【Pick up】ワープロで打ち込まれた不自然な遺書【Net files】
すまない。
市長として六期当選。その全てに対し身を粉にしてきたはずだが、今の私の頭を占めるのは謝罪の言葉しかない。しかしこの貧相な脳みそをどれだけこね回したところで足りるものではないだろう。だから言葉によって伝える事は諦め、行動によって示す事くらいしか思いつかなかった。
言い訳にしかならないかもしれないが、供饗市は火の車だった。国家増強計画特区としての指定を受けなければ、どこぞの地方都市と同じように財政破綻の道は避けられなかっただろう。
だが、まさかこんな事になろうとは。
許してくれなどとは絶対に言えない。
『施設』についての話は聞いていた。その必要性も書類の上でなら理解していたつもりだった。だが実際に完成間近のそれを見て、全てが砕け散った。アレは、駄目だ。あんなものが実際に稼働を始めたら、どれだけの悲鳴や絶叫が血の海に沈んでいく事か。どれほどの未来の輝きが失われていく事か。
止めようと思った。
全力を尽くした。
だが結局どうにもならなかった。彼らにとって、市長の座などいくらでも首のすげ替えの利く人形でしかなかったのだ。これ以上意に背くのならば、その首を変える。彼らは言外にそう語っていた。その表情はピクリとも変わらず、その目は笑っていなかった。
途中で投げ出して済まない。
だが私には無理なのだ。あんなものにこれ以上加担するなど。
この魂は天国には行けまい。
けれど、これ以上汚れてしまう前に、私は私の幕を下ろそうと思う。