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1月10日発売!『東京ダンジョンスフィア』特別掌編その3!

2017.01.08

10日発売の新作『東京ダンジョンスフィア』の
特別掌編第③弾をお贈りいたします!

 

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⇒作品紹介はコチラ!
(※こちらのページは、10日に新作紹介&掌編が掲載予定!
あわせてチェックしてみてくださいね!)

 

☆☆☆特別掌編・その③☆☆☆

【あなたにとってどういう存在ですか?
 ~蒼倉霜夜(あおくらそうや)の場合~】

 

 暗闇の中。身動きを封じられている。床が崩れ階下に落下し、瓦礫に押し潰されているという状況。
 蒼倉はどうにか自分に覆い被さる物体を押し退け、立ち上がった。
 痛みが走る。太ももに大きな切り傷があった。救急キッドを持っている仲間の姿がない。孤立してしまっている。
 早く合流しなければ――そう思った時、暗闇の中に殺気に満ちた赤い光が灯る。エネミーの眼光だ。姿は見えないが、囲まれているようだ。
(……こういう状況は起こりうる。実際、似たような状況に陥った。あの時は砂に埋もれていただけで何事もなかったが……もしもの時は対処しなければ……いや、対処出来るようにならなければ……)
 蒼倉は目の前に手をかざし、「現れろ」と念じる。
 手の中に光が生まれ、ぱっと消えると、銀色に輝くロングソードが現れた。
「……来い。斬り伏せてやる」
 蒼倉は柄を握り、エネミーの群れに切っ先を向ける。
 そして――

「悪い、待たせたね」
 唐突に声が聞こえ、蒼倉はイメージの世界から意識を引き戻し、目を開けた。
 そこは喫茶店で蒼倉はテラス席に座っていたのだが、いつの間にか目の前の席にスーツ姿の男が座っている。叔父の陽明(ひろあき)だ。
「……いえ、構いません。イメージトレーニングで時間を潰していましたので」
「トレーニング? ああ、冒険者としてのか。武術家みたいに動きを頭の中でイメージするのかい?」
「そうすることもありますが、今日はどちらかというと恐怖に打ち勝つ訓練でした。危機的状況に置かれていることを想像し、怯える心を押さえ込む訓練です。その時になって動けなくなってしまったら、待っているのは『死』ですから」
 それを聞いた陽明は表情を曇らせ、「冒険者という職業は、想像よりも遥かに危険のようだね……」と呟いた。
「それで、今日はどういった用事があってこちらへ? 平日ですし、仕事があるのでは?」
「ああうん。取引先がこの近くだったから、お見舞いに寄ったんだ」
 陽明の視線は道路を挟んで向かい側にある大きな病院に向けられていた。ギルドが運営する、冒険者やマンションのダンジョン化事件の被害者のための特殊な病院だった。
「……お忙しいのに、妹のためにありがとうございます」
「本当は毎日でも来てあげるべきなんだろうけどね。今、私が保護者なんだから……えっと、まあそういうことで、近くに来たから霜夜君ともお話ししようと思って呼び出したわけだ。一人暮らしを初めて数ヶ月経ったが、一度もうちに帰って来ないし、連絡も寄越さないから心配だったんだよ」
「それは……すみません。この通り、元気にやっています。安心してください」
「安心、か……それは、無理だよ」
「え?」
「トレーニング中とはいえ、君の表情は険しかった。子供がするような表情じゃなかったよ……」
「……子供、ですか。俺はもう十八です。大人の一歩手前ですよ」
「でもあのような表情、君のような年齢の子には似つかわしくないと思う。あんな、鬼気迫る……責任感に押し潰されそうな表情……」
 そこで陽明は溜息を吐いた。
「私たちのせいだな……五年前のあの日、あんな酷な選択をさせてしまったから……」
「それは……」
「なあ霜夜君。冒険者を辞めてうちに戻ってこないか? お金は私がなんとかする。そう……本当はそうするべきなんだ。君が背負うべきものじゃない。背負わせてしまったのは私たちだが……今更遅いが、あの選択は決して間違いではなく、私たちもそうするべきだと思っていて――」
 蒼倉は叔父の名を呼び、首を振った。
「俺は選択させてくれたことに感謝しています。誰かの意思で全て決められてしまっていたら、俺は理不尽に怒り、気が狂っていたかもしれない」
 五年前、蒼倉は大切なものを失った。
 そして、たった一つ、希望が残った。
 その希望が、悲しみに溺れず前へと歩ませてくれた。その道は苦しく果てしないもので、心はぼろぼろになり、様々な感情が欠落していき、最終的に突き進むだけの機械人形となることが決定づけられている。
 それでも、蒼倉は構わない。それで大切なものが守れるのならば――
 その時、タリスマンから着信音が鳴った。
 失礼します、と陽明に言って通話ボタンを押し、耳に押し当てる。
 すると聞こえてきたのは、赤峰のけたたましい声。
『おーやっと出た! 蒼倉、飯行くぞ! 焼肉、お好み焼き、もんじゃ、ラーメン、エトセトラ! 何がいい!?』
「…………、いきなりなんだ?」
『ダンジョン行く前の腹ごしらえ! 緑も桜白も待ってんだぞ!? 早く来いよ! 場所は――』
 行くとは言っていないのだが、話は勝手に進んでいく。微かだが、『意外性を狙って、うどんもいいんじゃない!? あーお腹減った!』『ね、甘いものはどうかしら。ケーキのバイキングなんていうものもあるのよ』と女子二人の声が聞こえてくる。
(……騒がしいやつらだ。こちらの気も知らないで)
 呆れ返って溜息を吐くと、「仲間からかい?」と陽明が訊ねてきた。
「ええ、腹ごしらえをするから来い、と」
「そうか。そうなのか……本当に良かった」
「良かった?」
「ああ、だって……五年ぶりに君の笑顔を見られたからね」
 そう。蒼倉自身は気づいていなかったが、呆れ返りながらも微かに微笑んでいた。
 先ほども神経を鋭く尖らせ、修羅になろうとしていたが、今ではすっかり弛緩してしまっている。それどころか冷え切っていた心の中に暖かな火が灯っていた。
「きっと、思いやりのある素晴らしい人たちなんだろうね」
 陽明は心底安心したように言って、報われたような笑顔を浮かべる。
(思いやり……か)
 蒼倉は考える、仲間たちのことを。仲間たちとの冒険を。
 その記憶の中心にいるのが、赤峰という男。
 今こうして冒険者を続けていられるのは彼のおかげだ。彼がいなければ、他の二人とともに死んでいた場面もあった。彼を中心にパーティは纏まっていった。
 そして、彼がいたから、自分と桜白、緑の三人は違う道を歩き始めた。
 共に、歩き出したのだ。
「あいつらに思いやりがあるのかどうかは、正直分かりませんが……案外頼りがいのあるやつです。五年前失ってしまった暖かさを思い出してくれる……そんなやつらです」
 蒼倉はもう一度、イメージのダンジョンの中へと意識を飛ばした。
 怪我をしてエネミーに囲まれている絶対絶命の状況。
 その時、声が聞こえてくる。
「待たせたな、蒼倉!」
 それはただの空想の話。
 しかし蒼倉は、きっとそうなると信じている。

 

 

『東京ダンジョンスフィア』の掌編はこちらが最終回。
ぜひ書店やネットで文庫を手に入れてくださいね!

明日は『勇者のセガレ』の掌編が公開予定です!
こちらもお楽しみに!

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