【Search Engine】『遺体』の使い道【Absolute NOAH】



「ミノリ!」

 試合が終わって。

 誰も彼もに睨まれながらある少年と少女が控室に戻ると、『遺体』を追ってセコンドの夕張セツナが飛び込んできた。

 すでに山のような血と肉は剥離され、中から元の美しい少女を取り出してある。

 それに何より。

 羽裂ミノリはもう半透明じゃない。恋人以外には見えない、というリャナンシーの特徴がなくなっている。

「大丈夫、もう大丈夫だよ、セツナちゃん……」

 自身も信じられない顔で、薄いシーツを胸元にかき寄せながら、リャナンシーだった誰かは呟いていた。

「『まだ』完全な人間には戻せないけど、リャナンシーが恋人を死なせてしまう機能だけなら空回りにできるって。だからもう、一番大切な人を死なせてしまう心配はいらないんだって……」

 それを耳にして。

 夕張セツナはようやく、魔女や妖精が別次元の戦いをしていたのを思い知らされる。勝って生き残る、だから容赦なく殺す。そんな戦い方を選んだのは自分だけだったと。

 弾かれたように、夕張セツナは振り返った。

 しかしそこには魔女もセコンドもすでになく、ただ薄く開いたドアが待っているだけだった。



 妖精にまつわる伝説にはこんなものがある。

 妖精に連れ去られた犠牲者は人間をやめて同じ妖精になってしまう。だけどそうなった犠牲者を再び人間に戻す方法もある。

 もしも妖精達のパレードの中に見知った誰かの顔があったのなら、迷わず飛び込むと良い。そしてどれだけ妖精達が恐ろしい目に遭わせてきたとしても、決して諦めずにその人を抱き締め続けると良い。

 その勇気と愛情が本物であり、最後の最後まで諦めなければ。

 妖精となった誰かは解放され、再び人の生を送る事ができるようになるという。