新作紹介

電撃文庫

失恋探偵ももせ

  • 著者/岬 鷺宮
  • イラスト/Nardack
  • 定価/(本体630円+税)
  • 2013年4月10日発売
  • ISBN 978-4-04-891553-3

第19回電撃小説大賞<電撃文庫MAGAZINE賞>受賞作品

 「恋はいつか終わります――」
 そんなことを言う後輩の千代田百瀬に巻き込まれ、野々村九十九は「失恋探偵」である彼女に手を貸す日々を送っていた。
 ――失恋探偵。
 それはミステリ研究会の部室を根城にして行われる、学校非公認の探偵活動。恋に破れた人のために失恋の真実を調べる彼らのもとには、それぞれに失恋の悩みを抱えた依頼人(クライアント)たちが訪れて――。
 第19回電撃小説大賞〈電撃文庫MAGAZINE賞〉受賞作の、叶わぬ恋の謎を紐解く学園青春”失恋”ミステリ、ついに刊行!

失恋探偵ももせ 【電子特別版】

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電撃文庫

失恋探偵ももせ 【電子特別版】

それは恋を知らない探偵少女が解き明かす、甘くて苦い、恋の終わりの物語──。 文庫未掲載の短編も特別収録!!

「恋はいつか終わります──」 そんなことを言う後輩の千代田百瀬に巻き込まれ、野々村九十九は「失恋探偵」である彼女に手を貸す日々を送っていた。 ──失恋探偵。 それはミステリ研究会の部室を根城にして行われる、学校非公認の探偵活動。恋に破れた人のために失恋の真実を調べる彼らのもとには、それぞれに失恋の悩みを抱えた依頼人(クライアント)たちが訪れて──。 第19回電撃小説大賞〈電撃文庫MAGAZINE賞〉受賞作の、叶わぬ恋の謎を紐解く学園青春失恋ミステリ! 電子特別版には、2013年6月発売の『電撃文庫MAGAZINE Vol.32』掲載短編『失恋探偵ももせ 散開と再生(Stereophonic)』も追加収録!

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キャラクター紹介

  • 野々村九十九(ののむら・つくも)

    野々村九十九(ののむら・つくも)

    「百瀬のことは良い後輩だと思ってる。でも――」
    道立宇田路中央高校ミステリ研究会の部長。二年生。本来の「ミステリ作品の鑑賞、研究」に勤しむこともなく、百瀬に引きずり込まれた探偵活動に身を投じてしまっている。

  • 千代田百瀬(ちよだ・ももせ)

    千代田百瀬(ちよだ・ももせ)

    「――恋は、いつか終わります」
    この春、ミステリ研究会に入った新入部員。失恋に関わる事件を解決する「失恋探偵」。素直で可愛く、頭も良いのだが空気が読めないのが玉に瑕。むやみに髪を掻き回す癖がある。

舞台

道立宇田路中央高校(どうりつうたろちゅうおうこうこう)
北海道の小都市「宇田路」にある公立高校。宇田路市はオルゴール館や駅前の市場など、観光資源も多く避暑地としてもそれなりに有名。物語は秋も深まり、「失恋探偵」の活動が話題になり始めた頃から始まる……。

プロローグ

 

「恋は終わり際が肝心なのですよ」
 窓際の席で百瀬はそう言った。
 読んでいた少女漫画から顔を上げ、短めの髪をぐしゃぐしゃと掻きながら。
 なぜ「失恋探偵」なんて始めたのか、という問いに対する答えがそのセリフだったのだけど、しかし俺には彼女の言う意味がいまいち理解できない。
「どういうこと?」とさらに尋ねる。
「恋にはいつか終わりが来ます。その時何か未練を残してしまうと、上手く次の恋に踏み出せなかったり、ともすれば恋愛自体を嫌いになってしまったりもするわけです。そんなの、悲しいではないですか。あるまじきことではないですか。ですから私は、出来る限り絡まった糸をほどいて恋を終えることができるよう、皆さんのお手伝いをしたいのです」
「ふーん、なるほど」
 一度うなずく。
「でも俺は、未練を残すことよりも『恋はいつか終わるもの』っていう百瀬の前提の方が悲しい気がするけどな……」
「そうですか?」
 百瀬は小さく首をかしげた。乱れて空気をはらんだ髪が、ふわりと揺れた。
「でも、事実そうでしょう。振られて終わる場合は当然として、相手にその気持ちを受け入れてもらえたとしても、さらには結婚したとしても――恋はいつか終わります」
 切れ長の目がまっすぐこちらに向けられる。漆黒に潤んだその瞳には不思議な力が宿っているように思えて、俺は慌てて視線をそらした。
「結婚した後もずっと仲が良い夫婦だっているだろ」
「ええ、それはそうですね。ただその二人の間にある感情は、恋とはまた別種の物でしょう。そういう意味で、彼らの恋もまたどこかの段階で終わりを迎えたのです」
「……まあ、そうも言えるかもしれないけどさ」
「別の例を挙げましょうか」
 言って、百瀬は二、三度瞬きした。
「たとえば、漫画を好きになるのと同じです。どんなに好みの作品でも、いつまでも最初に読んだ時と同じようにドキドキすることはできません。お気に入りではありつづけたとしても、いつかときめきは失われてしまいます。私はその、消えてしまう気持ちこそが恋であり、だからこそ貴いものなのではないかと思うのです」
「んん……」
 腕を組み、小さく唸る。
 確かに、「ドキドキ」だとか「ときめき」には寿命があるのかもしれない。以前、雑誌か何かでも「恋は三年で終わる」と書かれているのを見たことがあった。
 ただそれでも――俺は百瀬の考えに共感することが出来なかった。はっきりした根拠や理由があるわけでもないのだけど。
 ちょっと話を変えよう。
「んー、じゃあさ、仮に恋の終わりを手伝うにしても、例えば探偵じゃなくて相談に乗る、とかじゃダメだったのか?」
「もちろん、人に話すことも失恋の痛手を癒す一つの手段ではあります」
 うなずいて、百瀬はもう一度髪を掻いた。
「ただ根本的に、人は唯一『事実』によってのみ救われるのではないかと私は思うのです。誰かに話す、という一時的な逃避ではなく、きちんと実際に起きたことと向かい合い、それを受け入れることが出来た時に、初めてきれいに『恋が終わった』と言えるのだと思うのです。だから私は、恋に敗れた人たちがまずは事実を知ることが出来るよう、探偵という手段を選んだのですよ」
「うーん……」
 これもまた、微妙に納得がいかない。言っていることはわからないでもないし筋が通っているような気もするけど、諸手を挙げて賛成する気にもなれない。どんなに辛い事実でも、受け入れるのが土台無理なほど悲しい失恋でも、絶対そこに向かい合わなければ「恋が終わった」とは言えないのだろうか。
 彼女の事は良い後輩だと思っている。物静かだし、大人しいし、賢いし、なんだかんだで毎日きちんと部室にも来る。すぐ髪をくしゃくしゃにしてしまうその癖にも、それなりに愛嬌を感じていた。とはいえ、たまにこうやって覗かせるその不思議な思想には、「よくわからないなあ……」と思わされてしまうのだ。
 俺が黙ったのを見て会話が終了したものと判断したらしく、当の百瀬は再び少女漫画に目を落とした。古典文学でも読んでいるみたいに難しい表情で顎に手を当てながら。
 ぼんやりと、その姿を眺める。
 小さな顔に不釣り合いなほど大きい目。主張しすぎないが通った鼻筋。薄い唇はどこか大人びた憂いを帯びているけれど、頬に差すわずかな赤みやページをめくる指はやや幼い印象だ。
 俺の座った位置からは爆発状態になったその髪が、石鹸みたいに白い肌が、ブレザーに包まれた小柄な体が、オレンジ色の日の光にうっすら滲んで溶けていってしまいそうに見えた。
 十月の放課後の日差しは、どこか儚い。
 何となく百瀬、と呼びかけると、彼女は何も言わずこちらを見て首をかしげる。
「……すまん、なんでもない、呼んでみただけ」
「そうですか。おや、先輩、そろそろクライアントが来る頃ですよ」
 彼女は壁に掛けられた時計に目をやった。
「準備は出来ていますか?」
「おう、大丈夫だよ。っと、その前に、百瀬。髪の毛、ちゃんとしとこう」
 俺が彼女の頭に手を延ばすと、百瀬は「はい」とうなずき漫画を鞄に戻した。大人しくうつむくその髪を、手櫛でささっと整えてやる。
 この時は。こうやって髪型を直されている時だけは、感情表現の希薄な百瀬も少しだけ落ち着いたような表情を見せる。以前は何を考えているのかわからなくて随分戸惑ったが、最近になって俺はようやく彼女の表情の変化に気付けるようになり始めた。喜んでいるときだとか上機嫌なときだとか寂しいときだとか不機嫌なときに彼女が見せる、小さな顔色の変化に。
「よし、綺麗になったぞ」
 あらかた乱れを直し終え俺がそう言うと、百瀬はサラサラになった髪を一度撫でた。
「うん、ありがとうございます」
 満足そうな声色の百瀬。
 彼女は小さく息を吸い込むとその場で背筋を伸ばす。
 瞬間――俺は彼女がまとう雰囲気が少しだけ変質したのをはっきりと感じ取った。
 それまでのリラックスした空気感が霧散し、その目が全てを見透かしそうに光り始める。
 百瀬はこちらを向くと静かに、そしてどこか厳かに探偵業務開始の合図を口にした。
「では先輩、参りましょうか」

 

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