【Pick up】吸血鬼の突然変異について【Net files】



 吸血鬼は基本的な性質の他に、個体ごとに特殊なスキルを持つ者も多い。こちらについては犠牲者当人の性質と、噛み付いた吸血鬼が保有していたスキルとが掛け合わされて起こる、突然変異との見方が濃厚だ。一部のセクションでは血を吸われる事で細胞の活動が停止に向かう、つまり後天的に染色体が傷つけられる事との因果関係から法則性を解き明かそうとしているようだが、おそらく空振りに終わるだろう。

 体が小さくなる、狼やコウモリに化けるなど、その応用範囲の広さは物理の範囲で説明しようとする気概さえへし折りにかかってくる。

 私も様々なサンプルを眺めてきたが、中でも特に凶悪なのがこいつだ。

 ウピオル。

 元を辿ればポーランドに伝わる吸血鬼。こいつのヤバい所は、吸血鬼と名乗っておきながら人を噛まずに攻撃を行う手段をいくつも備えている点だ。

 一等凶悪なのが鐘の音。

 基本的にウピオルは昼間行動する吸血鬼とされているが、中には真夜中に教会に忍び込んで鐘を深夜に打ち鳴らす事もある。するとウピオルの享年に近い同年代の人間はこの音を聞くだけで皆殺しにされてしまう。

 住人は殺されるだけなら不幸中の幸いか。

 吸血鬼にならないのならまだマシか。

 そんな話じゃない。

 ウピオルはかなりバリエーションの多い吸血鬼だ。先ほども昼間行動する吸血鬼と説明しながら真夜中に鐘を鳴らすと説明した通り、丸っきり正反対の性質すら備えている。

 そうした伝承の中に、あるのだ。

 他の多くの吸血鬼が生者の血を求めて徘徊するのに対し。

 ウピオルは、死者の心臓から好んで血を吸うという話が。

 もしもウピオルが一夜にして村や街に壊滅的な被害を与え、さらに死者に鞭打つように血を吸うとしたら。つまり死者が次々に吸血鬼に変じていくとしたら、もう免れた生者達だって化け物の群れに呑み込まれてしまう。強大な吸血鬼を取り囲んで何とか倒すという図式すら許されず、数の暴力でさえ圧倒されてしまう。

 勝てるのか、そんな化け物に。

 膂力、知性、さらには数。何もかもを備えた吸血鬼に、人は何を誇れるのだ?