語家ってどれぐらいいるかわかります?」

「落語家の数ですか?」

「そうです! 実は昨日、図書館に行って調べてきたんです! 現時点でだいたい何人ぐらいいると思います?」

「そうですね。8人はいますよね?」

「うちの一門だけでも8人超えてますわ! そんな少ないわけないでしょ!」

「7000万人はさすがに多いですよね?」

「多いに決まってるでしょ! 7000万って、客より人数多いでしょそれ! どんだけエンタメに力入れてるんですか、この国! もう面倒臭いんで正解言います、約800人です!」

「800人もいるんですか?」

「そうなんです! 落語という文化が成立して以降、いまが一番多いといわれています! ちなみにこの800人という数字は、関東だけじゃなく関西の落語家も含めた数です!」

「ところで、関西の話が出たのでご説明しますが願さん、関東と関西では落語の文化が違っているのをご存じでしょうか?」

「そうなんですか?」

「通称として、関東の落語を『江戸落語』、大阪や京都を中心とする関西の落語を『上方落語』と呼んでいるんですが、まず大きな違いとして、上方落語には江戸落語のような身分制度がないんです!」

「二つ目や真打ちとかはないんですか?」

「階級としては同格のものが存在していますが、呼び名としては使われていません。代わりに、『香盤』と呼ばれる、噺家が所属する落語団体の内規が存在しています。香盤では、噺家歴5年以上が寄席の中盤に登場することで『中座』と称され、これが江戸落語でいうところの二つ目、そして噺家暦15年以上で真打ちと同格になるんです!」

「そうなんですね!」

「江戸落語の前座が修行中の丁稚のようなイメージなのに対し、上方落語の前座は高座に上がる出番を表す言葉として用いられることが多いんです!」

「なるほど、勉強になります! 初耳でしたわ!」

「私もさっき人に聞いたんです!」

「よく偉そうにしゃべれますね! 『10年前から知ってます』みたいな饒舌っぷりでしたけど、よくこれほど偉そうに話せますね!」

「続いて、これは江戸落語と上方落語との最大の違いなんですが、高座で使用する道具が違っているんです!」

「それも初耳です! 上方落語でも扇子と手ぬぐいは使用しますよね?」

「もちのろんです!」

「それあんまり言いませんよ、最近!」

「前編でもご紹介したとおり、上方落語でも高座では扇子と手ぬぐいを使って場面を表現します! ですがそれ以外にも用いる小道具があり、上方のほうが江戸落語よりイケイケなんですよ!」

「イケイケ!?」

「まず上方落語では、『見台』と呼ばれる机みたいな台を噺家の前に置きます。これがすごくイカしていて」

「イカす!?」

「さらにその前方に、『膝隠し』というハイカラな衝立を置きます!」

「ハイカラ!?」

「そして見台の上にマブい『小拍子』と呼ばれる小さな角材を置いて、ツッパリなみのテンションで噺の場面転換を表すためにがんばルンバとばかりに見台に小拍子をカンカンと打ちつけながらブイブイいわせるんです!」

「死語えぐいっすね! 死語の使用頻度常軌逸してますね! さっきから死語えぐすぎて説明がまったく入ってこないですわ!」

「まぁでも落語ってのは古いもんですからね!」

「意味わかんないですよそれ! 古い文化を紹介するには古い言葉を使ったほうがいいとかないですよ! 恐竜博物館で働く従業員全員猿顔のやつ選抜するとかないですからね!」

「おい、そこの二人。時間だ、もうそのへんにしておけ。読者に飽きられてる」

「あ、破楽師匠! お疲れ様です!」

「お疲れ様です、破楽師匠!」

「ジジイ、落語の解説はうまくいったか?」

「はい! お陰様で、バッチグーでした!」

「死語えぐいっすね! 油断したら死語出してきますね!」

「そうか。それより、今から寿司食いに行くから車回せジジイ」

「承知しました!」

「というわけで皆様、お時間がきました! 前編、後編と落語の解説をしてまいりましたが、少しは落語のことをご理解頂けたでしょうか?」

「落語というものは、決して難しいものではございません! これを機に、ぜひ『噺家ものがたり』を手に取って頂けたらと思います! 物語の中で我々も大活躍していますんで!」

「それでは皆様、またどこかでお目にかかれればと思います! 以上、お相手は千野願と」

「創風亭糞爺でしたー!」

「皆様、さようならー!」

「バイビー!」

「死語えぐいっすね! もういいよ!」