キラプリおじさんと幼女先輩



第二章




「うわ……あいつ今日もいるよ」

 翌日。

 学校が終わった後、わくわくらんどに到着すると、昨日の少女が筐体の椅子に座っていた。

 最悪だ。

「またきたの」

 背後に近づく俺の気配を察したのか、少女は桜色のカードケースを開こうとした手を止めて、ちらりとこちらを振り返る。あいかわらず、幼い容姿のわりに凄まじく整っている面立ちだ。まるで高価な西洋人形のような――粗雑に扱うと壊れてしまいそうな――神秘的で、儚げな雰囲気がある。表情も普通の小学生と違って大人びている……こいつやっぱ、ここらの田舎者じゃねーな。

 後ろに並んで腕組みすると、少女は冷たい表情をものすごくイヤそうに歪めて、ぷいと手元のカードデッキに視線を戻した。そんな少女の右回りのつむじを見下ろして、

「ここは俺の庭なんだよ。おまえこそなんでまたここにいるんだ」

 このわくわくらんどは、退屈な学校生活で日々溜まったストレスを発散できる唯一の癒しの空間なのだ。

 しかし少女は手元のカードを整理しながら、

「私がどこにいようがあなたには関係ない。店舗ランキングが私より下の順位の『2位』のくせに一人前に筐体の占有権を主張するのね」

「ぐ……」

 くそ、俺のプライドをズタズタに引き裂いてきやがる。昨日受けた仕打ちが脳内にまざまざと蘇る。ハイスコア強奪……ハイキック……舞い散るアイテムカード……迫り来る警備員…………ドブ色のフラッシュバックに苦しんでいると、

「そんなにキラプリやりたければ、他のお店にいけば? なにも私のうしろに並んで順番待ちしなくてもいいでしょ」

「ふん、俺だって好きでおまえの後ろに並んでるわけじゃねーよ。このあたりでキラプリが設置されてる店はここしかないんだからな」

「え……ほんと?」

 少女はきつく眇めていた目を少し丸くして驚いている。なんだ、意外に子どもっぽい顔もできんじゃねーか。てか、なんで今さらこいつそんなことに驚いてんだ?

「……おまえさ、ひょっとして、最近ここに引っ越してきたのか?」

「……そ、そうだけど」

 なるほど。ならば新参者に、この土地の衝撃の事実を教えてやらねばなるまい。

「あのな、おまえがどんなすげー都会から越してきたか知らないけど、この町でキラプリやれるのはこのマルワのわくわくらんどだけだ」

 本州最西端、三方を海に囲まれた中核市、下関。中核市とは名ばかりで、過疎化が進む地方によくあるように、この市はさびれにさびれている。その市内でもさらにど田舎に属するこの町でキラプリやろうと思うならば、このわくわくらんどか、あとは電車を乗り継いで、海の向こうの北九州まで行かなきゃならない。

 もっとも、田舎住みが染み付いている俺としては、わざわざ海を渡らずとも、自分の生活圏内にキラプリ設置店があっただけでも信じられない幸運だと思っている。もはや神にキラプリせよと言われているのではないかと使命感すら覚えている。

「……信じられない……」

 少女は顔を青くし、

「……筐体一つでよくいままで生きてこられたわね……」

「いや、一台あれば充分だろ」

「私が以前住んでいた場所ではキラプリは一店舗につき四台設置されていたわ」

「よ、よんだい!?」

 すげぇ、都会すげぇ! そんなにプレイ人口がいるのか! 盛り上がってんな!

 まあそのかわり、ここみたいな田舎はキラプリのプレイ人口が少ないので、ほぼキラプリやり放題という素晴らしい恩恵がある。といってもこの小学生のせいでその恩恵さえも潰えたが……。

「よいしょ……と」

 ふいに、少女は筐体に立て掛けていたランドセルから分厚いカードファイルを取り出した。ランドセルの肩ベルトに、桜の花びらの意匠――近所の私立校の校章を象ったワッペンが縫いつけてある。ランドセル側部の金具には給食袋の紐がひっかけてある。給食袋の名前欄には黒いマジックで『5-2 新島千鶴』と繊細な字が書かれている。

 昨日筐体の画面で元気いっぱいに跳ね回っていた〈ちづる〉を思い出す。

 当然だけど、女性は自分のアイドルに自分の名前をつけても違和感がない。

 その点、俺のような男性プレイヤーが実名をつけると悲惨だ。

「勝手にじろじろ見ないでくれる? けがらわしい。ランドセルが腐る」

「腐りゃしないだろ。おまえさては頭悪いな」

「放つ」

 千鶴はランドセルの金具から防犯ブザーを取り外した。

「や、やめてくれ!」

 くそっ! こいつ、小学生って立場をフル活用しやがって……!

 千鶴は無表情で俺の顔にじりじりと防犯ブザーを近づけてくる。

「や、やめろ、俺が悪かった!」

 千鶴が防犯ブザーのスイッチに手をかけた瞬間、

「わーい! ふくべぇだぁ!」

「ん?」

 社会的な死の恐怖に怯えていると、わくわくらんどのすぐ近くのおもちゃ売り場から、幼い歓声が湧き起こった。

「風船ちょうだい!」「わたしがさきー!」「ぼくもー!」

 子どもたちの賑やかな声に反応して、防犯ブザーを握りしめて猫みたいに俺を威嚇していた千鶴は毒気を抜かれたような顔で、おもちゃ売り場に視線を向けた。

 そして、おばけを怖がる幼子みたいな顔になった。

「な、なに、あの新種の妖怪は……? なにが進化すると一体ああなるの……?」

「失礼な、ちょっとアグレッシブな造形なだけだ」

 千鶴は恐怖に打ち震える声を漏らしながら、子どもたちに風船を配っているきぐるみをわなわなと指さした。なんだ、あのお方を知らないのか。

「あれはふくべぇだ」

「ふ、ふくべぇ……?」

 ふくべぇ。ご当地ゆるキャラブームの波に乗って七年前に生まれたマルワのイメージキャラクターであり、我が郷土を代表するゆるキャラだ。まあこの町に引っ越してきたばかりのこいつが知らないのも無理はない。

 ふくべぇの容姿は下関の名産である魚の「ふぐ」をモチーフにしている。気はやさしくて力持ちな、地元の子どもたちに大人気のキャラだ。ほんの少し造形がおぞましいけど。なんてったって、顔が魚で、首から下がムキムキのボディービルダーの全身黒タイツだからな。

 それはそうと誰があいつをゆるキャラに推薦したんだ……。

「な、なんであんな不気味な生物が子どもたちに人気なの……?」

 幼い顔を恐怖に歪める少女に、俺は諭すように肩をすくめる。

「おいおいゆるキャラを見かけで判断するなよ。たしかに最初は俺もふくべぇの造形のあまりのおぞましさに戦慄したよ。けどな、ああ見えて案外良い奴なんだぞ? 俺も昔はふくべぇに風船貰ったり、鬼ごっこしたものさ。ほら見ろ、子どもたちからあんなに愛されてる」

 ふくべぇは自慢の二の腕にぶら下がった子どもたちを軽々と持ち上げている。大はしゃぎする子どもたち。幸せを絵に描いたような、なんとも微笑ましい光景だ。

「い、田舎って、変なところ……」

 千鶴は戸惑う心に無理やり折り合いをつけようとしたのか、目の前に展開する不可思議な事象をその一言で総括した。若干今でも引き気味である。

 しかし気を取り直したのか、ゲームを開始するべく、筐体にマイカードを挿入しようとした。

「おい、ちょっと待て」

「……なに?」

 俺はつばを飲み込み、

「……俺が昨日帰り際に床にばら撒いたカードの行方知らない……?」

 恥を忍んで訊いてみた。

 千鶴は「ああ」と気のない返事をして、

「あなたが昨日負け犬みたく尻尾を巻いて泣きながら帰った後、警備員さんが拾って、そこの受付カウンターにあるリサイクルボックスに入れてたわ。そのあとしばらくして店内で遊んでいた子ども達が持って帰っちゃったみたいだけど」

「……まじか……せめて止めてくれよ……」

 空になっているリサイクルボックスを遠くから涙目で見つめる。俺のカードに肉食獣のごとく群がる幼女達が容易に想像できた。あれらのカードがどれほど貴重なものなのか彼女達にはわからないだろう。

 しかし、可愛い服のカードを目の当たりにして、テンションが上がって全部持って帰ってしまったのだろう。

「……ああ、俺が苦労して集めたカード達……」

 カードをゲットしたときの一つ一つの思い出が走馬灯のように頭の中を駆け巡る。さすがにもう高校生なので人前では泣かない。帰ったあと納屋で泣く。

「残念だったわね」

 憔悴しきった俺をちらりと横目で確認した千鶴は、いい気味だ、といわんばかりの顔で形の良い唇の端を上げる。薄々感じていたけど、こいつドSだな。

「……いいさ、失ったのなら、また集めればいい」

 前向きに考えなくてはならない。普段使っているカードの一部を失ったのは痛いが、なにも金輪際キラプリができなくなったわけではない。セーブデータが記録されたマイカードを失くしさえしなければ、今後も〈みゆ〉の可愛さを追求し続けることができるのだ。

 それに、アイテムカードを集めるのも、キラプリの魅力だしな……!

「え、ひょっとして、泣いてるの?」

「な、泣いてねーよっ」

 悲しんでいる暇があったら、敵のことをより深く知ることに注力したほうが建設的だ。

 そう、前向きに。

 千鶴のプレイも始まったことだし。

 この少女の駆る〈ちづる〉のアイドルっぷりを、注意深く観察してやろうではないか。

やっほ~♪ 『きらめきアイドル』の〈ちづる〉ちゃん! 今日もさいこうのライブよろしくね~♪

 千鶴がマイカードを挿入すると、筐体からキラプリの主人公であるキッコの声が流れた。

「……やっぱおまえも『きらめきアイドル』か」

 昨日〈ちづる〉のライブとアイテムカードを見て確認したが、やはりそうだ。俺と同じランクだ。

「あなたと一緒にしないでくれる? 私とあなたでは同じ『きらめきアイドル』でも格が違うわ」

「……おまえ、今月の全国ハイスコアランキング何位?」

「21位。『れじぇんどアイドル』ももう目前ね。あなたは?」

「くっ…………52位だ」

「ふーん、そう」

 千鶴が満足そうにニヤリと笑った。くそっ……腹立つな……!

 キラプリは、公式ホームページにマイカードのIDを登録すれば、自分のハイスコアが全国で何位なのかが月単位で確認できる。全国1位の『きゅうきょくアイドル』を頂点として、2~20位が『れじぇんどアイドル』、21位~100位が『きらめきアイドル』といった、順位には『ランク』が与えられる。ちなみに101~300位が『うわさのアイドル』と続き、10000位以降が『よちよちアイドル』となる。よちよちて。

「まさか、おまえ自宅に筐体があるなんてことないだろうな……」

「そんなわけないでしょ。自宅に筐体を置くなんて邪道よ。置こうと思えば置けるけど」

「置こうと思えば置けるんだ……」

 すげぇ、どんな裕福な家庭だよ。おこづかい、いっぱい貰ってんだろうなぁ……羨ましい……。

「……てか、俺より順位が上のやつなんて、生まれて初めて見た……」

「ふん、井の中の蛙ね。せいぜい目の前の大海を崇め奉りなさい」

「くっ、高飛車なやつ……」

ライブのきょくをえらんだあとは、〈ちづる〉ちゃんにきせるコーデをえらんでね!

 そして、肝心の、コーデテクニックである。

 画面上ではデフォルト衣装である白無地のTシャツとピンク色の短パンを身につけた〈ちづる〉が、トップス、ボトムスといった各部位のアイテムカードを代わる代わる筐体に挿入する千鶴の手によりドレスアップされていく。

「ま、まぁまぁだな……」

「なにか言った?」

「べ、べつにっ。ま、まぁまぁ普通くらいのコーデだって言ったんだよ」

 やはり、悔しいがセンスが抜群に良い。誰の真似もしていないのに、奇抜ではなく、ちゃんと均整の取れた可愛さを有している。

 ……てか。

「……なんだそのバカデカいカードファイル。鈍器かよ。人殺せるレベルじゃねーか」

 俺は筐体のコントロールパネルに開かれている、百科辞典のように分厚いカードファイルを見て冷や汗をかく。

 千鶴は鋭い目つきで俺を振り返り、

「……なにか文句ある?」

「い、いや、ねぇけどさ……つーかおまえそれだけでランドセルの中パンパンになるだろ……ちゃんと教科書とか入れてんの?」

「当たり前でしょ? 勉強はおろそかにしないわ」

「どうなってんだよおまえのランドセル……四次元か」

 ともかく、万華鏡のように移ろう多彩なコーデを実現可能にしているのは、まさにこのアイテムカードの尋常じゃない所持数の賜物だ。

 ……ファイルの中、見てみたいな……。

 コントロールパネルの上に開かれたカードファイルを千鶴の背中越しに注意深く観察すると、

「うわ! それ【マジカルかんざし】じゃん!」

 驚いた。こいつ、俺の欲しいもの第一位のアイテムカード持ってやがる!

 この【マジカルかんざし】はレアリティが低いわりに出現率が低いという理不尽アイテムだ。

「……欲しいの?」

「えっ!?」

 千鶴はちらりと俺を振り返る。

 俺は脊髄反射でぶんぶんと首を縦に振る。思わぬ発言に、もう理性とか簡単に吹き飛んでしまった。欲しいも何も、それさえあれば俺の思い描く、現状で最高に可愛いコーデが完成する!

 しかし千鶴はすぐに画面に向き直り、

「あげるわけないでしょ」

「ぐっ……」

 鬼! 悪魔! ちづる! 

「私がこれを手に入れるのに、どれほど苦労したと思っているのよ」

「……ちょっとでも期待した俺が馬鹿だったよ」

 たしかに、俺だって自分が苦労して手に入れたカードを他人にあげようとは思わない。

 年端のいかない少女に翻弄されながら、完成されていく〈ちづる〉のコーデを眺めていると、

「……おい、それ、シューズ変えたほうがいいんじゃないか?」

「……は?」

「いや、だって……楽曲とマッチングしたブランドでコーデ統一したほうがボーナスポイント付くだろ。高スコア狙わねーの?」

 アイドルには1から99までのレベルがあり、一回のライブで稼いだスコアが経験値として蓄積され、一定値に達するとレベルアップする。高スコアを取得したほうが、より早くレベルアップできる。レベルが上がれば、アイドルの選べる顔のパーツや着用できる服が増え、より可愛くすることができるのに。

「そりゃ『キャンディ・ハウス』のミュールのほうが可愛いだろうけどよ、素直にトップスと同じブランドにしたほうが遥かにスコア効率いいだろ。なぜ選ばない?」

「……ばかね。そんなの、決まってるじゃない」

 千鶴は、挑戦的な表情を浮かべて、俺を振り返った。

 そして、熱い『なにか』を宿した瞳で、言い放った。

「私が好きじゃないからよ」

 力強く、迷いのない手つきでコーデ決定のボタンを押し、〈ちづる〉のライブがスタートした。

「……!」

 人は、なんのためにキラプリをするのか。

 哲学的な問い。プレイヤーによって答えは様々だろうけど、本来このゲームの目的は、自分が生みだしたアイドルに、自分の好きなコーデを着せて楽しむことにあるはずだ。

 が、このゲームを長くやっていると、誰しもついリズムゲームとしての側面にのめり込んでしまう。筐体のハイスコアを出すことや、ランクアップが目的になってしまう。

 しかし、

『スコアのためにコーデを選ぶなんて本末転倒。好きなコーデでライブをし、なおかつ高スコアを叩きだすのが真のアイドルでしょ?』

 千鶴は口にこそ出さないが、彼女の操る〈ちづる〉の在り様によって、己の『信念』を雄弁に語っているのだ。

「……やるじゃねぇか」

 思わず笑みがこぼれた。

 高ランカーなのに、初めてプレイしたときのあの感動を、今でもこいつは忘れていない。

 ゾクゾクする。

 俺はひょっとしたら、こいつがこう回答することをどこか期待していたんじゃないか……?

 自然と、手に汗を握っていた。

 筐体の画面では〈ちづる〉のライブがスタートし、観客の爆発的な声援がステージに投げかけられている。

「それにしても……ほんと化け物じみてるな……おまえ、どんな特訓やってんの?」

 完璧なリズム感。そして運指には無駄な動きや思考の迷いが一切なく、非常に流麗。

「……人に物を尋ねるときは、まずは自分から手の内を明かすのが礼儀よ」

 まあ、そうだな……。

「……俺は毎日腕立て百回を三セット、メトロノームを用いての運指練習を二時間だ」

「……ふーん。そう」

「で、おまえは?」

「ひみつ。教えてあげるとは一言も言ってないわよ?」

「くっ……!」

 ほんとむかつくな……まあ、しかし、こいつも――いや、ひょっとすると俺以上にリズムの特訓を積んでいるに違いない。

〈ちづる〉が二分間のライブステージを踊りきり、リザルト画面へと移行した。

「……難易度『NORMAL』とはいえ、オールパーフェクトコンボか……な、なんだこの演出?」

「あら、初めて見たかしら? オールパーフェクトコンボでライブをクリアすると、リザルト画面でアイドルがこちらにピースサインを送ってくれるのよ。特殊演出が見られてよかったわね」

「くっ……! 俺も次で出してやるさ! 早く替われよ、席!」

「ふん……言われなくても替わるわよ」

 不満げな表情で椅子から腰を上げた千鶴に替わって、俺は椅子に座る。

「待たせたな」

 これがおまえの〈ちづる〉への回答だ。

 俺はマイカードをスキャンし、出現した〈みゆ〉にカードファイルから取り出したアイテムカードを用いてコーデを施していく。

「っ……! あなた、それ、やっぱり昨日と同じ……!」

 ふふ、驚いてやがるな。

 トップス、ボトムス、シューズ……コーデを重ねていくうちに、腕を組んで〈みゆ〉を観察していた千鶴の目の色が変わり、驚愕の声が漏れた。

 それもそのはず。

 俺が〈みゆ〉に施しているコーデは、アクセサリーからシューズに至るまで、高レアリティはほとんど使用せず、低レアリティを中心に揃えているのだ。高ランク保持者――同じ『きらめきアイドル』としてはありえない選択だろう。

 だが、俺は平凡な素材を極限までレベル上げすることにより、レアコーデ並みのステータスにまで成長させている。RPGでいえば初期装備でラストダンジョンへ挑むような暴挙。しかし創意工夫と努力により、スコアアタックに耐えうる武器にまで昇華させたのだ。

「ど、どうして……?」

「こんなスコア効率の悪いコーデをするのか、って?」

 俺は〈みゆ〉のコーデを施し終えて、決定ボタンを押した後、振り返り、満を持して言い放った。

「もちろん、これが〈みゆ〉に一番似合うコーデだからだ」

「……っ!」

 レアリティでコーデを選ぶんじゃない。

 〈みゆ〉がもっとも可愛くなるコーデを選ぶ。

 その選択基準に、アイテムのレアリティは一切関与させない。

「初心を忘れていないのは、なにもおまえだけじゃねーんだよ」

「……ふん」

 千鶴はなにやら悔しそうに薔薇色の唇を歪めて、腕を組んだままぷいっとそっぽを向いた。

 俺は画面に向き直り、昨日の〈ちづる〉のハイスコアを抜くべく、『EXTRA HARD』に設定したライブに意識を集中する。

「な、なかなか良い反応じゃない……」

「へっ、そりゃどうも。昨日クリア目前まで行ったからな。ノーツの譜面も暗記済みだ」

 九年間の剣道で鍛えた反射神経と集中力、そして腕の筋肉の持続力により、まるで色彩の洪水のように流れてくる大量のノーツを着実に撃破していく。

 いける……俺は確実に成長してるぞ……!

 そして、最後のセクションを抜け、

「よっしゃあああああああああああああああああ! 初クリアだーーーーー!」

 体力ゲージを一割ほど残して、生まれて初めて『EXTRA HARD』を完走した!