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ドッ!! と。
鈍い音が、脇腹の辺りから。
「サトリ!?」
「サトリちゃん……っ!!」
徹底的に改造された三連殺人チェーンソーが、薙ぐっていうより突くような動きを見せた時だった。もう迷っていられなかった。とにかく二人の間に割って入った。すぐに異状に気づいて母さん、禍津タオリがチェーンソーのクラッチを切ってくれたけど、さてどうなったかな。脇腹の辺りは上着の布地がズタボロになって、いくつかがサメの歯みたいなブレードに絡みついていた。しかも粘つく汚れは機械油のものだけじゃない。明らかに、赤黒く鉄錆臭い液体が混じっている。
でも、これだけじゃ終われない。
義母さん、天津ユリナの手にあったのが鋭く折った木の枝とかで良かった。錆びたスクーターを片手一本で振り回しているとかだったら止めようがなかったし。とにかく腕を振り上げて、今まさに禍津タオリの頭頂部を狙っていた切っ先を受ける。鋭いナイフとはまた違う、どこまでも鈍くて不吉な痛みが腕の骨まで達する。
……まずいな。これはもう本当に立っているだけの余裕もないかも……。
でも、言わないと。
ここで呪縛を切らなくちゃ、この人はずっとこのままだ。禍津タオリにとって不利な選択だけで作られた世界の中で、それでも新しい道へ進む力もなくなってしまう。
僕はもう選んだ。
どうやったってそれは覆らない。でも、それで終わりにしちゃいけないんだ。切り捨てて後は知らないじゃダメなんだ。切り捨てたからには切り捨てただけの責任を負わなくちゃならない。そのためのケアは、やってしまった僕の仕事なんだ。
「母さ、」
「っ」
「ごめ、あの時、声を掛けられなくて……」
それに、義母さん、天津ユリナにも背負わせられない。ここで彼女が禍津タオリを殺してしまえば、ある種平穏は訪れる。僕は一方的に好きなだけ義理の母親を恨んで、その落ち度を糾弾して、父を籠絡して実の母を殺し、天津の家を乗っ取った悪女として詰り続けられる。平穏を守ってもらいながら、その罪を被せて、真っ白な被害者のまま幸せを享受できる。
でも。
それで良いのか?
良い訳なんかないだろう!!
……だから、守るんだ。僕はちっぽけな子供だけど、それでもやっぱり家族の一員なんだから。どんな形であっても、あるいはすでに終わってしまったとしても、一つの選択をしたからこそ、その責任は自分で果たさなくちゃいけないんだ……。
殺人三連チェーンソー『ハンドメイド』
マクスウェル:ユーザー様の実母、禍津タオリ自らの手で作り上げた対アークエネミー兵器がこちらとなります。メインの三連刃は互い違いに回転する事で標的を斬るというよりは肉に噛み付いて上下に引き裂くような破壊を実現、また大型ボウガン(というより攻城レベルのバリスタ)には数十本の銀の矢を束ね、扇状にばら撒く事で速度で勝る不死者の逃げ道を封じる確実な牽制効果を発揮します。兵器一式で七〇キロを越える超重量であり、これを草刈り機感覚で自在に振り回せる事自体、禍津タオリの規格外ぶりを証明しているでしょう。