新作紹介

電撃文庫

ドウルマスターズ1

  • 著者/佐島 勤
  • イラスト/tarou2
  • 定価/(本体610円+税)
  • 2014年7月10日発売
  • ISBN 978-4-04-866534-6

TVアニメ『魔法科高校の劣等生』絶賛放送中!
佐島勤と、稀代の実力派イラストレーター・tarou2が放つ、SFシリーズ!

 ――『ドウル』。
 それは、パイロットの『超能力』を拡張させ、物理的な戦闘力へと変換する人型機動兵器である。
 新米ドウルマスター・早乙女蒼生は地球の貧しい都市機構『オートン』に所属し、姉の朱理と共に横浜ポリス軍と交戦していた。
 強力な敵機体から最期の一撃を喰らいかけたその時、蒼生の類い希なるサイキック能力が覚醒、『エクサー』として目覚める。
 それを契機に、ドウルの最強最新鋭部隊『ソフィア』へ入隊を果たした蒼生は、宇宙(そら)へと向かう。
 そこでは、純白の専用機『ミスティムーン』を駆るエリートドウルマスター・玲音との運命の出会いが待っていた――。
 壮大な近未来宇宙を舞台に、少年と少女の『世界』を賭けた闘いが、今始まる。

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キーアート

 


クリエイタープロフィール

■佐島 勤(さとう・つとむ)
電撃文庫『魔法科高校の劣等生』著者。サイエンス・フィクションには一家言がある。


■tarou2(タロウツー)
アニメーター。アニメ『キルラキル』『ビビッドレッド・オペレーション』などの作画監督を担当。

Characters of DOWL MASTERS

  • 早乙女蒼生(さおとめ・あおい)

    早乙女蒼生(さおとめ・あおい)

    「姉さん、俺はソフィアに入隊するよ」

    年齢:16歳/身長:165cm
    『小田原オートン』居住。姉の朱理と共にドウルマスターとして、太陽系連盟エリート部隊『ソフィア』のスカウトを受ける。訓練生のため専用機は未定。自身が子供っぽいことを気にしている。

  • 玲音=ウォード=高城(れいね・ウォード・たかじょう)

    玲音=ウォード=高城(れいね・ウォード・たかじょう)

    「蒼生君、宇宙は初めてですか?」

    年齢:17歳/身長:160cm
    『ソフィア』所属のドウルマスター。階級は少尉。可憐で儚い風貌のお嬢様。お淑やかだが、厳しい一面もある。計測不能のSIMA指数を有するエクサーで、類い希なる操縦能力を持つエリートパイロット。専用機は純白のドウル『ミスティムーン』。

  • 早乙女朱理(さおとめ・あかり)

    早乙女朱理(さおとめ・あかり)

    「蒼生、あんたは私が守ってあげる」

    年齢:17歳/身長:168cm
    蒼生の実姉。『小田原オートン』のエースドウルマスター。SIMA指数90でわずかにエクサーには届かないものの、実力はトップレベル。女性としては背が高めであることを密かに気にしている。蒼生のおせっかいを焼くのが好き。

  • 如月龍一(きさらぎ・りゅういち)

    如月龍一(きさらぎ・りゅういち)

    「面白い! 仕留めてやる!」

    年齢:19歳/身長:185cm
    『横浜ポリス』のドウルマスター。SIMA指数は98。自らの目標のためには手段を選ばない野心を持つ。ドウルマスターとしての実力は、『ソフィア』のエクサーにも匹敵する。

  • フェリシア=リン

    フェリシア=リン

    「お願いします。仲間になってもらえませんか」

    年齢:20歳/身長:165cm
    反太陽系連盟組織『ゲノムス』唯一の空宙母艦『ナグル』の総合オペレーター。ロサと共に龍一と接触を図る。

  • ロサ=クルーズ

    ロサ=クルーズ

    「あなた、ルドラに勝ちたくはない?」

    年齢:21歳/身長:160cm
    反太陽系連盟組織『ゲノムス』のエージェント。スレンダーなフィリピン系の女性で、タイプは違うがフェリシアに見劣りしない美女。

  • マユリ=カーティス

    マユリ=カーティス

    「レニーは相変わらずつれないね。……だかそこが良い!」

    年齢:23歳/身長:175cm
    『ソフィア』所属の軍人。階級は少尉。テレパシーで操作する無人支援戦闘機『アレクトー』のオペレーター。長身の麗人で、同性に友情以上の愛情を向ける傾向がある。


ミニコーナー

◆エクサーとは?
指数100超のSIMAの保有者の呼称。指数100以下では、サイクロニクスの補助がなければ超能力をほぼ現象化できないが、指数100を超えるエクサーはまさに「超」能力と呼ぶに相応しい能力を持つ。エクサーと判明した者は、半ば強制的にドウルマスターとして『ソフィア』の所属となる。

What's the “DOWL”

『ドウル』とは――?

正式名称『タイタニック・ドウル』は、パイロットのサイキックを物理的干渉力に変換するサイクロニクス機関の最も効率的な運用を目的とした機動兵器である。『ドウル』の名称は、「Defender Operated by Wired Linkage」の頭文字をとった『DOWL』技術――内蔵されたサイクロニクス機関によって機体の慣性制御を実現した有線コントロールされるロボット技術から由来する。体高20メートル〜25メートルのヒューマノイド形態のロボットで、外見は、中世の騎士のようなプレートメイルのようなボディ形状をしている。

 

『ドウル』の特性は、以下にまとめられる。

①質量兵器の無効化
サイクロニクス機関による慣性制御装置で発生させた『慣性中和フィールド』により、タイタニック・ドウルは敵からの慣性質量兵器を弱体化又は無効化する。

 

②粒子線兵器と光学兵器の無効化
サイクロニクス機関による気体分子運動制御装置と、光線攪乱粒子を組み合わせることにより粒子線兵器と光学兵器に対して有効な『防御フィールド』を形成する。

 

③パイロットへの負荷Gの無効化
『慣性中和フィールド』は、敵からの攻撃だけでなく、自身の機体の慣性も中和可能で、それによってタイタニック・ドウルがどれ程激しい機動を行っても生み出されるGにパイロットが苦しめられることはない。

 

④人型たる由縁
サイクロニクス機関は搭載している機械の形状が人に近ければ近い程効率的に作動するが、その理由はまだ解析されていない。頭部を切り離されると出力のは7割は低下し、ほぼ戦闘不能となる。

[DOWL]

  • 朧月(ミスティムーン)

    朧月(ミスティムーン)

    『ソフィア』のドウルマスター、玲音専用機。全高二十メートルの、タイタニック・ドウルとしては小柄で華奢な乳白色の機体で、大気圏内外兼用機であるにも関わらずスラスターが露出していないという外見的特徴を持つ。格闘戦を得意とし、通常は主穂と月牙の間に隙間が無い方天戟を使用する。左脚部外側の鞘に中型剣を格納している。両肩に4メートル×8メートルの盾をフレキシブルアームで装備している。この盾は表が4メートル四方のプレートを二枚縦に連結しその裏に2メートル×8メートルのプレートを横に連結している二重構造。プレートの左右両端はエッジカバーであり、表のプレートも裏のプレートも根元の部分とエッジカバーを残して分離可能。分離したプレートは盾を兼ねる巨大な刃(エッジシールド)として機能する。ミスティムーンには『ドゥルガー・システム』と名付けられた特殊なサイクロニクス装置が備わっており、玲音以外には発動不可能で、その詳細は不明である。

  • ルドラ

    ルドラ

    『ソフィア』のエース、ボルジギン=バートリーン=ドルジの専用機。体高はマクリールと同じく現行機最大級の25メートル。機体色は緑を基調としている。背中の中央を交点として右肩から左腰、左肩から右腰に伸びている、薄い箱を交差させたようなX字型の固有兵装を背中につけているのが特徴。これは「気流操作」の固有兵装で、大気圏内であれば燃料を使用せず自由に飛び回ることができる。この機動性を活かし、大気圏内では朧月を上回る戦闘力を発揮する。肉厚長大な野太刀を使う。

  • マクリール

    マクリール

    『ゲノムス』の技術者・ショーン=オブライエンが開発したタイタニック・ドウル。如月龍一専用機。体高25メートルで機体色は透明感のある明るいブルーを基本としている。両肩に頭の高さから腰下まである丸く膨らんだ紡錘形の盾を装備している。この盾は流体装甲に用いるコロイド溶液のタンクになっており、MIDFを改造した『流体装甲』という独自技術を搭載している。

  • 娑羯羅(しゃから)

    娑羯羅(しゃから)

    『横浜ポリス』軍の如月龍一専用機。機体色はネイビーブルー。細身の機体で、両肩、首の両側にジェットエンジンのような形状の固有兵装をマウントしている。白兵戦用の武装は通常のドリル・ランス。

  • 徳叉迦(とくしゃか)

    徳叉迦(とくしゃか)

    『横浜ポリス』軍隊長機。左右両肩にシールド一体型のガンジャベリンをマウントした砲撃戦用タイタニック・ドウルで、機体色は都市迷彩の灰色。

〜キーワード〜

◆アレクトー
「All Range Escort-fighter Controlled by Telepathy Order」、略してARECTOR(アレクトー)と呼ばれる無人支援戦闘機で、テレパシーにより遠隔操作される。平らな三角錐を基本形状とするリフティングボディを採用した小型機で、オペレーターが操縦する小型空中母艦と共に運用される。大気圏内外双方で運用可能。遠隔制御装置は「テレパシー・オーダー・システム」と呼ばれ、平均的なオペレーターは1機のアレクトーをコントロールできるのみだが、熟練したオペレーターは同時に2機〜4機のアレクトーをコントロールする。アレクトーの主武装「コイルバルカン」はガンジャベリンのレールガンをコイルガンに置き換えたものである。

 

◆太陽系開発機構
名目はポリスの連合体とされているが、事実上、全世界を掌握している組織。太陽系連盟とも呼ばれ、『ソフィア』は同組織直属軍の一部隊である。

 

◆磐都アイランド
月の公転軌道及び月の近傍にある地球と月のラグランジュ点に建造された人工天体『アイランド』。スタンフォード・トーラス型と呼ばれるドーナツ型の宇宙コロニーで、自転の遠心力で地球上と同じ疑似重力を作り出している。蒼生や玲音たちが居住する『磐都アイランド』は特徴的な二重リング構造になっており、内側のリングは地上重力の半分の低重力区画で、タイタニック・ドウルの操縦訓練などの訓練に用いられている。

 

◆磐都高等訓練校
人工天体『磐都アイランド』に置かれた太陽系開発機構直属軍の教育訓練機関。15歳〜24歳の士官または士官候補生が通っている。

 

◆ドウルマスター
タイタニック・ドウルのパイロットのことを指す。

 

◆SIMA
「Symbolic Image Materialize Ability」の略。サイキック能力の内、特にサイクロニクス装置で制御・増幅できる物理干渉力を指す。SIMAの強さは原則として0〜100の指数で表される。ドウルマスターに必要とされる指数は50以上。指数100を超えるSIMAを特にエクストラ・アビリティ(Extra Ability、ExA、エクサ)と呼ぶ。

 

◆エクサー
指数100以上のSIMAの保有者の呼称。指数100以下では、サイクロニクスの補助がなければ超能力をほぼ現象化できないが、指数100を超えるエクサーはまさに「超」能力と呼ぶに相応しい能力を持つ。エクサーと判明した者は、半ば強制的にドウルマスターとして『ソフィア』の所属となる。

 

◆サイクロニクス
「psychic」と「electronics」の合成語。ドウルマスターのサイキックを現実の物理干渉力に変換するための電子回路。この技術によってドウルの宇宙・地上問わずの機体の高速運用を可能とした。

 

◆NITU
ニューラル・インパルス・トレーサー・ユニット。NITUで「ニッツ」と読む。タイタニック・ドウルの操縦システムの一つ。パイロットの神経信号をトレースするこのシステムにより、ドウルマスターはタイタニック・ドウルという「甲冑」を着込んで戦う巨人兵となる。

 

◆MITU
マインド・インパルス・トレーサー・ユニット。MITUで「ミッツ」と読む。タイタニック・ドウルの操縦システムの一つ。マスターウェアにより機体と接続するのではなく、頭部をすっぽり包み込むシートのヘッドレスト部で脳から発せられる随意筋運動命令を読み取る。MITUによる操縦はNITU以上に動作を明瞭にイメージ化する能力が無いと、有効な操作を行い得ない。

 

◆衛星軌道治安軍(オービタルガード)
連盟指揮下にあるポリス連合軍の内、衛星軌道の治安活動に当たる部隊。縄張り意識が強く、『ソフィア』を敵視している。

 

◆宇宙人(コズミカン)・宇宙市民(スペーシアン)
宇宙人(コズミカン)は地球居住者から見た宇宙居住者のこと。日本人、アメリカ人と同じように宇宙人と呼んでいるだけだが、宇宙居住者にとっては差別用語。宇宙生活者は自らのことを宇宙市民、スペースシビリアンを短縮してスペーシアンと呼ぶ。

〜ストーリーダイジェスト〜


 地響きを立てて鋼の巨人が闊歩する。一糸乱れぬ二+四×七の方形陣で行進するのは横浜軍のドウル部隊三十機。横浜軍制式タイタニック・ドウル「金剛(こんごう)」が二十八機、砲撃戦を得意とする隊長用機「徳叉迦(とくしゃか)」、そして横浜軍エースドウルマスター・如月(きさらぎ)龍一(りゅういち)の専用機「娑羯羅(しゃから)」。いずれも東京ポリスで開発された最新鋭機だ。
 彼らは偵察機ゼテスが残骸となって転がっている戦場跡で足を止めた。
『二十五番機から二十八番機は偵察隊の救出に当たれ。他の者はこのまま前進する』
 隊長機・徳叉迦と龍一機・娑羯羅が並んで歩き出し、金剛二十四機がその後に続いた。

◇ ◇ ◇

『蒼生、右!』
 徳叉迦が照準を外した理由。それを蒼生は絶望と共に認識した。右手から接近する鮮やかなネイビーブルーの機体。肩の上、首の両側にマウントされたジェットエンジンのような武装。その目立つ色彩とフォルムは横浜軍のエース機、娑羯羅に違いなかった。
 蒼生は慌てて立ち上がろうとした。地面に右手をつく。だが、右腕は自らの体重を支え切れなかった。そのまま無様に転倒する。首(こうべ)を回(めぐ)らせて右腕を見ると、肘の装甲がずれていた。転倒した時に胴体の下敷きになって損傷したのだろう。ドウルの操縦システムは自分の肉体を動かすのと同等の操作性を発揮するが、痛覚は再現しない。機体が損傷してもその情報が感覚としてドウルマスターにフィードバックされることはない。
 今更ながら、蒼生は視界の片隅にダメージサインが表示されているのに気づいた。ポリス正規軍の機体では起こり得ぬ損傷。だが蒼生のタロスは出所が定かでない中古品で、物資が十分とは言えないオートンで整備された物だ。転倒時の受け身は必須だったのに、それを怠った。その結果、右腕の自由を失った。
 再び体勢が崩れ、回避はいよいよ絶望的なものになる。怠慢の付けは、どうやら自分の命で支払うことになりそうだ――そう思いながら、蒼生は左手で身体を起こそうとしていた。ただ殺されるのを待つつもりは無かった。
 そのあがきが、奇跡を呼んだのか。
 いや、これを奇跡と言っては当事者に失礼だろう。彼女は必ず助けるという決意を持って飛び込んだのだから。
 蒼生の視界を赤茶色の巨影が横切った。草原や廃墟ではかえって目立つ砂漠迷彩のタロス?。朱理の機体が娑羯羅にタックルを仕掛けたのだ。
『蒼生、下がりなさい!』
 弟に叫ぶのと、崩れかけた舗道を蹴ったのは、どちらが先だったか。廃墟の道路が足の大きさに陥没し、朱理は娑羯羅へ肉薄した。

◇ ◇ ◇

 娑羯羅の目を通して、否、娑羯羅と視界を重ね合わせて、龍一は突っ込んでくるタロスを見据えた。
 娑羯羅のサイクロニクスが遠雷のような咆哮を放つ。SIMA(シーマ)――シンボリック(Symbolic)・イメージ(Image)・マテリアライズ(Materialize)・アビリティ(Ability)が空間構造に干渉する時に発生する幻聴だ。
 タイタニック・ドウルには専用機と量産機がある。専用機とは文字通り、パイロット=ドウルマスターに合わせて作られた、そのドウルマスター専用の機体のことだ。そして専用機と量産機を分ける最大の相違点は固有兵装の有無にある。
 SIMAは個人の精神が産み出す属人的な力だ。機械的に画一化された能力ではなく、得手不得手の差が非常に大きい。慣性中和装置や気体運動制御装置のような基本装備は適性に関係なく使いこなすことがドウルマスターには要求されるが、それ以外の面では得意分野に特化することが効率的だと考えられている。
 固有兵装は、ドウルマスターの持つSIMAの特性に合わせて作られた武器のことだ。ドウルマスターが最も得意とするSIMAをサイクロニクスで増幅して攻撃に、防御に用いる。固有兵装により、専用機はその機体だけの超常能力を発揮する。
 如月龍一が得意とするSIMAは液体流動制御。娑羯羅の両肩に取り付けられた円筒――ウォータージェットがこの能力を活かす為の固有兵装だ。娑羯羅の右手が、右肩に担ぐ円筒の下に取り付けられた取っ手を握った。タロス?が娑羯羅に接触するまで、あと四歩。
 娑羯羅の右手がウォータージェットの筒先を赤茶色の機体へ向ける。接触まで、あと三歩。
 龍一の目前に浮かび出たクロスゲージがタロス?の頸部に重なる。接触まで、あと二歩。
 娑羯羅の固有兵装が細い高圧水流を吐き出したのと、タロス?が眼前に盾を翳したのは、ほとんど同時だった。
 タロス?の左手から盾が飛んだ。

◇ ◇ ◇

 唸りを上げて回転するビットが盾を失った左側からタロス?の喉元へ迫る。
 娑羯羅の槍は、赤茶色の機体ではなく黒灰色の機体――蒼生のタロス?を貫いた。
『蒼生!?』
 朱理が悲鳴を上げる。
 大丈夫、と言うように、蒼生と一体化したタロス?が振り向いて頷いた。
 娑羯羅のドリルランスは、タロス?の左腕を貫いて胴体の前で止まっていた。
 タロス?が疾走を始める。
 虚を突かれたのか、慣性制御能力でも上回っているはずの娑羯羅がタロス?に半ば担がれて後退する。
 その先は、放棄された旧世紀の埠頭。水辺に建てられたビルの残骸。
 蒼生はそのまま廃ビルに突っ込んだ。
 娑羯羅の背中が脆弱化したビルの壁面を崩す。
 だが致命傷には程遠い。娑羯羅は廃ビルに埋まることなく、その手前でタロス?を受け止め踏ん張っている。ギリギリで慣性制御を作動させたのだろう。
 蒼生(タロス?)の右腕はさっきから動かない。左腕ももげ掛けている。突き放されれば今度こそ絶体絶命だ。蒼生には、抵抗の手段が無い――
(くそっ、何とかなれっ!)
 それでも蒼生は諦めなかった。諦めることが即、死を意味する。そんな日々を潜り抜けて小田原に流れ着いた蒼生に死を受け容れるという選択肢は無い。
 絶望しても、諦めない。
 どんな不条理にもしがみつく。
 そんな、盲目的な生への執着を、蒼生はサイクロニクス機関に注ぎ込んだ。
 超常の現象を起こすタイタニック・ドウルの心臓。
 それが今、可能性の扉をこじ開ける。
 蒼生のSIMAを呑み込んだタロス?のサイクロニクス機関が、彼の闘志を戦う為の力に換える。武器として顕現する。
 電光が迸った。
 雷の覇者が産声を上げた。
 最大出力一テラワット。
 放電時間、百分の一秒。
 出力で自然現象に匹敵し、エネルギー量で自然現象の十倍にも達する雷が至近距離からネイビーブルーの機体を撃つ。
 ドウルも電気で動く機械だ。過大な電圧は内部機構を損なう。今の一撃は娑羯羅の耐久限度を超えるものでは無かったが、一時的な機能低下を引き起こすには十分な電撃だった。
 もし追撃が可能であったなら、蒼生は横浜軍エース撃墜という大金星を上げていたことだろう。だが未だ、可能性の扉はわずかな隙間を開いただけだった。
 運命はそれ以上のサービスを行うつもりが無いようだった。
 娑羯羅だけでなく、タロス?のサイクロニクス機関も沈黙していた。分かり易く言えば――厳密には違うのだが――オーバーヒートだ。
 最新鋭機である娑羯羅は、すぐに再起動するだろう。
 しかし、タロス?の損傷は限界を超えている。元々この機体は電撃を放つようには作られていない。サイクロニクス機関はSIMAを増幅し安定的に出力する装置でありSIMAの個人的特性に拘わらず作動する物だが、SIMAを効率的に攻撃力・防御力として利用する為にはその種類に応じてカスタマイズされた装置、固有兵装が必要となる。タロス?のサイクロニクス機関は設計段階でこれ程強力なSIMAの使用を想定していなかった上に、出力がスムーズに行かなかった所為で余計な負荷が機関に掛かっていた。
 そしてそれ以上に。
(か……らだ、が……動か、ない……と……動、け……)
 蒼生の疲労が限界を超えていた。過大なSIMAの放出に耐えられなかったのは中古の機体だけではなかった。満足な訓練を積んでいない蒼生の意識は、大量のSIMA放出による急激な脱力感に朦朧としていた。

◇ ◇ ◇

(今の電撃は一体何だ?)
 娑羯羅の機能は全面的に麻痺している。それにも拘わらず、如月龍一は操縦席でそんなことを考えていた。
 機体の麻痺が一時的なものであり、ごく短時間で回復することが分かっていたからだ。すでに復旧プロセスが進行している。龍一の心に焦りは無く、彼の意識は機体の受けた正体不明の攻撃に向けられていた。
(SIMAによる攻撃であることは確実だが……)
 タロス?は一世代前のドウルであり、そのスペックは細かい部分まで判明している。あの機体に電撃を放つ機能など無い。同時に、SIMAを電撃に変換するサイクロニクス装置を搭載していないことも分かっている。
(サイクロニクス機関の基礎的な機能だけで固有兵装に匹敵する攻撃を繰り出した?)
 彼の知識の範囲内で、そんなことができるのはエクサーだけだ。
「まさかな……」
 龍一の口から無意識の呟きが漏れる。
 彼の呟きに、娑羯羅の電子頭脳は不適正コマンドのアラートを返した。

◇ ◇ ◇

(これはダメかな……)
 弱気になるのとは違う。妙に冷静な思考が朱理の意識をよぎった。自分がやられてしまったら蒼生がどうなるのか、気懸りではあった。だが今までずっと自分が守ってきた蒼生が、今まで見せたことのない力で自分を守ってくれた……そのことが、朱理に不思議な充足感を与えていた。
(無抵抗でやられるつもりは無いけどね)
 せめて最後に一矢報いてやろう。そう決意した朱理に、予定どおりの救い手が訪れた。
 天から軽やかに舞い降りる巨体。
 朱理のタロス?と龍一の娑羯羅のちょうど中間地点に降り立つタイタニック・ドウル。
 体高二十五メートル。現行のドウルとしては最大級の、世界で最も有名な機体。ソフィア最強とその名も高いエース機――
「ルドラ!」
 朱理は思わずそのドウルの名を叫んでいた。
 ルドラの着地と同時に、標準周波数通信で勧告が下される。
『こちら太陽系開発機構直属機動部隊SOFEA(ソフィア)所属艦グリンブル。横浜、小田原両軍は直ちに戦闘を中止してください』


★続きは本編で!

SPECIAL スペシャルリンク

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