エッセイ

エッセイ「私の電撃体験」第10回

essay_taiken_igarashi

五十嵐雄策

10月3日生まれのO型。第4回hp短編小説賞〈最優秀賞〉を受賞後、『乃木坂春香の秘密』にて電撃文庫よりデビュー。著作に『小春原日和の育成日記』シリーズ、『はにかみトライアングル』シリーズがある。

あれは今から一年くらい前のある夜のこと。その日自分は知り合いの作家さんとバーでほどよく飲んでいて、時刻はもう深夜で電車等もなく、歩くのには少しばかり遠い距離だったため、タクシーを使おうと思い立ちました。道路を走っていたタクシーを呼び止め、いっしょにいた友達の作家さんと車内へと乗り込んだその時でした。車内のどこからかアニメ「乃木坂春香の秘密」のキャラクターソングの一つが聞こえてきたのです。興奮しました。少しばかりほろ酔いだったのも手伝って、テンションが一気に上がりました。ああ、この運転手さんはアニメが好きで、「乃木坂春香の秘密」が好きで、こうして仕事中にもキャラソンを流さずにいられないほど愛してくれているんだなあ……と勝手に思い込み、隣にいた作家さんにも、「知ってます? この曲……乃木坂の曲なんですよ?(ニヤリ)」とドヤ顔でそう言ってしまうほどマックステンションでした。
 ──それで終わってくれればよかったんです。異変に気付いたのはそれから五分後くらいでした。
いつまで経っても車内には同じキャラクターソングが鳴り響いています。最初は、この運転手さんは本当に心の底からこの曲が好きで、リピートモードにしてずっと同じ曲を聴き続けているのかなあなどと思っていました。ふっ、やれやれ、実はその原作者はここにいるんだぜ……みたいなことも思っていました。
 ……その時、気付いてしまいました。音楽の流れ出ている元が、タクシーのスピーカーではなく……自分のポケットからであることに。着うたとして入れておいたキャラクターソングが、タクシーに乗り込んだ時に誤作動を起こしてずっとエンドレスに鳴り響いていたのです。死にたくなりました。全身に電撃が流れるほど恥ずかしいというのはああいうことをいうのでしょうか……その出来事から得た教訓は、人間どんな時も自分の足周り(特にポケット辺り)をしっかり見て生きていけということでしょうか。いえ、オチは特にありません……

NEXT

次回は第18回電撃小説大賞〈大賞〉受賞作『エスケヱプ・スピヰド』の九岡 望先生が登場!

※画像を無断転載することは一切禁止します。

PAGE TOP