境界線上のホライゾン きみとあさまでGTAⅠ
第十章『ヘイラッシャイ』
●
喜美は、青雷亭の中で、言葉を作っていた。
二つあるテーブルの内、奥のものに座っている。
他、客が少ない時間帯だ。だが、

「――で? さっきトーリから聞いたけど、何だか外で派手にやったんだって?」
問うてくるのは正面。
椅子に斜めに腰掛けた女。
青雷亭の店主であり、自分達の母親だ。
いつものミトンとスカーフを外した彼女は、頬杖ついてこちらを見ている。歯を見せた顔は、こちらの表情を読み逃すまいとするような雰囲気だった。
だが、こちらも逆らう理由がない。夏服の脚を組み、右の掌で、

「ミトツダイラがずーっと突っ込んで行ってね。それで私が――」
離れた位置に左手で人のような形を作る。それをくねらせ、

「踊りで、――暴風結界って言うのかしら、そんなものを解除して、まずミトツダイラが脚をガシャァン、アデーレが逆に――」

「ちょっと待った。アデーレいきなり出たよ?」

「説明苦手なんだから甘く見といて。――バイトで来てたのを引っ張ったの。突撃力はあるから、アデーレ」

「軽くて吹っ飛んだだろ、あの子」

「吹っ飛んだのは御名答」
と、自分は苦笑。母はここに来る学生の殆どを憶えていて、見知っているし、その特徴なども理解している。

……元々がリアルサムライだものねえ……。

「レガースとかにウェイトアンカー着けた方がいいね。あと、いつも犬と走り回ってる間、ちゃんと補給を入れないとね」

「今度アデーレがパン耳貰いに来た時に自分で言ってよ。
――で、両脚砕いたところに、浅間が射撃を連続で叩き込んで終了、ね。
生徒会や総長連合の人達が来てたけど、勝負自体は浅間のところでついてたと思うわ」

「同意だねえ」
母が言って、頬杖から顔をあげる。

「智ちゃんも随分と立派になったもんだ」

「フフ、もっと娘を褒めてもいいのよ? いいのよ? カマーン!」

「喜美はもっと色々出来たろうに。あたしだって大椿を知らない訳じゃないんだよ?」
無理よ、と自分は掌を左右に振った。

「あれ以上の術式をやろうとしたら、しっかりしたバックバンドや楽器が必要だもの」

「持ってないのかい」

「フフ、うちの連中はどいつもこいつも夢見がちだから」

「他人のバックアップやってる余裕は無い、ってところか。今は二年、来年を考えたら今から忙しくて当然だろうし。だったら喜美――」

「素の踊りだけで勝負するなら、上位入って、創作とかの権限を貰いたいわね」

「試験費用なら出すよ。うちはやる気ある子はバックアップするから」
へえ、と喜美は軽く身を引き、しかし、

「――と」
不意に横に来た気配に、自分は姿勢を正した。自然体、いつでもどうとでも動けるだけではなく、表情も身構えを無くす。すると、横に来た気配が、

「ヘイラッシャイ!」
●
喜美は、目の前に置かれる皿を見る。

「お待たせしました。――Tの唐揚げと季節のサラダ。SとKのお茶漬けです」

「Tは鶏で、SとKは山菜と昆布かしら」

「御名答! 流石ですね喜美様!」

「母さん、……毎回思うけどここは本当にパン屋なのかしら? 嘘だったら早めに言って欲しいんだけど、どうなの? 実は単なる定食屋だったりしない?」

「長年やってるとレパートリーもカオスになっていくもんなんだよ。それより――」
と、母親が、横にいるP-01sを見た。
セーターにエプロン姿の自動人形。長い髪は銀色。瞳は青。身体の各部は防水防熱の黒い素材だが、それ以外の大部分は生体式だろう。
母親が、彼女に視線を合わせ、そして、

「うちの娘の喜美。――見覚えある?」
自動人形がこちらを見た。彼女は、一呼吸の後、右耳に指を突っ込んで捻ってから、

「思い出しました。時折来店されますが、先日、集団で屋根上を走っていく中、浅間様に”あぶないわあさま”と後ろから抱きついて一緒に自爆された方ですね?」
言った時だ。やや間が空いてから、入り口の方で声がした。

「ちょっと仕事の帰りに寄ってみたが、さっきのお前らのアレ、初対面ムーブに見えたけど違うのか?」
●
喜美は、P-01sと視線を合わせた。

「さっきのアレは、初対面の時の回想シーンよね」

「そうですね喜美様、サッパリ忘れていましたが、さっきのアレは初対面のときの回想シーンで、実はこれまで何度か会ってますよね」
自分はP-01sと握手を交わした。

『浅間ー! 聞いてるー!? 問題無いから――!』

『問題の無いところから発生しましたよね今!』
さてまあ、と表示枠を割って、自分は話を戻す。
先週の体育の授業だ。

「あれねえ。先生が”型は大体教えたから、今年から外で実技行こうか”って。武蔵野艦尾までって話だったのが、奥多摩艦首まで行けずに全滅したのよ。
全滅場所が墓所前だから笑うしかないわね」
あの時の事はよく憶えている。
前衛連中がやられた後、浅間が弓を構えたら、一気に飛び込まれた。
距離はかなり空いていたが、ネシンバラが言うには”前衛が、先生を下がらせず、後衛に向かわせてしまっていた”らしい。

「浅間が弓を起こす瞬間だったから、相当な速度よ、あれ」

「智ちゃんが間に合わないなら本物だね。石川さんの一件で大体予測付いてたけど、実地でやられ役の話が聞けると違うねえ」

「当時も言ったじゃない、フフ、恥ずかしい話だわ」

「聞いたけどさ。娘の恥ずかしい失敗話は何度聞いても楽しいもんよ。
でも喜美、アンタ前に出ないの?」

「相性はいいと思うわ。”間”をとるのが芸能神の奏者だもの。
だけど、私や愚弟が前に出てるようじゃ駄目でしょ?」

「まあ確かにねえ。テンゾー君達が頑張るか、もうちょっと前衛として、突撃力あるのが欲しいよね。
今のアンタ達を見てると、少々物足りないね」
ただまあ、と母が言った。

「あの先生については、ビミョーにうちの人から通神あった気もするね。IZUMO出身なら、術式とか、大体、誰に師事したかは推測出来るけどさ」
と、母親が自動人形に視線を向ける。

「――御免脱線して。他、喜美見て何か思い出す事ある?」
●
Jud.、とP-01sが頷いた。

「――先の話以外ですと、時たま、夜に道路脇で猫の遊び相手になっていたり、迷子の走狗を抱いて神社に向かうのや、黒藻の獣様と話をしているのを見た事があります」

「喜美、アンタ実はギャップ系……」

「フフフ、可愛いものには無差別コンタクテーは女の子の基本よ!」
自動人形と一緒に右の親指を上げ、己は笑みを作る。
と、P-01sが、母の方に視線を向けた。

「しかし店主様――、三河に来る以前の記憶となると、このホライゾン、やはり無いようです」

「P-01s」

「失敬!」
彼女の言葉に、自分は胸の内で首を傾げる。

「記憶喪失か初期状態の空白なのか、確認してるの? 何処出身の自動人形?」

「それがこのP-01s、驚くべき事に出所不明でして。気が付いてみたら多摩の往来で腹を空かせブっ倒れていた次第です」

「黒藻が気付いて教えてくれてね。とりあえず何か食べたら、って見たら、記憶喪失っぽいじゃない。記録では三河から乗り込んで来たらしいけど――」
母親が、テーブルの下でこちらの臑を軽く蹴った。
言いたい事は解る。その記録自体も、怪しいものなのだ、と。
母は元々が護衛業などをしていた侍だ。
訳ありの自動人形ともなると、人間的な助力の面もだが、万が一の安全の考慮もあるだろう。ただ、

「三河から三ヶ月、……でも二週間前にここに来た時、いなかったわよね?」

「Jud. 、店主様の要望で、各種チェックなどをしておりました。P-01s としても、自分が危険な存在であるかどうかは理解しておきたかったので」

「女の子は危険なものよ。でも、P-01s って、何? どういう事?」
Jud. 、と自動人形が頷いた。
両の手で○を作ったあと、Vサインを出し、今度は両手それぞれに○を作った後で、それをOKサインとし、

「パイオーツ-マル・イッ・スの略ではないかと」

「母さん! この子! この子優秀よ! 妹にどう!?」

「うーん、やっぱアンタと気が合ったかー」
自動人形と右の親指を上げ合って、自分はそこで問うてみる。

「トーリが来てるのも、そういう事?」
問うた時だ。
テーブル下で、臑を軽く蹴られた。
●

……は?
母親の臑コンタクトの意味が、こちらには一瞬理解出来なかった。
ただ、P-01s が首を傾げ、

「とおり?」

「え? ああ、ウエットマン」

「ああ、ウエットマンですか。よくスプーンを落とされる」
よく意味は解らないが、自分の弟は謎の覗き屋として通っているらしい。
だが、P-01s が壁の時計を見て、一礼した。

「では喜美様、今後とも宜しく御願い致します。P-01s、これから厨房の掃除などする時間ですので」

「Jud. 、フフ、こちらこそ宜しく、ね。可愛い自動人形」
言った言葉が、一礼の戻りと重なる。
自分の方は料理に手をつけ、彼女は下がっていく。
そして足音が厨房の奥に届き、反響を伝えるようになる頃には、料理の味も解ってくる。自動人形の手によるサラダは、隙間を埋めていく配置で野菜が並んだもので、茶漬けは熱加減も上々。唐揚げは、

「……薄い?」

「マニュアル系でねえ。オムレツとか作ると、自動人形の荷重検知センサーかねあれ、中のものが均等比率で分布して焼けるからビックリだよ」
となると、味が薄いのではない。
何処をどう食べても、舌に載る全てが同じ味なのだ。
味覚のあり方としては、形があるだけの飲み物に近い。
鶏肉という、ランダム性のある食材でそれなのは、衣の密度を変えて、肉の味が弱い部分は強く活かし、元から強い部分は弱めているからだろう。
卓越した管理、とも思うが、

「偏りがあると、そこが短所になるという判断なのかねえ。完全均等の管理型でね。テキトーでいいよ、っていう指示だと上手く出来ないんだコレが。自分が納得するまでテキトーにやるからド派手になってさ」

「その派手な方、トーリに食べさせた?」

「”何コレ! 新しい!”って言ってた」

……上手い逃れ方をしたわね……。

「……喜美、何を不機嫌になってんのさ」

「フフ、別に不機嫌という訳じゃないわ。単に自分が不慣れなだけ」
自分は、こう思う。

……不慣れね。
●
弟が、ある理由から、ずっと来る事がなかったここに、再び来るようになった。
その理由は、もはや自分の中では明確だ。
ならば後は、それを認めるかどうかなのだけど、

……どうかしら。

「ねえ母さん、こーいう時って、姉として、拗ねた方が面白いかしら、変に自立ごっこするのが面白いかしら、それとも応援した方が面白いかしら」

「アンタ、既に冷静に受け止めてないかい?」

「うーん、愚弟と私のカンケーは不断不動の部分があるのも解ってるし、それが今更ないがしろにされる訳がないでしょうし……。
だから、いろいろ理解が出来てないけど、結論部分は大体こういう風にした方がいいかなっていうのは見えちゃってるのね。
だったらまあ、 そこまでの紆余曲折やウッフンアッハンをどう楽しんで行こうか・し・ら・ってとこではあるのよ」

「結論部分って?」

「フフ、聞きたい? ――でも教えないわ! 実の母にだって黙秘権! って、母さん、何カウンター見てるの? 裏に刀隠してあるの知ってるけどどうするつもり?」

「細かいこたどうでもいいからさ。――終わりどうするのか見えてて、そこに行く事が出来るんだったら、拗ねようがなにしようが、紆余曲折しまくった方が面白いだろうねえ」
大体、と母が苦笑した。

「何もしない、って選択肢はないんだろう?」

「Jud. 、自分の中で、とりあえず認知のステップを設けておいた方が、後々いいんだろうな、って、そんな感じで解ってるわ。
昔のような、馬鹿げた空白を受ける事はもう無いの。攻めて攻めて、最良のエンディングを向えるに異存は無いのよね、あれ以来」
ずっと昔、大きな空白を得た状態になった事がある。

……そうね。
だから、だ。
あの時は”不慣れ”だった。
今は、”もっと面白くなっていくわね”で行きたいと思う。
それゆえに自分は考える。
これから起きる事はアウェーではなく、超ホームな毎日なのだと。
ならば、と己は思った。

「そこそこに食らう事もあるだろうけど、愚弟を信じたり心配しながら、拗ねたりしつつ、可愛くやってみるわ」
と、心を決めて、自分は食事を進める事にする。
茶漬けは冷めてきて、米が茶を吸い始めているが、それもまた手作りのよさだと思う。
味の均等な唐揚げを口にしつつ、

「日々のあれこれは、均等じゃないものね。ああ、あと――」

「何だい?」

「母さんには解ってると思うけど、あの自動人形の子、私の中ではほぼ確定よ。
――かつて失われた妹分、それが今頃になって形を変えて戻ってくるなんて、神様も物好きだわ」
○

「この時点でそこまで結論してましたの!?」

「アンタ達だって、三河からコレって考えたら、薄々の予感はあったでしょ?」

「いやあ……、三河では正純の件とかでいろいろありましたが、明確な出会いはまだまだでしたからねえ……」

「Jud.! しかし思い返してみても、ホライゾン、ケッコー充実した記憶サッパリ生活をしておりますね」

「貴様らタフさについては国宝級よのう……」
●
そうかい、と、こちらに見立てに対して母が言った。
席を立ち、

「その話、誰にも言うんじゃないよ。既に悟ってるのは何人かいるけどね」

「母さんは?」

「私の代の話じゃない。
それに確定もしていない。
だったら、――あの子はうちのバイトやってる自動人形さ。
時たま”まさか”と思いもするけど、今がそのままだったら、それでいいんじゃないか、ってね。それで行くよ、私は」
Jud. 、と頷き左手を挙げると、母が左の手を当てて行った。
快音と、手加減しないのねえ、という苦笑を作りながら、自分は思う。
明日から、さてどう拗ねてみようか、と。

「――って、何? 浅間から通神文?」
食事の手を止め、自分は 表示枠 を見る。するとそこに書いてあるのは、

「浅間から? 明日の朝に校舎前の橋下に来てって。……告白でもする気?」
●
浅間は、夜の武蔵表層部を浅間神社へと歩いていた。

「――――」
空は見えない。ステルス防護壁の夜を行く帰り道だ。
いつも通りの武蔵と、そういう見方の出来る状況。
だけどそういう事とは別で、体温が上がっている気がする。
湯屋からの帰りだからだろうか。それとも、調息に失敗しているのだろうか。

……解らないですね。
解らないことばかりだ。
今日はホントにそう。
しかし、解らないままに進む歩みは、軽い。身体は足裏に押されるというよりも、足先に引っ張られるようにして前へ前へと進んでいく。
そして自分は、

「空は」
呟く。だが、

……違う。
だから、己は、また唇を開き、

「空を――」
これも違います、と、自分はそう思った。
何が違うのか。何が合っているというのか。
やはりそれも解らない。
だけど自分が何を今しているのか、それは薄々解っている。
ただ答えを求めるように、口を開く。
●

「空に」
呟く。

「星が」
違います。

「月が」
合っている気もしますけど、大仰過ぎです。だから、

「いつもの」
呟く。

「夜が」
呟く。

「見えなくて」
違います。
見えないのが普通。
見えない事を悲劇ぶっても仕方ない。
だから、

「見えていて」
でも、

「私は――」
違います。
私の言葉だから、”私”なのは解ってます。ならば、

「意志が」
堅っ。本性出てますね! 意志じゃなくて、ええと、

「――――」
迷った。だけど、言った。

「心が……」
言っていいのかどうか。自分を晒す小さな呟き、だけど、

「……うん」
身が、前に出た。だから言う。

「止まらない」
身を前に出す。
踏み込むというより、自分の先にある何かに引かれるようにして、前に出て、先へ行く。そして、

「空に」
掛かる、

「いつもの」
何もない、

「夜が」
ただただ、

「見えていて」
だけど、

「心が」
何故か、

「止まらない」
身構えに出る。
そのテンポで口ずさむ。
●

「空に いつもの 夜が 見えていて 心が 止まらない」
●
何が言いたいのか解らない。
だけど今は、これ。
これが正解です、と、自分はそう思う。
明日になったら、何ですコレ、と思い出すような内容かもしれないけれど、今、この火照った気分の中では、間違いない。

……今の私が、これです。
だから己は認めた。

「……歌」
うん。

「やってみましょう……」
●
自分は前に出る。
いつもの夜の下を、前に出る。

「昔は――」
昔は雅楽だった。
今も雅楽が仕事の一つだ。
ずっとそうしていくと、そんな事を思った事は何度もある。
だけど、

「今は――」
違います。
いや、合っているけど、違います。
夜の下。
いつもの白い空の下。
薄暗く、星も月も見えない閉じた空。
だけどその向こうにはいろいろなものが広がっている。
そんな事は、今更思う事ではない。
全く外を見ることが出来ない、白く閉じた空。
それこそが、いつも、ずっと昔から、見ていたもの。
この武蔵で生活していたならば、小等部に入る前には、もう身に染みついている事だ。
●
私達は、この武蔵の生活を是とし、長らくを得る事になるのだと。
●
だから、いろいろな理由を持って、地上に行こうとする者もいる。
自分も卒業後は本土を修行で回ろうかと思っているし、ミトもそんな事を言っていた。
だけど結局、きっと、ここに戻ってくる事になるだろう。だから、

「いつも通り」
変わらない事。
そのままの事。
ずっとそうで有り続ける事。
それを、

「どうやったら、違うもののように見えるんでしょうか」
否、そんな事が出来るのだろうか。
解らない。
巫女は言霊の職業だ。
物事を定義し、余分なものを禊祓する。
今までずっと、そうやって生きてきた。
だから、ものの見方が、堅くなる。

……うん。
堅いのは解ってる。
昔の自分がそうだったのはよく解っている。
音楽として、他のものを知らず、新しいものや外のものを触れようともせずにいた。
だけど今は、

「違いますね」
願うように、己は言う。

「違ってますよね……?」
自分がそうであるかどうか、確かめたい。

……トーリ君の、変な誘いが呼び水なのはどうかと思いますけど。
だけど、興味は向き、それに応える場をくれる人まで出てきた。
ならば、

「私の定めは、そちらに行きたいかどうか、ですか」
皆には気付かれていない。
私というものが、変わっているかどうか、それを確かめようとしている事。
勿論、彼には、その予兆のようなものを気付かれていたのかもしれない。
後は自分が、どうするか、だ。
だから己は、

「――――」
前に出る。
出続ける。
そして思う。

「もし、私が変わっていき、それを正しく定めの内と出来るならば――」
周囲の、いつもの風景は、

「いつもと変わらない。でも、いつもと違うものに見えるんでしょうか」
○

「――――」

「豊! 豊! 息をするんですの! 早く! この空気を吐くのが勿体ないとか言わないで!」

「重症だな……」

「しかし浅間様も、他の皆様も、私が合流する一年前はこのようにいろいろ考えられていらっしゃっていたのですね」

「いやあ、メアリほどじゃないですよ」

『一応、当時の記録を祭事実行委員から出して貰うとるけど、大概合っとるな。安芸とのメンツを衝突させないよう、浅間神社が西空の怪異を禊祓とか、確かにそうや』

『こっちもまあ、一年組が乗艦できて幸いですねー』

「これからどうなるのかしら?」

「まずは翌日、告白と勘違いした私と智の話からですわね。――バンドのメンバー集めもですけど、それがどのくらい本気なのか、そういうものを見せて貰わねばなりませんわ」

「お? お? 接待くさい?」

「大体そんな感じになりますけど、とりあえず次も私やミトからですね。ちょっと一息入れたら巻いて行きましょうか」

「あ、ちょっと待って! リハの翌日だと、私とマルゴットが出番になるわ」

「? 魔女のイベントでもあるのですか?」

「いやいや、この時期、実はナイちゃんもガッちゃんもいろいろあるんだよね。それの挨拶みたいなもの? そこからスタートしようか」