編集部ブログ

1月10日発売!『勇者のセガレ』特別掌編第三弾!

2017.01.09

『勇者のセガレ』特別掌編、第三弾の公開です!
最終第四弾は明日10日のお昼頃公開予定!
そちらも忘れずにチェックしてくださいね!

 

%e5%8b%87%e8%80%85%e3%81%ae%e3%82%bb%e3%82%ac%e3%83%ac

 

⇒作品紹介はコチラ!
(※こちらのページは、10日に新作紹介&掌編4本目が掲載予定!
あわせてチェックしてみてくださいね!)

 

☆☆☆掌編・第三弾!☆☆☆

 世の中、知らないことは沢山ある

 

 母が目から光線を出したことがある。

 そんな過去など知りたくなかったのに、知ってしまった以上、今後どのように母と接すればいいのだろう。

 母を見る目が変わってしまいそうだ。

 いや、変わったと言えばディアナがやってきてからの一連の出来事で、もう見る目とかそういう問題ではなくなっているのだが、それはそれとして。

「大体、何をどうすればそんなことしようと思うの」

「あ、あの、すいません、あまり追及しないでもらえると……」

 和香の隣で、サングラス姿のディアナが恥ずかしげに顔を伏せている。

 明らかに周囲からの人目を避けようとする意志が見え見えだが、一応彼女は和香の登校に護衛として付き添っているはずだ。

 そんなことでいきなり異世界の怪物シィが現れたら、対処できるのだろうか。

 というか黒いサングラスをかけながら、黒い影そのもののシィと戦うつもりなのか。

 そんなことを考えながら自分より少し背の高いディアナを見上げる和香の目に、朝日を浴びてキラキラと光るディアナの金色の髪が映る。

「……むー」

「……あの、ノドカ?」

「不公平だ」

「は?」

「それ、お父さんの運転用のサングラスでしょ?」

「はい。そう伺ってますが」

「美人は得よねー。ミスマッチなはずなのに、何でか格好良くなっちゃうんだもん」

「からかわないでくださいっ!」

「いやー、割と私マジですよ? 何か年末年始にハワイに行く芸能人みたい」

「ハワイ、というと、トットリという地域にあるという……?」

「何でディアナさんそういう変なことばっかり知ってるの」

 鳥取県に羽合【はわい】温泉という観光地があるのは近年ネットなどを通して有名になりつつある。

だが日本に関する情報が最低でも三十年は更新されていないはずのアンテ・ランデからの来訪者が、どうしてそんな温泉の名前を知っているのか。

「あ、昨日実はテレビで……」

「ディアナさん、実は結構テレビっ子だよね」

「そうですね。やはり私達の世界には存在しないものですし、沢山の情報を大きく文字で表示してくれるので、音と文字をすり合わせやすいのです」

「あー、字幕があるとなんか英語が聞き取れてる気分になるあれかー」

 和香が把握している範囲で、ディアナが視聴している番組は多岐に渡っている。

 ニュース、ドキュメンタリーあたりはまだ分かるが、時にはバラエティやお笑い、旅番組や通販番組を無言で見ていることがある。

「旅番組とか通販とか面白い? ディアナさん、まだ日本の地理とかよくわかんないでしょ」

「面白いかどうか……はあまり関係ありませんね」

「へ?」

「通販は、単純に物の価値と貨幣価値のバランスが把握できます。そして旅番組は、この世界の移動手段が紹介されますよね。デンシャとか、ばす、とか、そういうものに乗ってみたい、という思いがあります。あとは地理情報とか、そういうことがイメージとして入って来やすいのです。もちろん教科書的に学ぶ必要はありますが、それ以上に私にとって大事なのは、私の中の感覚と日本の方の感覚を早いうちに擦り合わせることなんです。そのためには、旅番組が最適だと思いまして」

「ん? 感覚?」

「はい。私がヤスオのご友人にご無礼を働いたことがあったじゃありませんか」

「ああ、お兄ちゃんの塾の知り合いを恫喝しそうになった、あれね」

 ディアナが日本に来て間もない頃、康雄の中学校時代の同級生である帯刀翔子を、敵であると勘違いして恫喝してしまったことがあった。

「旅番組に出演している方は、ノドカが今仰った、芸能人、つまりは有名な方なんですよね」

「まぁ、そうね。メジャー度合いに差はあるだろうけど」

 すると、ディアナは軽く上着のポケットあたりを叩いて、微笑んだ。

「この日本は、そのような方も、周囲のスタッフの方も、どこに行くにも武装する必要が無い国だということを一刻も早く体に染みこませないといけません。治安の良し悪しは、そのまま治安維持や防衛行動に直結しますから」

「ぶ、武装!?」

 ディアナが羽織る母のパーカーの下には、彼女の魔導機士としての『武機』である双刃の片割れ、ポルックスが隠されている。

 先の戦闘で壊れてしまったカストゥルは、今は剣崎家の母の部屋に放置されていた。

「恥ずかしながら、レスティリア王国領内には、我ら魔導機士はもちろん、官憲の手が及ばず治安が乱れている地域や地区が多く存在します。犯罪組織の温床になっていたり、凶暴な野生動物が跋扈していたり……そのような場所が、日本には全く無いのですね」

「全く無い、わけじゃないと思うけどね」

「いいえ、ありませんよ」

 ディアナは薄く微笑む。

「だってノドカは、身を守るために武装をしたことはないでしょう? 日頃生活していて、武装する必要は無いでしょう?」

「そりゃ……まぁ。てか、武器持つのって犯罪だしね……」

「親を亡くし路上で生きる子供が道行く人を襲い金品を奪う。徒党を組んだ野盗が街道を行く商人に襲い掛かり殺してしまう。そんなことが日常茶飯事な場所、日本には無いでしょう?」

「……さすがに、無いかな」

 目を覆いたくなるような無残な事件の報道は頻繁にある。

 だが、そんなことが常態化している場所は、いかに和香が世間知らずでもさすがに無いと断言できる。

「だから、私はこの国がそういう場所であるということを理解しなければならない。ヤスオが……そういう国で生まれ育ったことを、理解しなければならない」

「ああ。なーる」

 本物の悪意や殺意に触れた経験が異様に乏しい康雄が挑もうとしているのは、平時ですらそのような修羅の巷が存在する『異世界』の『危機』だ。

「こう言っちゃなんだけどさ、あんまり期待しない方がいいと思うよ。お兄ちゃん根性ないもん」

 和香の、人生を賭けた努力の宣言をした兄への辛辣な評価に、ディアナは微笑んで首を横に振るだけだった。

「そんな世界で生まれた私も、貴族社会で甘やかされて育ちましたから、そのような現実や軍人としての根性を学ぶまでに随分と時を要しました」

「……ま、ディアナさんがいいならいいんだけどさ」

 康雄の決心が変わらず、ディアナの意志も変わらないのなら、これ以上和香がどうこう言えることではない。

 父のアンテ・ランデ行きを強固な意志で反対した和香だが、兄の修行については特別思うところが無いのである。 

 その理由は和香の中ではっきりしているのだが、ふと気づいたことがあり話を変えることも兼ねて尋ねてみた。

「あのさ、ディアナさん日本語ペラペラだけど、アンテ・ランデやレスティリアで話されてる言葉って、日本語じゃないよね」

「違いますね」

 その宣告に、和香はぽつりと言う。

「お兄ちゃん、英語ダメだよ」

「……知ってます。でも、レスティリアの公用語は英語じゃありませんし、ヒデオとマドカのおかげで僅かですが日本語も導入されています」

「僅かって……」

「その、食べ物の名前とか……」

「……」

 それは『スシ』とか『テンプラ』の音がそのまま英語に輸入されているのと同じ話で、日本語が通じると言う話ではないのではなかろうか。

「こう言っちゃなんだけどさ、あんまり期待しない方がいいと思うよ」

「……全てはこれからです」

 そう言い切ったディアナの目はサングラスに隠れているが、絶対泳いでいると、和香は確信しているのだった。

 

最終回の第四弾は明日のお昼頃に公開です!

PAGE TOP