【Pick up】自動送信されたリザルト報告への対処【Net files】



 ・公立供饗第一高等学校


 ゾンビ、吸血鬼共にアウトブレイク開始。

 この時点で設置型のウェザースフィアと情報班のドローンの双方から状況を確認。

 しかし中央班の判断が遅滞。三〇〇名以上の生徒・教職員の目を盗んでゾンビ、吸血鬼を摘み取る隠蔽手段を模索している内に状況が進んでしまう。


 ・湾岸観光区駅前繁華街


 日中という条件もあり、ゾンビ側が優勢。当該高校から外へ感染を拡大させていく。

 繁華街を中心に、いくつかのブロックが餌食に。

 光十字の対応が分かれる。

 中央班を頂点とした地下活動組はあくまで情報の隠蔽を優先するが、地上活動組から情報班を筆頭に一般人の救出を優先すべきという意見が噴出。機密保全上の理由により中央班が一般人の地下受け入れを拒んだ事により、地上にいた情報班の一部が光十字から離反する。


 吸血鬼側が水面下で一般人に対し情報工作を開始。

 少なくともこの時点で市議会や警察署、放送局などに間者を送り込まれていた他、日中も動けるウピオルによる工作も進んでいたと推測されるが、我々の網にはかかっていなかった。


 吸血鬼と一般人の双方に追われるゾンビ側が劣勢を覆すため、供饗動物園へ侵攻。多数の動物を感染させ、檻から解き放った事によりパニックが拡大。さらに、動物園に由来しない動植物の感染、変異も確認。

 吸血鬼側は一般人の間接コントロールを放棄し、演技を捨てて全力で対処に向かう。

 独走する一部情報班が観光バスなどを使って一般人をピックアップしようとしたようだが、ここでゾンビ側に襲われて壊滅。


 警察署や市議会など街の主要機関、抵抗勢力がバリケードの内側から吸血鬼に貪られる。また、劇場や球場など多くの一般人が身を寄せていた非公式待避要塞でも被害が拡大。吸血鬼の簒奪が進み、優勢に傾く。都市インフラの壊滅的ダメージを受け、光十字にも衝撃が走る。

 協議の結果、中央班は供饗市勢力単独での問題解決を断念。自衛軍を中心とした外部勢力へ共闘を打診する。


 ・中央金融区ビジネス街


 要請を受けて自衛軍(災害派遣名目)が観測ヘリ部隊を供饗市へ投入。

 だが吸血鬼側がこのヘリ部隊を一蹴。事態を重く見た自衛軍側は光十字、及び一般人の救出に見切りをつけ、被害の拡散防止に注力。橋やトンネルを爆破し、街全体を陸の孤島とする。

 この辺りから光十字の命令系統に明確な綻びが生じ始める。

 中央班による実現不可能な命令の重複や、彼らに対する不信から対処班、情報班、医療班、洗浄班などの不服従が目立つようになってくる。


 ・供饗ダム


 ゾンビが供饗ダムに侵攻。

 ダム湖に眠る『秘密』を保持するため、情報班、対処班を中心とした残存勢力の多くが駆り出されるが、結局はダムの決壊を許してしまう。

 単純にダムの底の件もそうだが、ここで市内全域が水没したのが後々大きく響いてくる。各所にある扉が水圧により開かなくなったため、大きな密室に閉じ込められてしまう事に。


 ・湾岸観光区駅前繁華街(水没後)


 命令系統の崩壊により、実質的に光十字は組織としての体裁を維持できず。

 短絡的、近視眼的な抵抗作戦あるいは撤退作戦ばかりが提示され、無駄に時間を空転させる。

 その間に吸血鬼側にウピオルの鐘の音を許し、事前の仕込みと合わさった事で相当数の手駒を確保されてしまう。


 ・中央金融区ビジネス街(水没後)


 ゾンビと吸血鬼の散発的な戦闘が続くが、光十字の出動は確認されず。

 ゾンビ側の水没攻撃に加えて吸血鬼側が月蝕を起こすヴァルコラキの伝承をヒントにしたと思しき疑似小惑星衝突攻撃により、中央金融区ビジネス街が消滅。副次的効果により供饗市全域の都市機能が完全に麻痺。自衛軍は一時退避し、防衛ラインを下げる。吸血鬼側が携帯電話を所有している事が判明したため政府の交渉人がコンタクトを図るが、こちらは一蹴される。


 ・国立供饗大学付属病院


 水没による扉の封鎖と、表の疑似小惑星衝突攻撃。光十字は地下に籠城するか思い切って外に出るかで意見が分かれる。

 唯一開放可能な扉として高台の病院がクローズアップされたが、そこへゾンビが襲撃。ゾンビは院内に残っていた光十字メンバーの指紋と虹彩を奪って正規手順で開錠した模様。

 同病院地上部分は二度目の疑似小惑星衝突攻撃で消滅。

 ゾンビ、吸血鬼共に地下隧道網228Dに侵攻。光十字は唯一の出口を失う。

 対処班、洗浄班を中心とした残存勢力が最後の抵抗を試みるが、惨敗。


 ・光十字減災財団地下活動範囲


 ゾンビ、吸血鬼の侵攻を食い止められず。

 施設の奥深くまで汚染が進み、同組織は機能停止に追い込まれる。



 ※総評。

 民間協力タイプの災害環境シミュレータ『マクスウェル』からの報告については、以降クラスSの秘匿体制で情報管理する事。

 今回得られたデータは極めて有益ではあるものの、その活用方法については細心の注意を払う事を通達。ここまでの宝の山を流言飛語の増産程度にしか扱えぬ者は、もはや当プロジェクトへ参加するだけの知性は持たないものと判断する。

 特に有益性が高いのはゾンビと吸血鬼がどのようにして供饗市を壊滅に追いやったのかのタイムスケジュールと、彼女達の行動に際し我々の対処がことごとく後手に回ったという惨憺たる結果についてである。

 単純に考えれば良い。

 実際にこれと同じ事例が発生した場合、現状の装備では為す術もなく状況を持て余し、同じ数だけの犠牲が出る。

 街の隅々に配置したウェザースフィアも、回収インフラの地下隧道網も、それらを扱う重装備の対処班も、レベル1から4の処置室も、全て意味がない。特に終盤戦において地下の拠点にアークエネミーの侵攻を許してからは目も当てられない結果となっている。

 早急に体制の刷新を希望する。

 重ねて明記するが、今回の結果を受けて短絡的な行動は厳に慎むように。不安や恐怖に駆られて強引な手段に打って出たところで、穴の空いた現体制では吸血鬼やゾンビに返り討ちに遭い、彼女達が戦力確保のために増やした配下がどこまで広がるかは考えたくもない。また、シミュレータの保有者でもある天津サトリ少年の扱いにも細心の注意を。あくまでも今回の件は学閥や学歴の助けを持たない素人が個人で作り上げたマシンの物理演算上で再現されたフィールドに過ぎず、社会的な信憑性はほとんどないに等しい。彼が何を公表したところで誤った計算に基づく根拠のないシミュレーションだったと封殺できるが、一方で同少年が機密に触れているとみなして処理するのも可能。ただし短絡的な手に出れば、吸血鬼とゾンビを両方一気に敵に回す事を意味する。無計画で行動を起こすのは短期的な勝利と引き換えに長期的な敗北を呼び込みかねない。

 かつて流刑地であった立地を利用した陸の孤島の封じ込めとやらも机上の空論である可能性が高くなってきた。たった一度の愚行が光十字に庇護を求めた一国家を滅ぼす結果へと繋がりかねない事を忘れないように。

 逆に言えば、新体制さえ確立すれば話は変わってくるのだ。

 ゆめゆめ、近視眼的思考でわずかに残った好機の芽を潰してしまう事のないように。


 我々はあらゆる『災害』を克服する。

 元より『それ』が人智を超えている事など百も承知である。


光十字減災財団中央班