八．新たな出会い ③

　面倒そうに言って肩を竦（すく）める。

「……これ、むしろ目立って、絡まれません？」

「あ？　俺、時々低ランクの技術指導なんかもするから気にされねぇよ。俺がバックについているかもって思ったら、初心者潰しするような奴いなくなるから、暇を見つけたらやってるんだ」

「へぇー、すごいですねぇ」

　レイの面倒見の良さはアルに対してだけじゃないようだ。納得してギルド証を返す。

「じゃあ案内よろしくお願いします」

「おう」

『宿に泊まるなら飯が旨いところがいいぞ！』

　騒いでいるブランには適当に頷いておいた。レイにはブランの言葉は伝わらないので、いくらブランが要望を言おうと何の意味もない。

「どっか行きたいとこあるか？　とりあえず宿をとることを優先しないと安いところは埋まっちまうけどよ」

「安さより快適さ重視の宿がいいですね。あとは町をぶらついて色々見たいです。できれば武器屋で剣を調達したいですけど」

『旨い飯がついている宿がいいぞ！　飯だ、飯！』

「ああ、お前の剣、歪んじまっているもんな。炎獄熊（フレイムベア）は身に纏う温度が高すぎて、普通の剣じゃ溶けちまうんだよ。……お前は強制的に冷やしていたみたいだけどな」

　レイが少し呆れた顔をする。炎獄熊（フレイムベア）に水を噴射して体温を冷やすのは一般的な討伐方法ではないらしい。では、普通はどう倒すのだろうか。あと、ブランは飯飯とうるさい。

「炎獄熊（フレイムベア）の普通の倒し方ってどういうのですか？」

「俺は魔力波でひたすら遠隔から斬りつける」

「……そうですか」

『これが脳筋という奴か？　だが、まあ、それができるなら有効な手段かもな』

　レイはドヤッとした顔をするが、それは絶対普通の倒し方じゃない。Ａランクに普通を聞いてもどうしようもないかもしれない。

　魔力波というのは、剣に魔力を通して、それを振ることで生じる魔力による刃（やいば）のことだ。剣がよく魔力を通すものじゃないとできないし、コントロールも難しい。レイが持っている剣が魔銀製だからできることだ。魔銀などの魔力を通しやすい鉱物は値段が高くて、生半可な冒険者では一生かかっても持てないだろう。

「まあ、俺が低ランクに教えるときは、炎獄熊（フレイムベア）を見たらなにも考えずにすぐさま逃げろって言うぞ。あいつ足はそこまで速くないし、執念深く追ってくるもんでもないから」

　アルが少し呆れているのに気づいたのか、ちゃんと普通の対処を教えてくれた。逃げ一択というのがなんとも言えないが。レイが炎獄熊（フレイムベア）を見つけてアルを手助けしようと考えたのもそれがあるからなのだろう。アルが持っている剣は普通の廉価品だったし。

「そうなんですね」

「ま、普通なんてお前に必要ないだろ。……お、ここの宿は評判いいぞ」

　話しながら歩いていたら、一軒の宿の前で立ち止まった。なかなか綺麗な外観で窓辺に観葉植物が植わり、それが二階から下まで蔓を伸ばしている。きちんと整えられたそれがまたお洒（しゃ）落（れ）だった。

「へぇ、外観はいいですね。ちょっと空きがあるか聞いてきます」

「おう」

『飯がどんなのかも聞くんだぞ！』

　ブランの言葉に対して適当に頷きつつ宿に入る。カウンターでは、女性が暇そうな顔で座っていた。

「あら、お客様かしら」

「ええ、一部屋ほしいんですけど。従魔も一緒に泊まれますか」

「従魔……森狐（フォレストフォックス）かしら……？　まあ、その大きさなら大丈夫よ。一部屋ね。ちょうどさっきキャンセルが出たところだったの。あまり部屋は広くないけど、そこでいいかしら」

「はい」

　いいかと聞かれてもそれがどれくらいか分からないのだから返事のしようがない。とりあえず頷いておいた。

「一泊で半銀一枚よ。朝食と夕食はそちらの食堂で食べられるわ」

『飯！　どんなものだ？』

「じゃあとりあえず一泊お願いします」

「分かったわ。私はルエラよ。延泊するときは早めに私に教えてね。でないと次の予約が入ってしまうことがあるから」

「分かりました。僕はアルです」

「よろしくね、アル」

　案内された部屋は普通だった。ベッドと小さな机と椅子でいっぱいの大きさの部屋である。まあ、寝るぶんには困らない。ブランも場所とらないし。

『これが普通の宿なのか』

「ブラン、宿は初めてだったね。普通だと思うよ。……あ、レイさん待っているから早く出よう」

　別に置くような荷物もないし、そのまま宿を出た。

　待っていたレイと共に町を歩く。店で売っているものは魔の森産の物が多く、普通の農作物なんかは少し価格が高い。魔の森が近いと農作物を育てるのも大変なのだろう。

「どんな剣を探しているんだ」

「そうですね。できれば魔力を通しやすい物がいいですね」

『今までは無理やり魔力を纏わせていたからな』

　ブランが呆れたように言うので、その頭を乱暴に撫でた。決して無理やりやっていたわけじゃない。しっかり魔力操作を訓練して計算してやっていた。……ただ、アルの魔力が大きすぎて、剣が纏う魔力が大きくなりすぎただけだ。もっと魔力の通りが良い剣なら、わざわざ纏わせようとしなくても、アルの余剰魔力で効果を発揮できるはずである。

「魔力か。お前すごい威力の魔法を使っていたようだしな。よし、俺の馴（な）染（じ）みの武器屋を紹介してやろう。金は十分あるか？」

「……先にギルドに寄っていいですか？」

「おう、良い剣を手に入れようと思ったら、金かかるからな」

　レイに断ってギルドに向かう。時刻は既に夕刻でギルド内には冒険者がたくさんいた。だが、ギルド自体がとても大きく、カウンターも多いのであまり混雑しているようには感じなかった。

「この時間は、カウンターがフルで稼働しているからな。あんまり並ぶと、めんどくせぇし」

「あ、ここ、査定カウンターとか色々分かれているんですね」

「そうだな。一緒くたにすると効率が悪いからな」

「へぇ」

　効率的な配置に感心しながら、解体依頼兼魔物素材買い取りカウンターに並ぶ。一番端にあり、カウンターで出されたものは車輪のついた箱に入れられ、そのまま奥の解体室に向かっているようだ。

「──次の方。ギルド証をご提示ください」

「はい」

　アルのギルド証を確認した係員が頷き、魔物素材を出すように頼む。