カナエの星

2 半分の目覚め ②

 そよぎは座るたまごとガクッとこけるが、カナエとしては、


「そんなこと言われてもなあ」


 というのがいつわらざる感想である。


「世界を救うとか、夢なら鹿らしいし、現実ならでしょ」

「だーっ! なんでキミってば、そう見切りが早いかな!?」


 そよぎは、自分のもとを訪れた少年の性質が、段々と分かってきた。

 カナエの方も、へんてこな内容の会話に慣れて、突っ込みを入れる。


「そっちこそ、その辺にいるへいぼんな少年に、どんだけでかいこと求めてるのさ」


 少年の自己ひようへのはこの際いて、


「だって、キミ」


 そよぎは動かしようのない事実から攻めることにする。


「ここに来たってことは、見えたんでしょ──『半開きの目』が」

「……」


 カナエは、彼女との会話で初めて心当たりを抱き、返事をし損なった。過去に見た現実のこうけいと、今見ている夢のようなそれが、ゆっくりと心理的な地続きになってゆく。


「……それって」


 彼女の言うものが、ハッキリと分かる。

 しろとびらの上部、のぞき穴の場所に輝いている、もんしよう

 どんかくを下に向けた平べったいとうへん三角形と、中心にある多重の半円。


「あの、扉に光ってた?」

「そう」


 うなずくと、そよぎはてのひらを上向きにひるがえす。

 そこから数センチ、ちゆうに浮かび輝く紋章が現れた。

 彼女の言ったもの、カナエが見たもの……これこそが『半開きの目』。


が見えた者にしか扉は開けられないし、星に来ることもできない。そしてなにより、あいはんする力である『半閉じの目』が見えないし、止めることもできない」


 カナエは、話の中に混じった新たなめいしように気を留め、


「……『半閉じの、目』って?」


 どこかほのぐらい予感を覚えさせられる、そのひびきを口にした。

 やっと相手が取り合ってくれたことに気を良くしたそよぎは、紋章を握って消すや、少年にひたいを付き合わせるように顔を近づけて、告げる。予感通りの仄昏い声で。


だれ知らず降りるめつしようちよう、だよ」


 んで、と付け加え、燃えるひとみを瞳に合わせた。


「今より見出す可能性の象徴、こそ」

「……『半開きの目』?」

「そういうこと」


 一転、ニッコリとほがらかなみを満面に表す。


「だんだん分かってきたかな?」

「さっきみたいなしるしが二種類ある、ってこと、くらいは」

「ケッコーケッコー」


 あいまいな返事であっても、真面目まじめに受け止めてもらえたことを、そよぎは喜ぶ。


「それじゃあ、さっき言ったもくひようは覚えてる?」


 問われて思い出したカナエは、しかし急速に、その真面目さをげんすいさせた。


「んー……世界を救う、ってやつ?」


 いつかいの少年として、全くじようしき的に、その胡散うさんくさい言葉を疑う。

 そよぎはしかし、その一介の少年が持つ力を見込んで、たのむ。


「やることは簡単だよ。めつげんきようである『半閉じの目』を宿した人間を、キミの『半開きの目』の力で見つけ出して欲しいの。二つは同じ形をしてるけど、今のキミなら簡単に見分けられるはず」

「破滅の元凶の……人間、なのか」

「うん」


 先のほのぐらさが、少女のほがらかなみのはしぎった。


かくせいしたキミの近くに、必ずいる。そいつは『半閉じの目』に誘われて、遠からず世界を破滅に導くよ。どんなさいな理由からでも、絶対に、ね」

「話はだいたい分かったつもりだけど」


 そのさまに、カナエはすじに冷たいものを感じつつも、すぐカクンと首をかしげる。


「いきなりそんな、でっかい話されてもなあ」

「ふーむ。後の説明は実際に『半閉じの目』を見つけてからにした方がいいのかなあ。うん、それがいい、そうしよう」


 たまの上で腕組みして深々とうなずくそよぎに、カナエはまた、短く答える。


「はあ」


 しかし、今度のこれは、適当な返事ではない。どうでもいい、というとんちやくではなく、どうすればいいのやら、というまどいの表れだった。


(いつの間にか、探すことが決まってる流れなのかな)


 カナエとしては、言われるがままかされかされしただけで、引き受けるとはひとことも口にしていないのだが。といって、に断るには、色んなものを見せられ過ぎている。


(今さら、夢やじようだんで済まされる感じでもないし)


 めんどうなことに、現実で『半開きの目』を見てから、ここに来ているのである。仮に夢だとして、どこからがそうなのか……今の自分に確かめる方法は残されていないか、ともんして、


(そういや、まだやってなかったっけ)


 すぐに、ほおをつねる、というとうをしてみた。

 いきなりの奇天烈きてれつな反応に、そよぎはもはや驚くよりもあきれている。


「なにやってんの」

「痛いな、やっぱ」


 自分に向けても答えて、カナエはほおこすった。

 どうやら間違いなく、全てが現実、らしい。

 そよぎはリアクションがめんどうになってきたのか、投げやりな調子でせっつく。


「んじゃ、ちゃっちゃととびらの外に戻すから、ちゃっちゃと『半閉じの目』を探してね」

「こっちだってひまじゃないんだけど」


 言わでものはんばくをしたことで、カナエは扉の外での行為、


(あっちでもこっちでも探してばっかり……ん?)


 ここに来るになった、そもそもの原因を思い出した。

 すなわち『ことづてようせいの扉』という、普通に考えて在り得ないもののたんさく

 自分がくぐってきたのは、やまのべ手梓たずさしようげん通りの形をした、斜めの扉。

 目の前、というより、なにもかもが普通に考えて在り得ないもの。


(もしかして、この人こそ『言づて妖精』──)


 カナエは、これ以上ないほどに、せいとうの予感を抱いて、


「そよぎさんって」

「ん、なに?」


 これ以上ないほどのしん人物へと、そつちよくたずねてみる。


でんごんとか頼めたりする、妖精なの?」

「……?」


 そよぎは、これ以上ないほどに、げんな表情を作った。


「えー、っと」


 彼女が言いよどんだのは、なにかしらのみつしているのではない、


「それは、どういう意味の質問なのかな?」


 わけの分からないことを言い出した、というへきえきである。

 その手の反応に慣れているカナエには一目で分かった。しかし、


「あれ?」


 そうなると、白い扉が証言通りだったのは、一体どういうわけなのか。全くのぐうぜんとは、流石さすがに考えられない。なにかのひようにあの扉を見ただれかが、そこから話をそうさくした、山辺手梓の細かいとくちようのソースもそこ、というところか……?


「なにが、あれ?」


 逆に不審がるそよぎに、カナエは手を振って話を打ち切る。


「こっちの話、たぶん」

「ふーん? まあ、妖精と言われても不思議ではない愛らしさではあるけどね、フッフフ」


 別方向でみような食いつきを見せるそよぎが、ひょいと軽く、上をゆびした。


「とにかく、『半閉じの目』探し、よろしく。お帰りは──あちら」


 その逆、


「っ!?」


 胡座あぐらをかく自分のしたが振動し、驚いたカナエが見下ろすと、そこに大きく輝いている。

 すでになにと思うこともない『半開きの目』が。

 強く見つめるように輝きを増したそれは、

 れつおんとともに、形を変える。

 面白味さえ覚える、一つしるしへと。


?)


 思うや、強くはじかれる予感……というよりせんりつが、カナエの全身をつらぬく。

 その印に込められた力が、実際に作用する寸前、


「君のかくせいに合わせて、『ハインの手先』もたんできに入ると思うから、気を付けてね」


 そよぎは気楽に付け加え、ヒラヒラ手を振った。

 そうして見事に戦慄の通り、ガンッ、と強く弾かれて、


「!?    ああああああああああああああああああああああああああぁぁっ──    」


 カナエが胡座のままうえ、青いくう彼方かなたへと去ってから数秒の後、

 手をかざして見送っていたそよぎは、ふと気付く。


「あ、名前くの忘れた」



 眼前、しろとびらがパッと消えた。


「──」


 代わりに現れた板壁に、カナエは顔面を思い切りぶつけ、


「ふがっ!!」


 その勢いのまま跳ね返り倒れ込む。あの星に行く寸前の状況に戻された、ということは本人には分かっていない。普段ならあり得ないそくたいほんろうされるだけである。


なおらい!?」


 やまのべ手梓たずさは、いきなり異常な勢いでけ出した(としか彼女には思えなかった)少年が、壁にぶつかって跳ね返り、倒れるのを見た──というより、倒れてくるのを見た。


「うわっ!?」


 何とか受け止めようとするが、がらとは言えひと一人分、しかも勢いが付いている。