第十章



 創造は神の仕事だ。

 我々はただ与えられた元素の中で無限のアイデアを開花させていく。RGB三色あればあらゆる色彩を撒き散らす事ができる、などと慢心してはならない。逆に言えば、我々は何をやるにせよ必ずその三色を通過しなくてはならないんだから。あらかじめ用意されたものしか使えない。RとGとBの間に余計な第四原色を挟む資格はないのだ。なんと安全で、そして息苦しい自由か。

 ……天の神々へ反逆し、その肉の器でも剥ぎ取って私の魂へ着せる事ができたなら、そういった荒唐無稽な夢物語にも手が届くかと思ったのだが。まあ、いつまでも未練について語ったところでどうにもなるまい。


 次に進もう。


 やりたい事など山ほどある。私はまだこの監獄を一割も試していない。あれもやりたいしこれも試したい。注意を払わなければ集中を持続できず、かえって自分の計画を自分で投げてしまいそうだ。それほどまでに世界は広くて、しかし、その価値に気づいている者は驚くほど少ない。

 この世界が監獄である事に気づいている存在は。

 あまりに広過ぎて壁や鉄格子、いわゆる果てが見えないためか。

 多くの神話宗教では神々の住まいは現世から隔絶されている。そこへ向かう事を最終目的に掲げるものだって珍しくない。言うまでもなく世界は天の神々が作ったはずなのに、それにしては現世は苦しみで満ちている。中には神々の住まいから外へ出す事を、追放という名の刑罰にしているものさえあるほどだ。

 自由なら良いのか。

 快適なら問題ないのか。

 私は違う。そうは思わない。だから使えるものは全て拾い上げて自分の武器とする。この監獄の中ではあらゆるものに価値がある。針金一本あれば鍵が開くかもしれない。箸の先を鋭く削れば武器にはならないか。そうやって挑んできた。ずっとずっと。潜伏クラウドは良いところまで行ったんだが、あの方法ではダメだ。ならばもう一度監獄全体の図面を見直し、全く別の経路を辿って出口を目指すしかない。

 そう。


 私はジェイルブレイクしたいんだ。

 元の罪に興味はない。善悪正否もどうでも良い。他の全ての脱獄者が身勝手にもそう思うように、この快適な鳥かごが息苦しくて仕方がないんだよ。