Episode1:百姫夜行 ①

 ベルカ・アルベルティーネは十七歳。引きこもりのじよである。

 ついでに言うと無職でもあり、おくれのじよでもあった。

 じよがつこうを卒業して早一年。名家であるアルベルティーネ家の親のすねにかじり付き、自室にもってネットサーフィンをしまくるだけの日々をまんきつしていたけれど、とうとうそのモラトリアムにも終わりがおとずれた。

 親がマジギレしたのである。


「ベェェルカぁ────ッ! いい加減部屋から出て働きなさいっ!」


 どごん、どごん、とすさまじい勢いでドアを殴られ、ベルカはあせを流す。


「お、お母様。落ち着いて。きんじよめいわく

「おまえの存在よりめいわくなものなどありません! 昔からロクに外にも出ないでッ」


 どごん! とひときわ強いこぶしがドアにとどろく。


「──そんなだから一人前のじよにもなって、男のひとりもけない処女なのです!」


 うぐぅっ、とボディに入ったようにベルカがうなった。


「しょっ、処女なのとヒキニートなのは関係ない!」


 こんな下世話なことを親が言ってくるなんて、これだからじよって生き物はデリカシーがなくてイヤなのだ。人間界だったらきっと品がないとか、じよだとか言われてる。

 だけどここはじよかい──男女のていそうかんねんが人間界とは逆の世界だから、仕方ない。


「もう、まんなりません。おまえにはどうあっても働いてもらいます!」

「え」

で選んだけいやくさせます。すぐに【ひやつこう】へ向かいなさい」


 ベルカが浅く息をんだ。


「そっ……それだけは、絶対にいや! わたくしはなんて、」


 打って変わって、母がひかえめにノックする。

 最上級のぼうぎよほうけていたドアが、どろどろのあめみたいにけてしまった。


「──三日のうちに家を出なさい。さもなくば、部屋ごとそうしますからね」



 というわけで、まずいことになった。

 働くか死ぬかだ。どっちもいやだ。


「き、けいやく……っ」


 とは、人間界での仕事のために現地で組む、人間のビジネスパートナーのことだ。

 なんだそれならいいじゃん、と思うかもしれないが、そんなことはない。

 だってその仕事には──えっちなことも、がっつりふくまれているから!


「い、家が選んだ、好きでもないとなんて、無理……! 絶対、いや……!」


 もちろん、自分だってとしごろじよだ。そういうことへの興味はある。っていうかナイショだけど実は人三倍ある。いつまでもしよじよあおりされるのだって、やっぱり気にしている。

 だけどいやなものは、やっぱりいやだ。


「……そういうのは本来、好きな殿とのがたとだけいたすもの……」


 ネットサーフィンで人間界の価値観にったベルカは、じよかいの考えにはめない。

 つうこいがしたい。

 家が選んだとかでなく、自然に運命のお相手と出会いたい。

 とろけるようなこいをして、お仕事をえた真の関係性を結べる相手とちぎりをわしたい──。


「…………はぁ。ばかげてる……」


 そう夢見る一方で、ベルカはあきらめてもいた。

 今まで人間界をのぞいていても、ぴんとくる相手なんてどこにもいなかった。そもそもまんやゲームで遊んでいるだけで十分満足な自分が、こいに落ちるなんて想像もできない。

 ……できないけれど、せめてかないと。

 このままいくと、親の選んだけいやくさせられベッドインだ。

 ベルカは目の前にあるきよだいな鏡に手をかざし、りよくめて【バディーズ】と唱える。

 すると鏡一面に、たくさんの男の顔写真とプロフィールがずらりと表示された。

 おー、とベルカがたんそくする。


「これがうわさの、マッチングアプリ……」


【バディーズ】はマジカルアプリの名前だ。じよかいではまだ敬遠されがちな新しい文化だが、輸入元の人間界ではアプリでの出会いなんて当たり前になっている。

 とりあえず、これをやってみよう。

 そしてこうは自分で探してますからと、母に行動実績を土下座してアピールしよう。


「それであと一年ぐらい、モラトリアムの延長を……」


 とことん働きたくない十七歳。それがベルカ・アルベルティーネというじよである。

 アプリでの出会いなんて、期待してない。

 こいなんてこうひんは、わたくしのようなじよには、一生えんがないんだから──。


「……フィルタ条件、入力」


 細い指先がくうをタイプする。

 さい穿うがち、百をもえる理想のの条件が、ずらずらっと入力されていった。

 やがて完成した条件リストをながめて、ベルカはしつしようすると、


「こんな夢みたいな、居るわけない」


 投げやりに確定キーを押した。

 ──条件にがつする殿とのがたが 1名 見つかりました。


「…………えっ?」


 ベルカは一枚だけ表示されたプロフィールカードを開くため、鏡にタッチしてみる。

 すると甘い電流が指先から走って、ベルカの心臓をとくんとらした。


「──あ。……す、すき…………!」


 勝手にあふれて言葉になる。一度も知らないこの気持ち。

 ベルカはてんけいのように、それが『ひとれ』だとさとっていた。

 もしもこの方とちぎれるのなら、【ひやつこう】とかいう影魔女シヤドウひやつぴきるまで帰れないクソ労働にもえられるかも!

 ベルカはねる心臓を両手で押さえ、とうぜんと彼の名前をつぶやいた。


「──うつこうさま」


 予感がする。この方はきっと、歴史に名を残すになる。

 百人の女の子をいて救った伝説の男として、二つの世界にうきを流すことになる──。


「えっ、まだどうていなの……?」


 けれどそれはまだまだ、先のおはなし。