エッセイ

エッセイ「私の電撃体験」第11回

九岡 望

昭和六十三年生まれ。熊本県出身。福岡県在住。『エスケヱプ・スピヰド』で、第18回電撃小説大賞〈大賞〉を受賞。好きな廃墟は志免炭坑跡。風景フェチでもあり、趣味は迷子になること。

今からちょうど十年前、二〇〇二年、八月、夏の盛りのことです。
 ある用件で東京を訪れた私(当時中学生)は、ふと思い立って、親と別行動を取りその場所へ向かいました。
 秋葉原です。
 どうして秋葉原だったのか。右も左もわからない田舎の中坊が一人で何やってんだって話ですが、なぜそこを選んだのかは今考えてもわかりません。要は面白そうならどこだって良かったのでしょう。
 死ぬかと思いました。
 余りの人の多さと熱気。真夏の都市の底で、中学生は翻弄されるように歩きました。自身のキャパシティを遥かに越えた量の情報がそこら中を跋扈しており、私はただただ歩行者天国の波を漂流していました。
 そこで、ある得体の知れない中古ゲーム屋を発見したのです。
 人波から逃れるためにその店に飛び込んだ私は、店内の隅っこのXBOX(旧)コーナーに置かれた一本のゲームを手に取りました。そしてなけなしの小遣いをはたいて、それを戦利品として購入したのです。
 これがまさに、私の人生を変えた電撃体験だったと今では言えます。
 それは近未来、廃墟の東京を舞台とするメカアクションゲームでした。台詞や場面の随所に古典SFへのオマージュが感じられ、ゲームとしても面白く、ジュブナイルなストーリーも熱く切なく。
 私のSF好きと廃墟好きとメカ好きは、まず間違いなくここから来ています。
 知ってる人はあまりに少ないですが、紛れもなく少年一人の人生変えちゃうレベルの名作でした。あれをプレイしなければ私はSFを読まなかったし、SFを読まなけりゃ他の何も読まなかったし、読まなけりゃ何も書きませんでした。書いたところで廃墟とロボなんて組み合わせは考え付かなかったでしょう。私の嗜好と創作意欲は、全てあの夏に買ってプレイしたゲームを原点としています。
 そして今、何かの機会で東京へ行く度に秋葉原のあの店を探しているのですが、未だに見つけられないままでいます。あれは一体、なんだったのでしょうか。

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次回は『キノの旅 the Beautiful World』の時雨沢恵一先生が登場!

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