エッセイ

エッセイ「電撃的 春夏秋冬」第5回

『鴨志田一と8月の彼女』
 鴨志田一

【プロフィール】2007年に『神無き世界の英雄伝』で電撃文庫より作家デビュー。2010年より始まった『さくら荘のペットな彼女』シリーズで人気を博す。最新刊『青春ブタ野郎はプチデビル後輩の夢を見ない』は今月発売!

夏が来ると決まって彼女のことを思い出す
 その年の8月は、異常気象に見舞われ、連日暑さの最高記録が更新される悪夢のような日々だった。
 当時、会社勤めをしていた僕は、世のサラリーマンよろしく、日中は空調の効いたオフィスビルでデスクワークをこなし、日付が変わる頃に家に帰るという彩りに乏しい生活を送っていた。
 どれほど遅くに帰宅しても、翌日は朝から出社しなければならない。だから、帰っても簡単な食事を済ませ、お風呂に入って寝るだけだ。
 そうして僕がベッドに潜り込むと、毎晩必ず彼女は耳元に唇を寄せてきた。つい先日から部屋に上がり込んでいる少し天真爛漫な彼女。仕事に追われ、追い出すヒマもないまま、すでに一週間が過ぎようとしていた。
 エアコンを止めると途端に寝苦しくなる熱帯夜にも関わらず、彼女は肌を密着させてくる。その甘えた仕草は、夏によく似合っていた。
「待ってたんだから、まだ寝ないでよ」
 しなだれかかり、彼女が誘惑してくる。
 追い払うように僕が振り払っても、彼女はなかなか諦めない。僕の耳元をくすぐり、首筋を撫で回し、胸元に濡れた吐息を零す。徐々に下へ下へと向かう彼女の視線。
「今日もいっぱいキスしてあげる」
 彼女の熱を帯びた唇が首筋に触れる。その部分がじんじんと疼き、すでに汗ばんでいた僕の体は、興奮を抑え切れなかった。電気の紐を引っ張ると、「やだ、消してよ」と彼女は恥ずかしがったが、構わずに襲い掛かった。
 お互いの弱いところを攻め合いながら熱い夜は過ぎていく。いつの間にか、空は白みはじめていた。今日も仕事があるというのに。だが、すべては彼女が悪いのだ。
 次を最後にするつもりで、僕は彼女に両手を伸ばした。勢いよく、そして、激しく……伸ばした両手をパンっと合わせて叩く。彼女は僕の手に抱かれ、ようやく静かになった。僕から吸った血をその身にまとい……潰れていた。
 嗚呼、モスキート。おあとがよろしいようで。

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