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 ドーマに先導されて歩きついた〈リタ〉は、移送船という割には船内にそれらしき設備もなく、場違いなほど大規模なラボや図書室などがある。アルムが案内された居住区の個室には、備え付けのベッドと壁打ちのクローゼット、小さなテーブルと椅子、海中が見える窓があるだけだ。
 アルムはドーマが運んだ荷物をベッドの上に置いた。荷ほどきにとりかかる前に、オリヴィアから預かったピアスを訓練船のタイにくるんでテーブルの引き出しにしまった。
「〈リタ〉か……。人の名前が由来なのかな」
 アルムは過去に、〈リタ〉という名前の船を聞いたことがなかった。膨大にある統治府の船の中には、極秘任務を専門に行う公的には存在しない船がある……。そんなうわさが訓練生たちの間でまことしやかに流れていた。もしかしたら〈リタ〉がそうなのかもしれない。
 大きなノックの音がして、アルムが返事をする前に「入るぞう」と言いながらカルセドニーが入ってきた。広くない部屋にカルセドニーのにおいがたちまち充満していく。
「おまえさんの顔を見るところ、そろそろおれはくせぇんだな」
 アルムは鏡で自分の顔が見られたら、と思った。表情を出さない訓練をしてきたはずなのに。
「てことは今夜あたりに入らんとな。おれは鼻がやられていて、食い物以外の匂いがよくわからねえんだよ」
「鼻がやられて……って、汚染物資にですか」
「まあな。新人のころマリネリスで【除染】をしていたことがあってな。後遺症なんだよ」
「マリネリスをご存知なんですね」
「おまえのおやとも古い付き合いだ。おまえさんが小さいとき、おれたち会ってるんだよ」
「申し訳ありません、船長のこと……まったく覚えていません」
「おまえさん、よちよち歩きのころだったからな。さてと、〈リタ〉について説明しとこう」
 カルセドニーは小さなせきばらいをひとつしてから少し早口で話し始めた。
「〈リタ〉はどの部門にも所属していない、グレン・グナモア直轄の非公式船だ。外観は一応、物資移送船ってことになってるがな」
「非公式船? それだと……この船はどこが母港になるんですか?」
「母港なんかねえよ」
「母港がない?」
「〈リタ〉は移動し続けることを課されてるからな」
「目的地もないんですか?」
「まあ何か所か定期的に立ち寄るところはあるがな。でも補給がすんだらすぐに出航だ。長居はめったにしない。〈リタ〉はつねに移動し続けなきゃならん」
「つねに、って……なんでですか?」
「その必要があるからだ」
 つまりいまは教えてはもらえない、ということだ。
 アルムは胸に小さなしこりができたように感じた。
「乗組員も、おれとおまえ、医療担当のゼキ、航行を担当するビスマス、炊事番のナトロ、そして雑務をこなすドーマの六人だけだ。航行はほとんど自動操縦だからビスマスはなんでも屋でもある。セキュリティもビスマスだ」
 ロボットも立派な乗員として扱われているらしい。ロボットに愛着があるアルムにはうれしかった。
「ここでの任務は機密扱いだ、ほかのやつには話すなよ。家族や恋人にもだ」
「恋人はいません」
「そうか? ドラルのお嬢さんはずいぶんと熱をあげていたように見えたがな」
「彼女は友人です。それにこの船がグレン・グナモア直轄の船ならば、着任する前にぼくの交際関係なんてとっくに調べられているのでは?」
「こりゃお嬢さんは報われん」カルセドニーはやれやれといった顔で先を続けた。
「船長はさっき外観は物資移送船だ、って言ってましたよね。となると……この船はなにを移送してるんですか?」
「おう、勘がいいな。〈リタ〉は囚人移送船だ。収容している囚人はひとりだけだがな」
「……ひとりだけ?」アルムは驚いた。
「そうだ。そのひとりをおれたちが【管理】してる。囚人の生命と健康を維持しながら生体研究もしてる、ってとこかな。まあ、ものすごく簡単に言ってしまえば、おりだな」
「おり……」
「ピンとこねえか?」笑い声をあげながらカルセドニーが言った。「まあきょうのところはその囚人とコンタクトをとるだけでいいから、難しく考える必要はねえよ。【管理】をはじめるのはそいつと信頼関係を築いてからだ」
「わかりました」
 うそだ。ほんとうはよくわかっていない。
 アルムはうつむいて、かゆくもない頭を右手の薬指でかいた。視線を感じて顔を上げると、カルセドニーがアルムをじっと見ている。
「おまえさん、お袋さんに似てるなあ」カルセドニーがじっとアルムを見ながら言った。
「そうなんですか? 小さいときに母は死んだんで、母の記憶はほとんどないんです」
「……そうだったか。じゃ行くか」
 それもうそだ。
 アルムは頭を軽く振った。封印したはずの記憶がよみがえりそうになるのを防ぐために。


 カルセドニーの先導で、囚人が収容されているという最下層デッキに降りていく。船内に設置された昇降機は「壊れにくいから」という理由で旧型を採用しているらしく、一つ下のデッキに降りるだけでかなりの時間がかかって困る、とカルセドニーは笑った。
 のたりのたりと下へ降りていく昇降機からは、ごおんごおんという低くて不気味な音がずっとしていた。
 知らない、わからないという状況は人を極端に不安にさせるものだ。
 アルムは不安になると、ある記憶を思い出してはついつい深く考え込んでしまう癖がある。
 古い石造りの、小さくはあったがふたりで暮らすには十分の家で、アルムは父親のコランと暮らしていた。
 その家には隠し扉があり、その先には厳重にじようされた地下室があった。
 幼いアルムは幾度となくせがんだが、コランは絶対に入ることを許さなかった。
 ある夜、アルムはいたずら心と好奇心を抑えられなくなって地下室に忍び込もうとしたが、すべてを見通していたコランに難なく見つかり、これ以上ないというほどこっぴどく