「……そう……そっか……」
飾り気のない『しおり』の表紙を見つめ、悩む恵里耶。
そして、やがて、ぽつりと恵里耶は認める。
「そうだよね……仕方、ないよね……」
「うん。失敗は、いっしょにあやまろ。あやまる時は、わたしが前に立つから」
華菜はそれにうなずいて、励ました。
安堵した。これまでずっと、『かかり』の中心として二人でやってきた。だから恵里耶がこの失敗を受け入れる強さは持っていると信じていたし、みんなから責められるかもしれないことも、恵里耶にとっては絶対的に苦手な状況のはずだが、みんなの未来のために覚悟してくれると思っていた。
「大丈夫、守るから」
「うん……」
「がんばろ」
そろそろ、みんなが集まる時間だ。『しおり』に視線を落としたまま、暗い表情をしている恵里耶の腕に、やさしく触れる。
気持ちは分かる。恵里耶にとって、これからのことは大変なストレスだ。
失敗のことだけではない。対人関係に恐怖のある恵里耶にとって、これから引き合わされる啓は何よりも苦手な初対面の人間だった。
それに────まだ理由がある。
というよりも、そちらの方がはるかに問題だった。いま華菜たち『かかり』は、大問題に直面していた。
むしろ『しおり』や失敗や啓との対面は、おまけだ。
おまけというよりも、その大問題を解決する手がかりを求めて行き着いた結果なので、実際には問題のうちには入っていなかった。
これからみんなが集まる。
だがその大問題のせいで、顔を合わせるのが気が重い。
夏休みに入って、わざわざ集まらなければ顔を合わせられない状況は、解決のためには良い状態ではなかったが、正直に言えば心は楽だった。
何が起こったのか。
それこそが────あかね小学校『ほうかごがかり』を襲った、夏休み前の三つの恐ろしい出来事の、三つめ。
時間が来て、公園に『かかり』のみんなが集まってくる。
徒歩だったり自転車だったり。挨拶をして、そして全員がそろって会話も少なくただ待っていると、ほどなくして啓が、公園に姿を現した。
「…………」
キャップを目深にかぶり、絵の具で汚れた帆布のリュックサックを背負って、折りたたみ式のイーゼルを肩にかけ、空いた手をジーンズのポケットに入れて、華菜たちの方へと歩いてくる、啓。
華菜が進み出て、出迎える。
「来てくれてありがとうございます」
「ああ」
啓は短く答えると、顔を上げ、しかし華菜の方には目もくれずに、まず真っ先に集まった他のみんなの方を見た。
見知らぬ人間の視線に身をすくめる恵里耶。
協力者だとは聞かされているが、不安そうに啓を見る海深と陸久。
そして────
「なるほど、この二人が?」
啓はそう言って、三人から視線を素通りさせて。
「この二人が────生き返ってきたってわけか」
「…………!」
緊張の表情で、啓を見返しながら並んで立っている湧汰と春人の二人を見て────啓はそう言って見下ろすと、疑わしげに観察するように、右目を少し細めた、あの左右非対称の表情をした。
【5巻に続く】