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吸血鬼の姉とゾンビの妹が海外旅行だというのに日本に置き去りだけどどうしましょう……こっちは壊滅してるけど
第六章

 

   1

 二回目の流星雨が降ってきた。
 とにかく僕達は生き残らなくてはならない。そしてJBのピエール=スミスをここで失う訳にもいかない。
 災禍を乗り越える必要がある。
 流星雨については、直撃はもちろん衝突時に撒き散らされる分厚い衝撃波だって致命的だ。ただ地べたに伏せて耐えるだけじゃきっと保たない。
「セベクよ……」
 義母さんが呟いた。
「JBの作ったオモチャが近くに転がってる! あれなら衝撃くらい耐えてくれるはずだわ!!」
 とにかく賭けるしかなかった。
 気絶したピエールを引きずり、アナスタシアに身振りでサインを送って、僕達はみんなで来た道を引き返す。そうこうしている間にも街中にいくつも流星が落ちていくのが見えた。ここだって分厚い壁で隔離されている訳じゃない。衝撃波は地続きでそのまま押し寄せてくるはず。
 石と純金でできた巨大ワニは自分で抉って舞い上げた芝生や黒土を派手に被ったまま、無造作に転がっていた。
 そしてよりにもよって義母さんはひしゃげた大顎の中へ身を乗り出す。
 確か、すごい『力』が凝縮されているから長時間は乗れないって話をしていたはずだけど。た、短時間なら大丈夫ってコトだよね? 一体どんな副作用が待っているのやら。こんなのは中と外のどっちがマシかって問題であって、やっぱりダメージなしとはいかないか。
 アナスタシアが青い顔で、
「うっ、うええ。ここ入るの? マジで!?」
「だから製作者のピエールも口の中に放り込んでる。不意に動き出したってこいつごと噛み潰される事はないさ」
「……、」
「外に突っ立っていたら一〇〇%生き残れない。どっちがいい、アナスタシア!?」
「っ、ええい!!」
 半ばヤケクソな感じで小柄な金髪少女がワニの口に挑んでいった。最後は僕だ。びしょびしょアナスタシアの小さなお尻を両手で押すようにして、大顎へ飛び込んでいく。
 直後に閉じたはずの世界が真っ白に埋まった。
 割と近くに流星が落ちたらしい。外の様子は見えないけど、バスに匹敵する塊が横滑りしていくのが分かった。それから急激に気圧が変化したのか、耳鳴りがひどい。
 ……外に突っ立っていたら一〇〇%生き残れない、か。
 自分で言った言葉が後から刺さる。パリでは名前も知らない人達に助けてもらった。彼らは度重なる災害でどうなっただろう。僕自身、二回目だから流星雨に慣れてきたのもある。深い地下に潜るとか衝撃が逃げていく強度の弱い方向を避けるとか、彼らも経験を積んで適切に行動していると良いけど……。
「はあ、はあ……」
 全部終わった時、僕は密閉された暗闇の中でアナスタシアを抱き寄せている事に遅れて気づいた。
 でもってそんな僕達を義母さんがさらに抱き締めている、らしい。
「た、たすかった?」
 ごくりと喉を鳴らしてアナスタシアが呟いた。
 噛み合わせの崩れたワニの大顎から顔を出してみると、ゴロゴロという低い唸りが聞こえた。おそらく雷雲。たくさんのチリやホコリが舞い上げられて、大気が不安定になっているんだろう。
 一回目の時は、汚い雨、河川の氾濫、地震、火山活動までやってきた。
 だけど二回目も全く同じ手順をなぞるとは限らない。
「……まずは話を聞きましょう」
 天津ユリナの言葉は場違いにすら聞こえた。でも違う。彼女は気を失ったJBのピエール=スミスを睨んでいたのだ。
「専門的な道具はないから、そうね、泥水と布袋を使って窒息辺りが妥当かしら。サトリ、アナスタシアちゃんの面倒を見ておいて。お母さんが全部やるから、絶対にこんなものを年端もいかない女の子に見せるんじゃないわよ」