エッセイ

エッセイ「電撃的 春夏秋冬」第16回

『椎田十三と七月の臨海学校』
椎田十三

【著者プロフィール】『いでおろーぐ!』で第21回電撃小説大賞<銀賞>を受賞。同作で2015年2月にデビュー。最新刊『いでおろーぐ!2』は絶賛発売中!

 七月といえば海の日、そして海といえばリア充。浜辺で戯れる男女、ビーチボールで楽しそうに遊ぶ男女混合のグループ。夜の海岸、月光に照らされ仄かに青白く色づく砂浜、並んで座る初々しい二人、訥々と紡がれる睦言、静かに重ねられる手……「七月」という単語を聞くだけで、これらの情景が脳内に浮かび、怒りに手が震えて目の前が真っ赤に染まり歯がガタガタ鳴ります。
 そしてそれに加え、高校時代の苦々しい思い出が蘇ってくるのです。
 ――臨海学校。
私の通っていた高校では、一年次の一学期末に、臨海学校という行事がありました。泊まりがけで海に行って泳ぐ、というごく単純なイベントです。
 それだけ聞くとなんだか充実した青春の一ページのようにも思えます。高校で出会ったクラスメイト、はじめての行事、そしてお泊り――ちょっと気になるあの娘の、普段は見られない意外な一面を知ったり、湯上がりの少し緩んだ表情に見とれてしまったり……。
 もしかしたら、そういうことが起こったのかもしれない――私の通っていた高校が、男子校でなければ。
 雲ひとつなく晴れた青い空、水平線、ギラギラと照りつける太陽、焼けつく砂浜、そこにひしめく三百余名の野郎共。青春の甘酸っぱさは男たちの頑強な足に踏みしだかれて、後には汗臭さだけが残るのです。
 ブーメラン型の際どい学校指定水着を身にまとった漢たちは、ただひたすらに体力の尽きるまで泳ぎます。「どうしてこんな高校に入ってしまったのだろう」中学時代の自分の選択を恨みながら、我々は平泳ぎでプカプカと海に浮かび続けるのです。
 その中で唯一の女性といえば、五十を過ぎた引率の教師がいるばかり、しかも恥じらっているのかビーチパラソルの下に座り、パーカーを羽織って水着を隠しています。それがまた我々を悲しい気持ちにさせ、「ババアのくせにむかつく」「三十年前に来い」「生気を吸われる」「はにかむとちょっと可愛い」「もう女性ならババアでもいいんじゃないのか」などと錯乱して言ったり言わなかったり。
 こうして我々は、この季節に一生消えぬ傷を刻み込んだのです。

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