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 訓練船の窓から見える海の色はだんだん緑が濃くなってきていた。港が近い。
 アルム・オブシディアンはで行われる拝命式を前に、数日遅れの新聞を斜め読みしていた。
 ゴシップが売りのその新聞には、最高統治者であるグレン・グナモアをターゲットにした刺激的な内容が並んでいた。先日行われた式典で途中退席したのは妊娠によるつわりだったと大々的に報じている。グレン・グナモアの妊娠説は定期的に出てくるネタでしんぴよう性は低く、つまりはリーンがおおむね平穏であることを示していた。
「くそ、タイがねえな……。記念だからって女の子たちに私物を持ってかれてさ。残ってんのはかみそりだけ。おれの下着なんか持って行って、どうすんだろ?」
 起き抜けのクリストバルがアルムと共用のクローゼットをひっかきまわしながらぼやいている。顔もまだ洗っていないし、ひどい寝ぐせでブラウンの髪は爆発を起こしていた。
「クリスのものならなんでもいいんじゃない?」アルムが言う。
「あーあ。頭がいてぇし、ねみぃなあ」
「ゆうべは羽目を外しすぎだったよ。素面しらふでよくもあんなに騒げるもんだ」
「ここでの最後の夜だもんよ、ゆうべじゃなかったらいつ羽目を外すのよ」
「たしかにあのダンスは見ものだったけど」
「だろ? 女の子たちがおれにも衣装を作ってくれたんで、張り切ってやることにしたの。ターンなんてお手の物だったね。おまえ、ちゃんと見てた?」
 アルムは昨夜のことを思い出す。たしかにクリストバルのターンは見事だった。
 派手な化粧を施し、長い巻きスカートを身に着けたクリストバルは群舞のひとりにすぎなかったが、背の高さも手伝って女子訓練生たちを差し置きそれはそれは目立っていたのだ。
 拝命式の前日、訓練船で過ごす最後の夜は訓練生たちの壮行会を兼ねたパーティが行われる。パーティの夜だけは教官たちも目くじらを立てず、訓練生たちの好きなようにさせる。いままでのぶんと、これからのぶんの、あからさまなガス抜きなのだ。
「剣舞もあったのに。なんでも女の子と一緒がいいんだね」アルムが言った。
「女子の誰かが、ちゃあーんと見てたんだよ」
「なにを?」
「【擬装】の実地訓練のときの、美しいおれを」
「ああ、そういうことか。クリスの課題は《貴婦人》だったっけ。うん、たしかにれいなおばあちゃまになってたよ」アルムは思い出し笑いをしながら言った。
「おばあちゃま? おれはグレン・グナモアくらいを想定してたけどね」
「まあ背格好は同じくらいだし、後ろから見れば……なくもないかな?」
「こう見えておれ、細身なのよね。アルム、おまえの《漁師》は散々だったよ? 教官はどんな基準で課題を与えたのやら」クリストバルはふふん、と笑って言った。
「元の素材から一番遠いものを選んだんじゃない?」
「アルム、おまえはいつもひっかかる言い方をする。むかつくぞ」
「はやく着替えたら?」
「だからタイがねえんだってば」