ファン学!! 東京大空洞スクールライフRTA 03

▼005『自分が知らない自分の物語』編【07】

◇これまでの話





「逆転された!」


 流石に通神ではなく、ローカルで叫ぶ。

 現場の皆には今の声を届けないようにして、息を吐く。

 そして、


『DE子さん、ミツキさんが超強いね!』




 DE子は、滑走の中で身を回しながら、遠くの空を渡っていく同級生を見た。

 彼女のとった方法は単純だ。

 射出機で自分を加速する。


 ……ミツキさん、かなりヤンチャだね……!


 何処までがアドリブなんだろう。

 ぶっちゃけこういう対戦は初めてだし、ファッションユニットと言われる彼女達と、初心者の自分達と、何処が違うのかよく解らない。

 ただ解っている事がある。


 ……ミツキさん、勝つつもりだね……!



 理由は解らない。それこそ、


 ……我ら全ての行動を感情によって始め、だ。


 彼女は、前を見て、そういう決断をしたのだろう。

 だから己はこう言った。


『白魔先輩』


 ミツキさんは”強い”。

 彼女自身は自覚が無いだろうし、必死かもしれないが、結果として”強い”。

 ならば相対している自分としてはどうすべきか。

 身を回し、風を浴びながら己は決めた。

 言う。

 こんなこと、川崎時代には思いもしなかったけど、


『――勝つためには、どうすればいいですか』




「……ほう」


 黒魔は、DE子と白魔が何か遣り取りしていたのを見ていた。

 そしてその後から、DE子の動きが”変わった”。


「安い手を捨てましたね」


「ああ、使用スキル構成を変えた。

 既に、”疾走”から”回避”に変更しているが――」


 ここで更に組み替えた。

 その変更先は、


「――”気付”を解除。

 代わりに、恐らく”舞術”を入れたな」




『変わった!?

 よく解らないけどDE子の挙動が変化しました!

 滑走が速い! 明らかに速くなっている!

 これは何が起きたんですか! ハナコさん!』


『”繋ぎ”だよ、繋ぎ”。

 ”気付”で注連縄回廊の動きを読むのをやめて、”回避”で対応するようにした。

 そして各動作を繋げるために”舞術”にシフトした。

 使用してる3スキルは、こういうことになってる筈だ』



・建造:注連縄回廊の構造と挙動を読み、滑走をしやすくする。

・回避:注連縄回廊を滑走する際、不安定や振幅を避ける。

・舞術:”建造”と”回避”の結果を、一つにまとめる。


『これまで、DE子の挙動を統括してるのは、スキル代わりに使われてる戦種レベルだった。

 しかし戦種レベルだと”専用”じゃねえから動きがバタつくわな。

 だからそこで”舞術”だ。これだとスムーズに繋がる』


『DE子は”舞術”の素養があったんですか!?』


『おーい』



『その”おーい”は私ですよね!? ね!? それとも自意識過剰ですかねコレ!』


 白魔がこちらを拝んでいるから自意識過剰では無いらしい。

 ならば回答する。


『小中学校の体育授業では、課題として表現運動というものがあり、これは昔においてはフォークダンスなどを示しました。

 しかし2010年代からは現在のような”ダンス”も入り、ウォーミングアップにも用いられています』


 一息。


『まさか”フォークダンス”くらいしか学校では教えていないという古代人は、この中にはいませんよね?』



 黒魔は、きさらぎがシートに座り直すのを視界に入れつつ、ハナコの笑いを聞いた。


『ククク、煽りやがる!

 ”舞”ってのは表現だ。

 だとするとDE子はここで”抜き去る”表現をしてるって事になる』


 ああそうだ、と己は思った。


 ……DE子は、”変わった”のか。


 DE子は言っていたのだ。

 川崎時代に、友人達と3on3をやっていたと。

 遊び程度で、ザコだったと。

 だが、


 ……ザコでいいって、思ってないだろう、今、オマエ。


 勝とうと、そう思っている。



 どうにかしようと、そう思っている。



 ……よし。


 何が”よし”なのか、自分でもよく解らないが、己は思った。

 よし、ともう一度心の中で押さえるように告げて、言葉を飛ばす。


『――白魔、DE子の使用スキル組み替えだが――』


『うん。解ってる。

 DE子さんの”気付”はレベル2。

 ”舞術”はレベル3。

 アンサー+1分の挙動が良くなったとしても、3ターン目から導入だから、ミツキさんとの差は2しか縮まらないの』


『レベルアップ処理の時、上げるスキルをミスったか……』


『こんな勝負があるって想定出来ないから、そういうネガ思考は駄目ー』


 まあ確かにそうだろう。


『だがここで3ターン目が終了だ。

 これから最終、4ターンに入る』


 そして現状の仮定総合アンサーは、


■仮定総合アンサー

・ミツキ(しまむら)

:仮定総合アンサー:164


・DE子(エンゼルステア)

:仮定総合アンサー:151+2=153



「まだ11アンサー足りない!!」


 これをどうにかしなければならない。

 しかし、


『さあ! 最終第四ターンの開始です!』



 境子が叫んだ直後だ。

 周囲の空間全てに軽く小さな流体光の破片が散った。


『情報深度解除します!

 リアタイで結末を見よ!

 皆、一気に行くよ!』




◇第六章



 ミツキは走っている。



 ミツキは加速する。

 足はもう、全力疾走というか三段跳びを連続しているような動きだ。

 時速九十キロ。これは、移動手段として徒歩や自転車が基本である自分の感想として、


 ……死ぬ――ッ!


 だけど走らねばならない。

 何しろ自分の使用スキル構成には、”疾走”が入っている。

 もし飛んでしまったら、それは解除されるし、


 ……私がアドリブで新しいスキル構成をアクティブで作れるとは思えないんですよね!


 だから走るのは死守。

 とにかく足場から落ちないこと。

 それだけを考えて全身を挙動する。



 ああもう。

 何か風とか恐怖で涙出て来ましたよ。



 汗もビビリで酷い。

 コレ終わったら学校のシャワールーム借りて――、あいや着替えがない。

 ジャージは家です。

 だけど速い。

 とにかく速い。

 映画でもこんなの見たことない。

 やはり現実は想像物より奇なりですよね。

 フフフ。

 フフフじゃないですよ。


 ……死ぬ――ッ!


 本日二度目。

 私、こういうときの反応がワンパターンだったんですね……、としみじみ思うが、だが一気に距離を詰めている。

 そして、


「DE子さんの方……!」


 向こうも相当の速度を出していた筈だ。

 しかし、


「おお、わ……!」


 声が上から、右上方より来た。

 どういうことかと思って振り向いた視界の中、DE子が確かに居た。

 だがそれは、


「背面飛行!?」


 違う。

 あれは、


「弛んでいた注連縄回廊が、大きく波打ってるのであります!」



『おおっとDE子選手!

 上下振幅を食らっている!

 波打の上下落差は二十メートルほどありますかね!?

 揺れは上下だけじゃなく左右にも走っていて、これはキツイ!』


『アハハ! 振り回されてやんの!』


『というか、どういうことです!?

 これまで、あんな揺れは生じてませんでしたよね!?』


『解れよ!

 どうしてああなったか、考えれば解ることだ。

 ――牛子だよ!』



 風が緩く吹く第一階層上側ルート。

 ゴールとなる空中岸壁の手前。

 二つ並ぶ浮上島の一つから、激震が響いていた。



「スーパー張り手は一日一回!」


 右の掌を叩き込んだ先は、注連縄回廊の基部。

 こちら側の杭が大きく震動し、


「音! デカい……!」


 その通りの効果はあった。

 DE子の行く注連縄回廊が大きく波打っているのだ。

 注連縄が風切り音を立てるほどの振幅の上。


「さあ、DE子、――行ってみなさいな!」



 ミツキはそれを見た。

 上下に、まるで縄跳びのように揺れる注連縄回廊。

 その上を滑走するDE子が、動作を追加したのだ。


「あれは――」


 一度腰を落とし、回廊の振幅に合わせて、全身をスプリングのように縮める。

 それは次の瞬間に前に出る瞬発となり、全身が跳ねるように回り、止まらず、


 ……スノボ!?


 否、違う。

 何となく”見える”のは、DE子の動作には仮想の相手がいることだ。

 振幅の揺れを掻き分けるように身を回し、舞うように行くのは、


「相手を抜く動き……!」



 きさらぎは、DE子の挙動に疑問した。

 その動きが、見たことはあるが、不可解なものだったからだ。


「――集団戦闘における回避挙動ですよね? でも彼女、曲芸スキルは持っていましたか?」


「余所のヤツに言うのは何だけど、DE子の曲芸スキルは1だ。ここで使えるレベルじゃない」


「ではアレは――」


「よく見ろよ。

 曲芸入れた回避系は、下がることだって出来る。

 だけどアイツ、前にしか出てないだろ?

 曲芸系の回避じゃないんだよ、アレは」


 先ほどまでの、”回避”と”建造”を”舞術”で繋げるものでもない。


「――表現だ」



「――”舞術”ベース。

 ”相手を抜き去る”表現を、振幅する足場を利用して行っている」


 つまり、


「あの振幅はDE子にとってペナルティにならない。

 寧ろ、速度を上げるためのフックだ」



 地元でこういうの、上手く出来なかったなあ、とDE子は思った。

 コートは平面で硬かったけど、相手は背丈がバラバラで、身体の挙動も傾いだり前に出たりと完全ランダム。

 その中を抜けて行くには、


 ……こっちが身を傾けて、無茶苦茶なバランスを取らないと。


 だからそうした。

 波乗り経験は無いが、今の状態はそれに似ているだろうか。




「腰を落とす」


:+舞術3


「行き先を見て、全身を翻す」


:+舞術3


「それら全てを統合し、”抜く”」


:+舞術3


「抜いた」


:+回避3


 本来使用されている”回避”と”舞術”の他。

 三連続の”舞術”。

 ”回避”が一回。

 それらが追加で入った。



 白魔は、実況席からの叫びを聞いた。


『――”回避”のダブルスタック!

 そして”舞術”のクアッドスタック!!』


 観客席のどよめきは、しかし自分には納得出来る。


『DE子さん、――成文化出来る人だもんね』


 己の行動。

 表現すべきを細分化かつ成文化し、スタックに変える。

 これを可能とするには、当然、牛子による足場の変化などもある。

 一人で出来たものではない。しかし、


『まだまだだよ……!』


■仮定総合アンサー

・ミツキ(しまむら)

:仮定総合アンサー:164


・DE子(エンゼルステア)

:仮定総合アンサー:153+12=165


『逆転したよ!!』



 ミツキは走った。

 右横。

 離れた位置の空を、強烈な上下の波に揺られ、背面状態になることも容易く行く同級生がいる。


 ……凄い。


 エンゼルステアに組み込まれたのは、彼女が”飛び地”出身者だからだろう。

 だけどそれが、この大空洞範囲に来て、数日であそこまで出来ている。

 そして、


「逆転された……!」


 ……ああ。


 DE子さんの所属する”エンゼルステア”は、私達”しまむら”のようなファッションユニットではない。

 ガチの踏破系ユニット。

 メンバーもランカークラスがいる。

 環境の差は、スタートダッシュでこれだけの違いとなるんですね。

 でも、


「ミツキィ――ッ!」


「ミツキ君!」


 聞こえた。



「――君の方が追う位置にいるのであります!!」



 そうだね、と己は思った。


 ……最大加速はDE子さんの方が上なんだよね。


 この終盤、彼女の方が前に行く。

 だけど今ここは”判定割”。

 このままゴールすれば、判定で負けている自分が敗北する。

 アンサー1差。

 否。

 1を埋めても並ぶだけ。


 ……DE子さんに勝つには、アンサー+2以上が必要。


 どうだろう。

 解らない。

 こっちは正直限界だ。

 勘弁して欲しい。



 行けるのかな。



 DE子さんが凄くても、今の処の総合アンサーはこっちが1つ下。

 たった1差だけど、だからこそ、


「頑張れ……!」


 そうだ。

 ヨネミだって、勝てるかもと、そう思ってる。

 ファッションユニット。

 それがレジェンド級のユニットに勝利する。

 しかも、低レベルで、余所のユニットから降りてきたようなメンバーで、だ。

 大それたことだと思う。

 うちの弟が聞いたら、何考えてんの、って笑うだろう。

 でも、


 ……でも。


 勝ちたいと思うのは、悪いことじゃないですよね。



 信じよう。



 ミツキはスキルを変更した。


「”気付”はもう要らない!」


 もはや注連縄回廊を読むとか、そういうレベルではないのだ。

 ゴール直前。

 ここで何もかも振り払って前に行くには、


「”度胸”……!」



 己の”度胸”はレベル6.

 ”気付”のレベル4よりもアンサー+2ほど勝る。


■仮定総合アンサー

・ミツキ(しまむら)

:仮定総合アンサー:164+2=166


「これが私のリザルト!」


 DE子さんの総合アンサー165よりも、1勝る。


「これで勝ちます!」

 



◇これからの話