エッセイ

エッセイ「私の電撃体験」第15回

三雲岳斗

『コールド・ゲヘナ』にて第5回ゲーム小説大賞<銀賞>を受賞しデビュー。電撃文庫MAGAZINEにて、『サイハテの聖衣』が好評連載中。最新作『ストライク・ザ・ブラッド』4巻は今月発売!!

このエッセイの〆切そのものを忘れるなど、物忘れのひどさには定評のある私ですが、人生で最初に小説(らしきもの)を書いた日のことだけは、わりと鮮明に覚えてたりします。
 それは小学校高学年のある日のこと。当時の私は授業中にマンガを読んでは怒られ、ペン回しの練習をしては怒られ、教科書に落書きしては怒られるというクラスのお荷物であり、担任教師に厳重にマークされている落ち着きのないガキでした。
 そんな私が編み出した新たな授業中の暇潰しこそが、そう、自作小説の執筆です。机の上にあるノートと鉛筆だけで退屈な授業から逃避するための、いわば苦肉の策でしたが、やってみるとこれが意外に面白かった。誰にも見せるつもりがないのをいいことに、小説の内容は自分の趣味を全開にした学園バトルもの。登場人物のモデルはクラスメイトたち。そこはかとなく漂うエロスとバイオレンス。そして主人公はもちろん自分自身。朝からノリノリで書き進め、ルーズリーフ十数枚にも達する名作が佳境を迎えた、そのときでした。
「――そこの漢字、間違ってるよ」
 耳元で囁かれたその声に、マジで一瞬、心臓が止まったと思います。
 声の主は隣の席に座っていたタチバナさん(仮名)。クラスの女子の中でもわりと可愛いと評判のタチバナさんが、なぜか私の自作小説を見ながら誤字を指摘してくれているのです。
「タチバナサン!? ナゼェ見テルンデス!?」
「え? だって面白かったから」
 そうです。あろうことか私は教師の目をあざむくことばかりに気を取られ、隣の席にいる同級生の存在を完全に失念していたのでした。その間、タチバナさん(仮名)は私の行動を終始見守っていたとのこと。繰り返しになりますが、私の自作小説は趣味全開の学園バトルもので、そこはかとなく漂うエロスとバイオレンスで、主人公はもちろん自分自身なのでした。ギャアアアアアア――ッ!
 そんな感じで人生初の小説執筆どころか校正まで体験してしまった私ですが、その後タチバナさん(仮名)と秘密を共有する仲としてフラグが立つような展開は一切なく、それどころか私は文章を書くことに深刻なトラウマを抱えて、再び小説を書こうと思うまで十年近い歳月を必要とするのでした。それでも彼女があのとき何気なく口にした「面白かった」という言葉には、今も救われているのです。

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