ほうかごがかり4 あかね小学校

三話 ②

         ※


 トピック:友達からの変なメッセがこわいです

 とう稿こう者:めーめーさん(10さい)



 別の学校の友達から変なメッセとデータがきてこわいです。

 内容は、送ったデータをプリントして学校に置いてほしいというお願いです。

 私の学校でひどい目にあっている子供たちを助けるためだそうです。

 ちょっとこわいです。

 言う通りにした方がいいでしょうか?

 できれば他の学校の子にもたのんでほしいということも言われています。

 データは『ほうかごがかりのしおり』という変なプリントみたいなやつでした。


         ※


 その、内容を読んで。


「これ……!」


 思わずとりはだが立った。初めてだった。つうならとても信じられない、しかも大人のおくからは消えてしまう、あまりにも異常なので秘密にしていた自分たちのおそろしい活動が、自分たちの活動以外の場所で、初めてはっきり書かれているのを見てしまったからだ。

 それから、相談に書かれている情報も。

 このトピックへの、それほど多くはない返信は「イタズラ」「チェーンメールだから無視するべき」というものばかりだったが、『ほうかごがかり』当事者であるにとって、この相談内容は別の意味を持っていた。


 だれかが、『ほうかごがかり』の名前をかんする冊子を小学校にばらいている。


 学校で見かけたという、友達の報告ともごうする。


「これって……」


 はつぶやく。そして思う。もしかして、友達と同じ学校の子だろうか? と。だが、このトピックが書きこまれた日付を見ると、一年以上前のもので、最近見たという友達の報告とは少なくとも同じものではなかった。

 どういうことだろう? 真っ先に考えたのは、自分もこのトピックに返信を書こうかということだった。しかし一年前のトピック、しかもけいばん自体もまともに利用も管理もされていないはいきよのような状態であることを考えると、いまさら書きこみをしたところで、とう稿こう主からの返答は期待できそうになかった。

 それでも他にないのなら、いちの望みをかけて、書きこみをしたと思う。

 だがしかし、このトピックには、いつたんそれをする必要性をから忘れさせる、大きな情報がふくまれていたのだった。

 質問のとう稿こう主は────トピックへのとう稿こうに、画像をてんしていた。

 画像は四枚。それは、そのまま印刷して二つ折りの冊子にできるような形でページがレイアウトされた、学校のプリントを思わせるふんの画像データを表示した、けいたい画面のスクリーンショットだった。

 その中の一つは、表紙と裏表紙を一枚にした画像。

 殺風景な表紙には、タイトルとしてこう書かれていた。



『ほうかごがかりのしおり』



 と。

 画像を急いで保存した。そして書かれていることをよるおそくまで熟読した。

 そしてその内容に、おどろき、なやみ、そしてなやみながらねむりについて。いつもよりも少しおそい時間に目を覚ましたは、その日もずっとなやいて────よるおそくになってようやくかくを決めて、初めてのアドレスに向けて、けいたいでメッセージをしたためた。




とつぜんのメッセージ失礼します。

 わたしは、あかね小学校の『ほうかごがかり』です。

 あなたの作った『かかりのしおり』を読みました。

 なつとくできる内容ばかりでした。なので、おくけを見てれんらくしています』




 ………………





『助けてください。

 わたしたちの学校の『かかり』は、いま大変なことになっています。

 夏休みになる前に、もう何人もせいになっています。

 それだけじゃなくて、とても信じられないことも起こっています。

 とても理解できないことが起こっています。

 どうすればいいのか分かりません。


 お願いです。

 こんなお願いをしていいのか分かりませんが、協力をお願いします。

 たぶんもう、わたしたちだけだと、どうにもできません。

 このままだと、きっと、みんな死んでしまうと思います。

 めいわくかもしれませんが、他にたよれるところはありません。

 勇気を出してれんらくします。

 わたしたちを助けてください。

 なんの手がかりもないんです。

 話だけでも聞いてください。

 少しでもわたしたちが助かるヒントがほしいんです。

 お願いです。返信待ってます』




 夏休みになったので学校がある時のようには集まれないと、それを言いわけにして、みんなとは相談しないでれんらくすることを決めて。

 それを後ろめたく思いつつ、メッセージを送信して。ドキドキしながら、は相手からの反応を待った。

 送信先は、例の『ほうかごがかりのしおり』の画像のおくけにあったれんらく先。

 名前は『ほうかごがかりのしおり編集委員会』。

 相談のれんらくをしても構わないとは一言も書いていなかったが、も必死だった。こんな内容の『しおり』を作ることができるのなら、いまが切実に求めている『外部の協力者』になってほしいと、そう願ったのだ。





 あの化け物たちの名前を、は初めて知った。

 が見た『しおり』の画像は冊子のページの一部だけで、不完全だったが、目次のページもあって、書かれている内容の多くが知れた。

 この『しおり』は、『ほうかごがかり』がどういうものなのか、あの化け物たちがどういうものなのか、それから化け物を『記録』するための基本的なマニュアルと、注意こうが書かれているらしい。

 たちに足りない知識を、これを書いた人たちは持っている。その助けがほしかった。それが無理だったとしても、せめてこの『かかりのしおり』の全てのページがそろった、完全なものがほしかった。

 そんな一心で送ったメッセージ。

 返事は、翌朝に来た。




『このIDは、そのためにおくけに書いたものです。

 話を聞きます。れんらくください』




 見たしゆんかん、胸の前で、ぐっ、とこぶしにぎった。

 やった! 心の中に、一筋の光が差した。それと、こんな時でも、こんな時だからこそ忘れてはいけない、少しのけいかいも。

 必死に心を落ち着けながら、返事をした。




『ありがとうございます!!

 お願いします!!』




 それを送って、少ししたあと、着信音が鳴った。

 見ると、その『編集委員会』からの音声通話。急なことに少しどうようしながら、そしてこうようけいかいをしながら、少しふるえる指で、通話ボタンを押した。


「……も、もしもし」

『君が〝カナ〟さん?』



 聞こえたのは若い男の、いや、少年の声だった。たぶん少しだけとしうえ。声そのものの印象はやさしいが、文章でしたやり取りとはイメージがちがって、真面目そうというよりもストイックそうで、そして少しだけぶっきらぼうな言葉づかい。


「……はい、そうです。あなたは?」


 そんな相手に、めずらしくきんちようを感じながら、しかし持ち前の社交性で、おくれすることなく返事をする。

 相手は答えた。


『僕が〝そう〟だったのは二年前だ。今は、次に〝そう〟なった子たちが、少しでも生き残れるように、手伝いをしてる』

「!」


 少しだけ、そうかもしれないと思っていた。でも実在するなんて。ネットであれだけ探しても見つからなかったげんえきの『ほうかごがかり』。それよりもはるかに多いはずなのに、全く見当たらなかった、『ほうかごがかり』の


『僕はもりけい


 そんな〝彼〟が、通話の向こうで名乗る。


『最初に断っておくけど、卒業した僕にできる協力は、アドバイスだけだ。僕らは君らの学校の『ほうかご』には入れない。それでもいいなら話を聞く。どうする?』

「お願いします!」


 はその提案に、前のめりに答えた。

 今は他にないのだ。だからお願いする。自分たちが置かれているじようきようを必死に説明する。そうして一時間近いの話を、ときおり質問をしながらしんぼうづよく聞いた〝彼〟は、『わかった』と最後に言う。

 そして、



『明日、現地を見に行く。できそうなら直接会おう』



 そうそつけつした。


「えっ」


 おどろ

 約束して通話は切れた。

 急な約束は、明日の、昼過ぎ。


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