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『貨物室? 航空機には、アミクス専用のコンパートメントがあるでしょう』
「知っています。立ったまま狭くて暗い閉所に押し込められますので、貨物室同然です」
『諦めてちょうだい。友人派がどれほど増えても、アミクスは国際基準ではまだ物なのよ』
「しかし……どうか、人間と同じファーストクラスにしていただけないでしょうか」
「は?」エチカは思わず声を上げる。「わたしだってそんなにいい席には乗れないんだけど?」
『ちゃんとウイルスの解析結果と、社員のパーソナルデータをもらってくること。いいわね』
そうしてトトキは取り付く島もなく通話を終了し、あとには、絶望的な面持ちのハロルドだけが残されたのだった。
斯くしてエチカたちはカリフォルニアに到着し、タクシーでリグシティへと向かっている──わけなのだが。
「ルークラフト補助官、いい加減起きて」
飛行機を降りてからというもの、ハロルドはうつむいたままで、一向に喋ろうとしない。よほど貨物室が不快だったのだろうが、故障を疑いたくなるほどぴくりとも動かないのだ。
「ちょっと?」エチカはそうっと、彼の顔を覗き込む。うわ、目が開いてる。せめてまばたきしてくれ気持ち悪い。「何なの、まさかどこかに不具合でも……」
「おはようございます、ヒエダ電索官」
「ひっ」
ハロルドが突如、スイッチが入ったように姿勢を正す──エチカは思わず、ウィンドウに頭を打ち付けそうなほど身を引いてしまった。
「おや」彼はけろりとした表情だ。「どうされました?」
「こっちの台詞だ!」危うく心臓が止まるところだった。「あんまり驚かせないで!」
「すみません。貨物室があまりに苦痛だったので、あらゆる思考をオフにしていました」
「はあ」何だそれは。「要するに……起きながら寝ていたということ?」
「分かりやすい例えです」
「きみは自分の足で飛行機から降りて、このタクシーに乗った。まるで夢遊病だね」
エチカが皮肉っても、ハロルドは微笑んでみせただけだ──ともあれ、実際に故障していなくてよかった。万が一にもそんなことが起これば、捜査に大きく影響する。それだけは勘弁だ。
やがてタクシーはフリーウェイを離れ、リグシティ本社へと続くゲートをくぐった。ここの敷地の広大さはネットで見て知っていたが、いざ目の当たりにすると嫌でも圧倒される。複合スポーツ施設やゴルフ場、ビーチまでもが併設され、まるでちょっとしたリゾート地だ。
リグシティは、ここシリコンバレーに本社を置く多国籍テクノロジー企業である。彼らはパンデミック当時、ニューラル・セーフティの開発機関を買収し、その巨大資本で生産工場と流通経路の拡大に貢献した。のちにユア・フォルマを生んだのも、他ならぬリグシティだ。加えて、今日のあらゆるインターネットサービスを提供しているのもまた、彼らだった。
大袈裟でなく、リグシティは地球上におけるテクノロジー技術の牽引者と言えるだろう。
本社前のロータリーでタクシーを降りると、スーツを身につけた女性アミクスが出迎えた。
「お待ちしておりました、ヒエダ電索官。ルークラフト補助官」アミクスは綺麗な歯を見せて、「お客様のご案内を担当している、アンと申します」
エチカは頷きながら、それとなく本社の建物を仰ぐ。オジェやリーの機憶で見た流線形の屋根に、球体モニュメントが燦然と輝いていた──ああ、本当に来てしまった。
リグシティを訪れるのは初めてだが、実のところ、この企業にはあまりいい思い出がない。
「どうされました?」
不意にハロルドに問いかけられ、ぎくりとする──しかし彼が訊ねた相手は、エチカではなくアンだった。彼女はどういうわけか、じっとハロルドを見つめていたのだ。
「いいえ」アンは機械らしい、完璧な笑顔を作る。「ご案内します、どうぞ」
二人は、アンに連れられて本社に入った。だだっ広いエントランスには、会社のロゴマークが彫刻として飾られている。行き交う社員らは一様にリラックスした服装で、アミクスもちらほらと混じっていた。皆、アンとすれ違う度、気さくに声をかけていく。
「アン」ハロルドが話しかける。「君は随分と顔が広いのですね」
「私の顔が広いのではなく、皆さんがアミクスに対して好意的なのです。社内だけでなく、大半の市民がそうです。多くの人が、私たちに休暇を与えたいとすら考えています」
「え?」エチカはつい、変な声が出てしまった。「休暇?」
「はい。カリフォルニア州は議員にも友人派が多く、議会はアミクスの基本的な人権を保障するべきだと考えています。休暇は間違いなく、近い将来に実現するでしょう」
何だって──エチカにとっては初耳だった。恐ろしい、時代はそこまで進んでいるわけか。一方、ハロルドは予めこのことを知っていたらしく、特段驚いた様子はない。
「さすがはシリコンバレーのお膝元ですね、私も移住を考えたほうがよさそうだ」
アンが首を傾げる。「私は休みたいとは思いませんが、あなたはそうではないのですか?」
「ええ、休暇は大切です。アン、もしも私が引っ越した時のために、連絡先を教えていただいても?」
いや待って何を言い出すんだ?
エチカはハロルドの脇腹を小突いたのだが、彼は素知らぬ顔だ。百歩譲ってビガの件は大目に見るとしても、アンと親しくなる理由がどこにある? そもそもアミクス同士の会話は、あくまでも人間らしさを形作る上での『ハリボテ』のはずじゃないか。
アンはハロルドの言葉をどこまで理解しているのか、微笑んだまま言った。「私は端末を所持していませんので、事務所に連絡して呼び出して下さい。きっとお役に立てるでしょう」
「ありがとうございます、アン。そうさせてもらいますよ」
「ルークラフト補助官」エチカは小声でたしなめる。「捜査官としての規範を守って」
「もちろんです」噓だ、絶対に分かっていない。