プロローグ 図書委員は求めに応じる
たどりつきたい、という欲求がある。
「図書館に、何を求めるかの、お若いの」
声が問うてきます。あなたは思う答えを返します。
「──ふん。ふんふん。ほうほうほう。むふふ」
楽しそうな笑い声。童女のような。
「大変、大変、大変結構。書は読み手を問わぬ。
声の調子は歌い出すようでした。
「届けるために。導くために。知を腹に
この場所のやくめ。
さだめ。
どれだけ険しくとも
どれだけ
知は知でしかあらず
知る意志さえあれば
知を尊ぶのであれば
誰にとて、何にとて」
歌が
「どれ、申してみるがいい。我らがその
あなたはここに、何を求めに来たのでしょう。
そのような経緯のため、開架書庫として地上四階・地下二階、中高一貫とはいえ学校図書館としては破格の規模を誇る。授業利用は
学園図書委員会探索委員に所属する有志面々は、今日も未知の蔵書を解き明かすため、地下へと挑む──。
これは、奇妙な図書館と、そこに挑む図書委員達の物語。
『図書館』地下三層・《地下「閉架迷宮」書庫》エントランス──
「……はぁい! 我々図書委員会探索委員
薄暗い地下空間に、甲高くも
……その口調を除けば、だが。高い位置の腰をくいくいとやっている。
「魔導書にも分類ってあるんすねえ……」
「あんた分類覚えてないの? 164って神話よし・ん・わ。ごっど!」
「
前に居並ぶ三人の男女が、説明された内容へそれぞれに反応を返した。彼等は、
一人は、ツインテールにした空色の髪が活動的な印象を与え、西洋の血を示す見た目ながら、流ちょうな日本語と十進分類法を操る少女。
そしていま一人はゆるい天然パーマの少年、と外見は様々だ。
およそ日本の学校で図書委員会にいそうな人間、と言われて思い浮かぶ外見の
その少年が発した最後の質問に、
「ンもう。名前で
へっ、と赤髪の少年が軽く笑って、短ランに改造された制服の首元を開いた。
「確かにこんな気味ワリーもんが、六層くれーに転がってるワケねーな」
「あんたねえ、セクハラよそれ。やめてよもー……うわっ、乳首に毛生えてる。キモッ! 『魔書』よりそっちのがキモッ!」
「ちょおまっ、エス公てめえ何てこと言いやがる。つーかそんなマジマジ見てんじゃねーよ! このエロ女!」
はあふざけなさいよあんたが見せたんでしょーがお前に見ろとは言ってねーだろアホか──
「おおぐにー、エスキュナー、その辺でな。図書館では静かにしろ」
言い争いに発展せんとする二人──少年・
「すんませんッス!
「うっ……ごめんなさい、
二人は即座に向き直り、隊名になっている少年へと謝罪の言葉を口にする。意外にも一見頼りなさげなこの
ああ、と軽く謝罪を受け入れ、
「良し。それじゃ『降り』るぞ。各自『魔書』の準備」
「うす」「了解っ。ゴッタゴー!」「はいな」
それぞれに返事をする三人。その瞬間だ。
その様子に
巨大な扉だ。木材をくすんだ鈍色の金属で縁取ったそれは、長久の年月と、その後ろの空間が持つ圧力を押し
しかし。
押し開いた扉の奥には、さらなる地下へと続く階段が見えた。少年達は、そこへ敢然と踏み出していく。
たどりつくために。
やがて四人が地下へ姿を消し、扉は閉じられた。扉の案内板には、こうある──
『地下閉架書庫入口』
『地下書庫は迷いやすく大変危険です。司書・図書探索委員以外立入禁止』
そう。
そこは、図書館だった。



