境界線上のホライゾン きみとあさまでGTAⅠ
第四章『思わぬ来客』
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ミトツダイラは、浅間や喜美と三人で、調整器の中央に立っていた。
今、自分達の目の前にあるのは、抽出器を用いて艦内や周辺空間から集めた、流体の淀み。
その塊だった。
浅間のリードもありつつ、自分達が音楽によって艦内や周辺の流体を整調し、淀みを外に出したのだ。
”それ”を先程、喜美が舞う事で集め、固めたもの。
だが、

「……何ですのコレ」
狼だった。
しかし、体長十五センチほど。全体は三頭身にも満たないデフォルメ形状で、先程からこちらを好奇心旺盛に見上げて尻尾を振っている。
一瞬、ぬいぐるみにも見まごうサイズだが、それは間違いなく妖物だった。何故ならば、

「首が三つあるわね。コレ、何て言うんだったかしら、ほら、ギリシャ神話に出てくる三首の狼で、名前は、そう、そうそう、あれよ! ――妖怪ドライマーラ!!」

「極東と M.H.R.R.と印度混ぜるのやめましょう喜美。あと、マーラ様だったらどっちかっていうと首じゃなくて頭――」
そこまで解説し掛けて、浅間が言葉を止めた。ややあってから彼女は左右に手を振り、

「今の無し! 無しです! 仏道系ですし!」

「大丈夫です浅間様! 音で言ったら祈祷! 神道の言葉で、仕事の際に連呼するじゃありませんか! イッツ祈祷!」

「あー、じゃあそろそろ私達も武蔵に帰投しようかしら」

「これ、厳島側だったら帰島になるのかな」
同音異義語の連呼に、喜美が一回身を回してポーズをとった。

「どう浅間!? 恥ずかしがることないわよ! イッセイKITOU!」

「やかましい――!!」
巻きこまれないよう、こちらは身を低くしておく。
視線は、下のケルベロスに向いている。
小さい。SDで走狗に近いデザインだと思う。

「……ギリシャ対応の土地、児島を通過してきたからでしょうか。これ、どう見てもギリシャ神話に出てくるケルベロスですわよね?」

「あ、ミト、迂闊に名を呼ぶと――」
言い終えるより先に、ケルベロスがこちらの足下に寄って、首をなすりつけ出した。三つある首の、どれもが我先にとそれをやりたがり、転ぶ。
懐かれた。
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「ハアイ! その子の担当ミトツダイラね!! エンガチョ――!!」

「な、何で離れますの!? 智まで!!」

「いや、だって、流石の神職も、その可愛いのを淀みだと言ってシメるのは気がひけるというか何というか……」

「私だって気が引けますのよ!? どうする気ですの一体!」
本当ならば、ここで禊祓を行い、浄化する。だが、検分用の表示枠でケルベロスを透かし見た浅間が、軽く首を捻って言う。

「この子は、淀みが少なかった事と、艦や周囲の流体状況が良かったんでしょうね。流体的に見ると、低出力の淀みですが、清浄な流体も多く含まれてます」

「フフ、よく解らないこと言ってないで、巨乳で説明してみなさい! ほら!」

「えーと、この馬鹿にどうやったら迷惑という言葉を解らせるか、ですね?」

「あらヤダ! 馬鹿って、言った方こそが上位馬鹿なのよ! フフ、この御・馬・鹿・さんっ! って、まあ! 浅間が御馬鹿さんだったら、私はその上位種!? つまり御馬鹿様!? そうなのね!?」
P-01sが拍手しているが、あまり調子に乗らせるべきではないと思いますの。
ただ、聞いておきたいことがある。

「この子、どういう存在ですの?」

「アー。つまり淀みが、外に出たいんだけどそのままでは形がとれなかったので、まず周囲環境の”型”を使ったんですね。多分、それがケルベロスの”型”です。
でもまだそれでもいろいろ足りなかったので、清浄な流体も使って”型”を満たし、何とか出てきたみたいです。
ハナミの計測だと、この子が出てきた分、整調した流体も減ってますから」

「それって、私達の儀式が強力で、本来なら出てこられない淀みが、何とか頑張ってキレイな流体をも巻き込んで姿を現してくれた、……っていう事?」

「そうなりますね。霊で言うと恨みを持ったような自縛型ではなく、ちょっとした浮遊霊や騒霊が、土地の霊力を借りる事で、土地の神の使いとなって出てきた感じです。
ただ、淀みの部分がある事は確かなので、禊祓の対象ではあります。この子はいずれ形を失いますが、その時は艦や周囲空間の淀みに戻っていくという事になりますし」
つまりいずれ終わりがある、ということか。
足下、尻尾を振っている小さな姿に、自分は視線を向けて、

「……形を失うのは、いつですの?」
問いかけに、浅間が即答した。こちらに対し、嘘は吐かないという面持ちで、

「――この艦や、武蔵がこの空域を離れ、しばらくしたら、ですね。ケルベロスのイメージを有する文化や加護から遠ざかる事で、形を保てなくなるので。
そうでなくても、雅楽祭は満月の晩に行いますから、月光で流体反応がピークを迎えた後、自然に流体に戻っていってしまうと思います」

「い、意外と脆いですのね?」
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ちょっと狼狽え気味のミトツダイラの顔に、浅間は苦笑した。

「一週間後の雅楽祭終了までは武蔵も動きませんし、その時になったら、浅間神社がちゃんとその子を禊祓ぎますから安心して下さい」

「ちゃんと?」

「そうよミトツダイラ、神道下ろし金でその可愛い子をゴリゴリやって尻から神様に献上して行くのよ! 正に身削ぎというだけあるわね!」

「ちょ、ちょっと、そんなやり方は無しですのよ!?」
と、ミトツダイラがケルベロスを拾い上げ、一歩下がる。それを見た自分は、

……うん。
喜美と顔を見合わせた上で、ミトツダイラに告げた。

「――ミト、担当ね?」
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喜美は、ミトツダイラが「ええ!?」
と声を作りつつも、ケルベロスを離さないのを見る。

……あまり情が移ってもそれはそれで危険っぽいけど。
だけど、と己は思う。
情を重ねるなと言っても、そんな事は無理よねえ、と。
だったら、

「可愛がるだけ可愛がって、いい思い出作るわ、私だったらね」

「で、でも、この子、淀みなんですのよね!? 大丈夫なんですの?」

「ええと、だったらミトはどうしてその子、離さないんですか」
そ、それは、とミトツダイラが視線を一瞬彷徨わせた。
同時に己は言う。顔を演技的に青ざめさせ、手を震わせながらもケルベロスを指さし、

「まさかミトツダイラ、……肉……」
ケルベロスが真顔になって狼を見上げた。はっとした銀狼は、

「ち、違いますわ! そんな事しませんのよ!?」
全く、と、ミトツダイラが首を一度横に振る。

「それは勿論、私だったら何かあっても対処出来るからですの!」

「フフ、益々担当真っ盛りじゃないの、ねえ」
うっ、とミトツダイラが身を反らす。
だが、とりあえずの里親が決まったのは確かだ。
そして浅間が一歩前に出た。
ミトツダイラの抱くケルベロスと視線の高さを合わせ、

「そういうわけで、その子はミトが管理して下さい。
その子が淀みであることは確かですが、ギリシャ系の精霊や、この艦や周辺の整調された流体である事も確かなんです。
つまり先程も言った通り、土地神としての性質が強いんですね。それを迂闊に禊祓すれば、他国の精霊もゾリッとやっちゃう可能性がありますから、私としては、満月の晩の自然な崩壊を利用して、淀み部分を解除、その上で神様に献上出来れば、と思いますね」

「解除? 献上? ……どうするんですの?」

「ええ、その子の淀みの部分だけを消して、流体も返して貰って、ちゃんとしたケルベロスの精霊部分だけ残します。そして、神様に連れて行って貰うんです」
無論、と自分は思った。浅間の言う通りになれば、そのケルベロスが今の身体を保つだけの流体量は失われる。だが、

「ケルベロスの精霊として、神様のいる”界”に行く事になるわね。殺したり、消滅したり、という事ではないし、神界の一員となるから安心していいわよ?」

「そう、ですの……」

「フフ、どうするの?」
と己は問いかける。ミトツダイラの反応を窺いながら、

「別れの決まった子を、やっぱり放棄する? アデーレ辺りなら、肝も据わってるから事情承って預かってくれると思うわよ? あと、うちのトーリも」

「い、いえ、私の方で預かりますわ。これもまた、浅間神社代行の仕事ですもの」

「そうですか。――じゃあ、宜しく御願いします、ミト。
流体の淀みも、大体は好きで淀んでいる訳じゃないんです。淀みと人格は別だと憶えておいて下さい。可愛がってあげれば、禊祓して神界に行った際の格も高くなります」
ミトツダイラが、頷き、ケルベロスを床に下ろした。すると、

『……!』
咆吼は三つ。元気だ。
フフ、と己は目を細め、ミトツダイラの頭に手を乗せた。

「飼い主待ちが飼い主になっちゃって。――ほら、ステイステイ」

「い、犬じゃありませんのよっ」
と、ミトツダイラがこちらの手を払う。そんないつもの流れに、自分は、横の浅間が自然な笑みをこぼしたのを気付いた。

……ホント、口で言わない子だわ。
○

「そうね。口で言わないのよね……。一気に行くのよね……」

「同人誌のラフをここで描かない!」

「しかし、御母様とトロコの出会いはここだったんですの!?」

『……!』

「ふふ、奇縁と言うべきですわね。まさにこの時、ここに居なければ始まらなかった縁ですのよ」

「ミトっつぁん、そういうの無茶苦茶多いよね」
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喜美は、身を折ってケルベロスの頭を一回撫でる。
そして身を起こし、周囲を見る。すると同じタイミングで、周りの三年生達が警戒の姿勢を崩した。
誰も彼も、顔を見合わせ、しかしミトツダイラの足下にいるケルベロスを見て、

「……これは、俺達の内包する淀みがあのように可愛らしいという事でいいのか?」

「待て、ギリシャ通過でケルベロスだ。印度通過ならマーラ様だぞ……」

「三段トリプルマーラ様か……! 新しい、新しいクリーチャーだなそれは! 俺は無理だ!!」
ナルゼが聴いたら速攻で図示しそうな話だわ、と自分は思った。が、

……何かしら?
頭上、ハナミとウズィが、西の方に顔を向けている。ミトツダイラの足下のケルベロスもそちらを見て、

『……!』
一度に三つの咆哮が、小さいなりに響いた。
何かが、西にいるのだ。
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そして浅間は、喜美とミトツダイラと共に、走狗達の注視を追った。
西の方。そこにあるのは、

「ククク、何あれ、”能舞台”の上に、武神みたいなのが出てるわよ」

「違います! 淀みです!」
反射的に自分は叫んでいた。同時に風が動き、

「……!」
突風が、安芸から近接してきた”能舞台”上に、渦巻いた。その風をはらみ、纏うように”能舞台”上に現れていくものがある。
それは、過熱した色の流体で象られた、鎧武者のような姿だ。
自分はそれを知っている。神道において、流体の淀みとして相対するものの中では中堅クラスの存在。

「幾つもの神の型が合わさる土地で生じる、形定まらぬ神の形骸! 武装形状から言って、二級”非神刀”です!」
○

「いきなり怪異出現で御座りますな。しかも安芸から合流にきた劇場艦の上?」

「では迎撃ですか?」

「いえ、違うと思います。この時期、私はまだ武蔵にいませんでしたが、多分、武蔵が迎撃に出るには手順を踏みます」

「そのあたりは私が担当か? ――酒井学長と”武蔵”のことだよな。とりあえず、可能な限りやってみるから、手を入れるのは皆の方で頼む」
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「”武蔵”さん、何か政治的に面倒なのが出てきたねえ」
白い、繭のような空に囲まれた広大な空間に、状況を述べる声が生まれていた。
真っ白いステルス障壁に囲まれた中央前後二艦、左右三艦の、合計八艦。
そんな巨大都市艦・武蔵の上、警報音が響く先端にて、煙草の煙がゆっくりと宙に揺れている。
中央前艦、”武蔵野”という艦名が表記される舳先。甲板の先端に立ち、手摺りに肘をついているのは中年過ぎの男だった。
夏用の半袖を着崩し、金属製の分解収納可能な煙管を空に翳すのは、

「――酒井様、武蔵外の事であり、安芸側の問題ではあります。が、流石にもう少し緊張感を出された方がいいのでは? ――以上」
いや、さ、と酒井は、背後から声を掛けてきた存在に振り向く。
後ろに立つのは、侍女姿の自動人形だ。彼女が手に掲げる盆から、酒井は湯飲みを取って、ふと眉を動かした。

「お、熱いね”武蔵”さん。最近ホット好き?」

「七月だというのに、表にろくに出ず、涼しいところに入り浸っている大人に、冷たいものばかり出す訳にはいきません。――以上」

「お気遣い有り難う。でも、”武蔵”さん、さっきの話だけどさ、緊張してないように見えるかな、俺」

「表に出していない緊張は、不真面目とも捉えられます。
理由については存じませんが、毎年毎年、安芸に到着すると、外部から見える位置に出ようとしませんね。――以上」

「いや、そりゃ、安芸にはいい思い出が一杯あってねえ……」

「大改修前の記憶が私の通常記憶領域にセットされていれば検索も楽でしたが、単純に問うておきます。女ですか、金ですか、――以上」

「”武蔵”さん、素直に答えたら怒らない?」

「”武蔵”は自動人形なので怒るという事が不可能です。さあ答えなさい。――以上」

「凄く怒ってるように聞こえるなあ、それ」
まあいいか、と酒井は煙管を左手に、湯飲みを右手にする。そして肩をすくめ、

「昔、ちょっと、安芸にいる馬鹿と殴り合った事があってねえ」

「それ以上聞くと政治的に面倒な事に首を突っ込みそうなので、必要な時が来たら改めて詰問する事にしました。ただ――」

「何?」

「勝ち負けは? ――以上」
ああ、と酒井が応じた。

「勝ったよ」
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酒井の言葉に、”武蔵”が頭を下げた。

「そうですか。詳細もいずれ、としておきます。――以上」
一礼した”武蔵”の前、酒井は湯飲みを口に付け、

「へえ、生姜の飴湯かと思ったら、カラメル味か。随分と甘いね」

「統計的に見て女の子達に人気だと判断出来ました。そして甘くない現実の状況ですが――」
Jud.、と頷いた酒井が、”武蔵”に湯飲みを差し出す。
と、不意に酒井が左手に持つ煙管が分解した。宙に、見えぬ手で扱われた煙管は、三つのパーツに揃えられ、吸い殻も圧縮されて、

「”武蔵”さん、俺、この葉っぱ、喫ったばかりなんだけど」
首から提げた印籠ケースに煙管をしまう酒井に、武蔵は一礼する。

「当艦の甲板は、ステルス空間内では基本的に禁煙タイムです。艦内の喫煙禊祓神社でどうぞ。――以上」

「厳しいねえ。――じゃあ”武蔵”さんが今、ホットに聞きたい事、教えちゃおう」
酒井は手元に幾つかの表示枠を展開した。

「安芸は極東の領土だけど、K.P.A.Italia の暫定支配を受ける居留地だ。だから、安芸で生じたトラブルについては、本来なら K.P.A.Italia が担当する」

「しかし、――とでも言いたそうな口調ですね。――以上」

「Jud.、だって、そういう法律もガチガチだと上手くいかない時あるもんね」
Jud.、と”武蔵”が頷いた。

「――支配国が歴史再現によって戦士団や設備、装備を移動していた場合を例として、居留地の危機にそれらの急行が間に合わない。または力不足というケースはよく発生します。
その際、急行可能な勢力は、事件解決のみを目的、結果とし、後の記録を残さぬ事で、介入が可能です。――以上」

「失敬! チョイと説明長くないですか?」
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「長い? そう?」

「ホライゾン、迂闊に寝るところでした。あ、一応、配達業務で来ているのでパンをどうぞ。売れ残りなので気にせず」
酒井が、フランスパンを受け取って齧る。硬い。いい音がする。そして、

「えーと……、コレはアレだ。今、安芸の劇場艦”能舞台”がヤバいことになっててさあ」

「酒井様は、しかしK.P.A.Italia は動かないと、そう思っているのですか? ――以上」

「いや、動く事は動くだろうけど、その時は厄介だろう、って事」

「どういうことです?」
あー、と酒井が前置きした。

「K.P.A.Italiaが、国としては没落気味って、解る?」

「教皇総長の野郎、だからホライゾンを誘拐とかしたのでしたっけ」

「もうちょっと憶えておいてあげてもいいのでは。――以上」

「失敬! あまり意味の無いことと都合の悪いことは記憶から抹消していく派ですので。――しかしまあ、没落気味のK.P.A.Italiaが何故、ここで自国のナンタラ艦を救けないのです?」

「えーと……」
○

『こうすりゃいいんじゃないですかね、副会長。ちょっと介入します』
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「――正純君? いる? いたら説明代わって」

『あー、……そっか。そういうの、有りか。――Jud.! P-01sか』

『オイス! 一丁宜しく御願いします』
まあつまりはな? と正純が前置きした。

『まず、K.P.A.Italiaとしては、コレが極東に干渉する口実になるんじゃないかと思っている。
でも自分達がすぐに乗り込むと、聖連の他の国からいろいろ言われるだろ?
だからまず、ここは安芸の極東側に対応させる。
そして安芸が失敗したら、K.P.A.Italiaとしてはその救助を口実にして、介入する。
武蔵側が手を出して失敗しても、やはり介入の機会になるし、上手く行けば武蔵にも干渉が出来る。
そういうつもりなんだ』
更には、

『この場合、駄目な極東と優れたK.P.A.Italiaという構図になるが、これは、今、橋場と組んだM.H.R.R.を横に置くK.P.A.Italiaとしては、示威行動として充分なものとなるだろう』

『Jud.、成程、そういうコスい話でしたか。しかし、もしも極東側が上手く収めたら、どうします?』

『その場合、”K.P.A.Italiaは、極東が収められる程度の事態に動じない”と言えるから、どちらにしろ教皇総長としては得だな』

『随分と教皇総長に信頼感があるようで』

『面倒な相手だってのを理解してるだけだな』
成程、とP-01sが頷いた時だ。ふと、皆の間に表示枠が一つ来た。

『あの、現場の浅間神社ですが、一ついいですか?』

『? どうした? 事態が進行したか?』

『あ、いえ。P-01sなんですが』

『? 何でしょうか?』

『アッハイ。――あのですね? ちょっと設定の説明不足だったかな、って思ってるんですが、私達がいる劇場艦。ええ、P-01sもさっきいたここです。
この艦、実は武蔵から結構離れた空域にいるんですね。
だから行き来には専用の輸送艦を用いるんですが、――P-01s、ちょっとその設定を見逃してたためだと思うんですけど、そっちにワープしてることになります』
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酒井達の眼前で、P-01sは一瞬身を低く縮めた。
直後。その全身は甲板を震動させる踏みこみで空へと大跳躍した。

『今、ここで整合性を合わせる大ジャンプ……!』
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物資の配送を終え、武蔵に次の荷物を取りに帰投していたナルゼは、自分の機殻箒に突然の着地と重量を食らった。
武蔵のステルス防護障壁を突き抜けて飛んで来たのは、

「――P-01s!? 何一体!?」

「おお! 流石のアドリブですねナルゼ様! これで浅間様も余計な手直しをせずに済みます!」
○
脇坂は、強く高めの握手を交わし合うナルゼママとホママを見た上で、横を見た。

「…………」
無茶苦茶頭抱えてるが、自分が気にしてもどうにもならん。言うことが、もしあるとするならば、

「本場はスゲエよ……」
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さてまあ、と気を取り直して、酒井が言った。手元の表示枠を見て、

「うちの生徒会と総長連合も、動きが結構早いね。諸処の縄張りや線引きを K.P.A.Italia や安芸側と行っているよ。暇な学長先生はそれを承認承認、と……」

「しかし酒井様、現場の方ではどうなのです? 生徒会や総長連合が出るまで放置、という訳には行かないのでは? ――以上」
ああ、と酒井が右の手を前後に振った。それは、気にするな、というジェスチャーであり、

「一般市民や学生レベルで”正当防衛”や”救助”は可能だよ。怪我するのを待つ必要はないからね。あとは、それが可能な人間がいるかどうかだけど――」
Jud.、と”武蔵”が頷いた。
表示枠を開き、”谷川城”に出ている人員のリストを見る。

「――オリオトライ様の二年梅組、あのクラスの生徒が幾名か出ていますね。――以上」

「”武蔵”さんから見て、真喜子君の訓練シーンとか、どう思う?」

「Jud.、表現的に言えばまだ派手さが足りないと判断出来ます。物質的にもまだ破壊量が少なく、住民的に言えば迷惑度と観戦度は並と言ったところだと判断出来ます。――以上」

「現生徒会と総長連合に比肩すると思う?」

「それは――」
と、武蔵が一瞬、目を伏せた。自動人形の高速の思索を行い、こう言った。

「人類とは、成長し、進化するものです。そこに個性が活きれば。――以上」

「Jud.、だったら、いろいろな要因になるといいね。
人付き合い、予期せぬ出会いに別れ、そして相対と言ったものが、皆の強さの糧になるように。だから――」
さあ、

「どうするかねえ。末世と向き合う世代の子達は」
○

「……合格、と一応はそうしておきましょう。――以上」

「”武蔵”様! また何かリアタイ艦内情報で面白いの見つけておいて、
共通記憶に流さないつもりですね!? ――以上」