[プロローグ] 自由な悪を求めて
王歴アンバルド15年☽月×日
事故に巻き込まれて死んだ俺は魔法の世界に転生した。
オウガ・ヴェレットという名を授かって、はや五年。
新しい人生目標はすでに決めている。
それは好き放題できる生活を送ること!
思い返せば前世はいい人を演じ続けた結果、残ったのは苦い思い出ばかり。
告白しても『異性として見れない』と断られ、ようやくできた恋人と愛を育もうと思ったら大学進学と共に寝取られた。
せっかく異世界に生まれ直したのだから、あんな思いは二度としたくない。
そんな目標を胸に生きる俺が生まれたのはヴェレット公爵家という国の外交、
長男に生まれた俺は将来的に家業を継ぐことになるだろう。
すでに英才教育を
両親も初の子供に
このまま領主ルートを突き進んで、今世は好き勝手にやりたい放題して生きる!
クックック……! あぁ、将来が楽しみだなぁ!
王歴アンバルド15年%月&日
悲報。我が家が悪徳領主と呼ばれている件について。
毎日勉強熱心な俺を見て、父上が自らもう一歩踏み込んだ貴族情勢について
そして、知ったヴェレット公爵家の立ち位置。
父上は愚者としてわざと見下されるように悪政を敷いていると見せかけているらしい。こうすることでターゲットの心に油断を作り出すのが目的なんだとか。
つまり、後継者の俺も父上の政治の流れを引き継がねばならない。
そこで俺は「悪役」について学ぶことを決めた。
気の赴くままに行動し、気に入らない出来事が起きればかんしゃくを起こす神経のずぶとさ。ふんぞり返って、人をこき使う。周囲の評判など気にせず、自分こそが世界の中心だと思っている。
悪徳領主を演じるために「悪役」を学ぶのだが……これが意外と俺の目的とマッチしていた。
だって、悪徳領主こそやりたい放題な生活を送る人生の理想じゃないか!
という感じで、各地の物語を取り寄せて「悪役」と呼ばれる登場人物たちの模倣をすればいいと軽く考えていた。しかし、感情移入を続けることで「悪役」への考え方が変わったのだ。
バカにしていた「
理解者なき道だとしても屈せず、信念に従って生きる姿を格好いいと思った。
そんな彼らを見習って俺も目標を修正しよう。
【やりたい放題自由気ままな生活を送る】という信念に沿って生きる【格好いい悪役】になる。
俺は今日から胸に刻んだ信念に従って、
王歴アンバルド15年▼月▼日
この世界には四大公爵家と呼ばれる王家の次に権力を持つ四つの貴族がある。
ヴェレット家もその一つで、公爵家とその血族たちだけが集められたパーティーが開かれた。建前上は仲良く協力しようと取り繕っているが、裏では他家を蹴落とそうと腹の探り合いが行われている。
関係性を把握したかったので話を聞いていたかったのだが、子供の俺は参加できず……。
退屈している中で庭を散策していると、複数の男に囲まれて泣いている少女と出会った。
信念を持って行動するようになってから、俺は弱い者いじめをする格好悪い悪意を嫌うようになっていた。
なので、
これで終わり……と思っていたのだが、少女はどうも俺に
名前はカレン・レベツェンカ。同じ四大公爵家であるレベツェンカ家の一人娘らしい。
レベツェンカ家と言えば前時代的な考えを持っており、あまりいい
例えば家督は男が継がねばならないとか、力なき者には人権など存在しないとか……。
カレンが引っ込み思案な性格もそのあたりが関係しているのだろうか。
なんにせよ、せっかくできた縁だ。仲良くしていこうじゃないか。
ひな鳥みたいに手をつないでついてくるカレンはとても
それに
このまま仲良くなって、自然と恋仲になって、結婚しちゃったりして……ぐへへ。
……おっといけない。だらしない顔を引き締めねば……!
王歴アンバルド15年☁️月$日
カレンの父親から彼女との接触禁止を手紙で言い渡された。
王歴アンバルド15年☁️月▽日
人の上に立つために必要な要素は力だ。
部下たちの不平不満を全て上から抑えつける圧倒的な暴力があれば、反論されることもなくなる。
この世界においてわかりやすく力を示せるのは魔法だろう。
そして、俺には──魔法の適性がなかったっ……!!
火、水、風、土、雷、光。
適性検査の結果、どれにも適していないらしい。
この事実が判明すると同時にあれだけ我が家に遊びに来ていたカレンの訪問がピタリとやんだ。
……で、先日、レベツェンカ家から直々に手紙が届いたわけだ。こうして冷静でいられるのも、俺以上に父上が激怒してくれたおかげだったりする。
なんにせよ貴族社会において魔法が使えないのはとてつもないハンデだ。
これで【やりたい放題自由気ままな生活を送る】という目標も終わり……で怠惰に落ちるのは一般人の思考。
しかし、今世の俺は天才だった。
適性はないが、魔力量は膨大にある事実も判明したのだ。
ならば、俺が使える魔法を編み出してしまえばいいだけの話。力を付ければ、どんな問題だって解決できる。
剣技、体術に関しても家庭教師を招くことも父上に相談の上で決定した。
今は伏す時。素晴らしい未来のために牙を磨き上げるのだ。
王歴アンバルド20年☀️月■日
ついに完成した! 俺だけが使える魔法!
正確には魔法と言っていいのかわからないが、とにかく完成させた事実が大切なのだ。
ずっと仮説を立てては実験を繰り返したかいがあったというもの。
やはり今世の俺は天才みたいだな。
これで魔法を使えなくとも魔法使いに対抗できるようになった。
お披露目はもちろんまだしない。
俺が見つけ、俺が作り上げた唯一の技術をそう簡単に使いはしないさ。
父上と母上に相談したら、それがいいと太鼓判を押してくれたしな。
それと同時に魔法学院に行って、さらに
話を聞けばどうやら優秀な人材が様々な地域から集まるらしい。
将来、好き放題したい俺としてはコネを作り上げる絶好の場というわけだ。
しばらくは勉強漬けになるが問題なし。さぁ、気合いを入れなおそうじゃないか!
王歴アンバルド25年☂月◎日
ついにこの日が来た。
俺の前世の頃から続く夢への第一歩が今日から始まる。
夢──それは自由気ままに、やりたい放題して生きること。
悪徳領主と呼ばれようが、私欲まみれと糾弾されようが知ったことじゃない。
十五になったことで実家を離れて魔法学院での寮生活が始まる。
そのためヴェレット家では
俺はそいつを学院生活だけではなく、一生涯こき使うつもりでいた。
つまり、優秀なだけではダメだ。俺とのつながりを失うと人生が詰んでしまう。辞めたくても辞められない。
そんな崖っぷちな状況の人材を選ぶ必要がある。
そして、すでに選別は終えていた。
【元聖騎士団総隊長】クリス・ラグニカ。
平民から聖騎士団のトップまで上り詰めるほど正義心に満ち
それだけにおさまらず、財まで取り押さえられた。
今は王都の
彼女に期待しているのは護衛。もちろん俺だけでも事足りるのだが、念には念を。
聖騎士団の総隊長をしていた実力なら十分すぎる。
あれだけ正義に飢えていた彼女なら「俺の隣で輝いてくれ」的なことを言ったら、簡単に
残念ながらクリスの正義は俺にたてつく反乱分子を裁くために使われるんだけどな。
ふっ……こうして文字として書くと改めて感じる。
いよいよ明日から始まるのだ。
【悪役】としての、俺の第二の人生が!