そんな訳でプロットです。
 いよいよ創作活動っぽく見えてくる作業段階、つまり『自分以外の第三者の目に留まるかもしれない』ところまでやってきました。
 ただ、実際にはプロットはお話作りのために絶対必要なものではありません。私の場合でも、『とある魔術の禁書目録』はプロットを提出していますが、『ヘヴィーオブジェクト』はプロットを作らずにお話を書いています。なので、いらない方には全くいらない項目なのです。
 ここでは作る前提で話を進めていきたいと思います。
 プロットを作る上でのメリットは、

『作家の頭の中にしかない情報を、他の人と共有できる』
『作家自身が頭の中にある情報を忘れないようにバックアップする』
『途中で話を変えたくなった時の参考になる』

 などでしょうか。
 ただ作品を作るだけなら、最初の一つ目は必要ないかもしれません。基本的に編集さんに見せてゴーサインをもらうためのものですからね。
 二つ目と三つ目が割と重要で、例えば二つ目は『設定や伏線の回収し忘れを防止できる』、三つ目は『話を書いている内にストーリーの展開を変えた方が面白いと判断したが、やってみたら失敗した。話を元に戻したいが、何か参考にするものはないか』といった事態を乗り切るために使えます。
 小説を書く、という作業は一月以上の長丁場となります。最初に思っていた事を最後まで覚えていられるか、なんていう当たり前の事が、実は後になって結構響いてきたりするんですよね。
 デメリットとしては、

『プロット自体も作業は作業なので疲れる』
『アドリブでキャラが勝手に動く、という現象を阻害する』

 などがあります。
 一つ目、本末転倒なのですが、プロットを書いて満足してしまう、燃え尽きてしまう、というのは私の場合普通にあります。プロット専用フォルダに何十本『新作』が突っ込んである事やら。もしも小説に挑戦してみたいと考える方がこういう燃え尽き現象に遭遇したらプロット作成は『向いていない』と思いますので、プロットを書かずにいきなり小説を書く方向へシフトするべきかな、と。
 二つ目、極めて稀にですが、本当に書きやすいキャラクターやシチュエーションを組む事に成功した場合、作家当人の予想を超えてキャラクターが勝手に動き出す、という現象が発生する事があります。これは偶然の産物である場合が多いので、レシピのしっかりしたカクテルより、適当に色んなジュースを混ぜてオリジナルドリンクの研究をする方がイメージは近い、つまりプロットを書かない方が文章がはっちゃける、という訳ですね。
 ただ、『基本中の基本』から始める場合は、まずプロットの書き方を覚えた上で、不要と思ったらプロット作業を切ってみる、くらいから始めた方が無難とは思います。小説は基本的に独学ですので、一度ついた癖、というのは意外と尾を引くものですからね。


 実際のプロットは作家さんによってバラバラだと思いますが、私の場合は『タイトル、テーマ、人物、舞台、時期、用語、あらすじ』の項目に分けて箇条書きしています。
 個々については、後述で詳しく解説しますので、まずはプロット全体についての話を。
 プロットで必要なのは『頭の中にある情報を改めてまとめる事で、設定やストーリーに不備がないか確かめる行為』ではないかなと。自分の手で文章化するのも、編集さんに提出するのも、全てはこれに繋がっています。
 ようは、『頭の中ではちゃんと分かっているんだよ!』を、もう一度精査してみる、という作業ですね。
 なので、逆に言えば、この確認作業に不要な情報はプロットに書き込まなくても構わないのです。
 例えば『用語』を書こう、と言って作中に登場する二〇〇なり三〇〇なりのオリジナル用語をまとめた辞書をドカンと作る必要はありません。そのストーリーを説明するのに最低限必要な重要ワードだけをピックアップすれば大丈夫ですので。
 私の場合は、一〇個もないと思います。
 当然、一冊の中に一〇個しか情報がない、という訳ではなく、『こういう話をやりたいんですけど』と最低限説明するのに必要な項目、という意味です。これは初めての街を歩く人に携帯電話越しに道案内する時の『目印』に似ているかもしれません。街の中には色んなものがありますが、十字路、鉄塔、公園、銅像など、途中にある『目印』を把握して説明すればスラスラとスムーズに道順を説明、共有できるといった感じで。
 前述の通り、『プロットで満足して燃え尽きる』では何の意味もないため、できるだけ疲れないよう各部を工夫する、簡略化する、というのが実は一番大切なのかも。
 プロットは箇条書きメモよりはしっかりしていますが、それでも重要なのは『プロットに全てが書いてある』ではなく、『プロットを読めば自分が何を書きたかったか思い出せる(または第三者に説明できる)』というラインですので。
『全てが書いてある』のは、言うまでもなく完成原稿以外ありませんからね。