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プロローグ
真夜中なのに、大きな声で鳥が鳴いていた。その声でアルムは目が覚めた。
開けたままの窓から入る生暖かい風が、カーテンを波打たせている。
東の空に稲光が走る。紺色の空には濁った白い雲が折り重なっていた。その雲の割れ目から一本の光が放たれると、それは何本にも枝分かれして疾走していく。
アルムは自分の部屋を出て、父親の部屋に向かった。
階段にある窓から空を見る。稲妻が走り続けている。アルムは足を止めて、空が光るのを待つ。耳に集中して、頭の中で数を数える。
いち に さん し ご ろく なな……鳴った!
光と音のずれを言いあてるゲームで、アルムは父親に一度も勝ったことがない。
階段を駆け足で降りて父親の部屋のドアをノックする。返事がないのでドアを開けると、いるはずの父親がいない。アルムは机の上のランプを触ってみた。ひんやりとしてる。だいぶ前から部屋にはいなかったようだ。クローゼットを見ると雨用のブーツがなくなっている。
今夜は雷が近いから、いつもより勝てるチャンスがありそうなのに……。
アルムはそう思いながら窓の外を見た。森の奥のほうで煙があがっているのが見える。
セコイアに落ちたんだ! 大丈夫かな……。
もっとよく見ようと、アルムは外開きの窓を両手で開けようとした。そのとき、窓ガラスの右下になにかが映っているのが目に入った。なにか白いものが。
アルムはじっと見てみた。なにかがゆらゆら動いている。なんだろう?
「……おじさん」
背後から声がした。驚いたアルムは勢いよく振り向いた。
暗い部屋のすみで、アルムと同じくらいの上背の女の子が立っている。アルムはびっくりして声も出せなかった。ドアが開いた音なんて聞こえなかったからだ。しかもドアは女の子がいる場所と反対の位置にある。
「おじさん……?」
女の子はアルムを見ながら不思議そうな顔をして言った。アルムの知らない声だった。
「……だれ?」
小さな声でアルムが言うと、女の子ははっと息をのんだ。とても驚いているように見えた。
「おじさんは……?」女の子の声もとても小さかった。
「どこから入ったの? なんでパパの部屋にいるの?」
女の子はなにも答えない。とても困っているようだ。
「ここでなにしてるの?」アルムはもう一度聞いてみた。
そのとき、峻烈な雷光が目に飛び込んできて、アルムはぎゅっと目を閉じた。落雷の衝撃は空気を無理やり引き裂くようなドーンという音を伴って、家の窓をビリビリと震わせた。アルムは両手で耳もふさいだ。
あたりが静かになるのを待って、アルムは目を開けた。
女の子は消えていた。どこにもいない。アルムは部屋をよく見てみた。いつもとなにも変わらない。あの子はどこから来て、どこに行ったんだろう?
ランプに火をつけて、女の子が立っていたあたりをよく見てみる。壁も、天井も、おかしなところはなにもない。アルムは女の子が立っていた場所に行ってみた。床板が少したわんでいる。アルムが足に力を入れて踏み込むようにすると、床板がきしんで、きぃきぃという音が響いた。
まさかここから……?
アルムが床に腹這いになろうとしたとき、玄関のドアにつけた鈴がりりんと鳴った。
「アルム、起きてるのかい?」
「パパ! どこ行ってたの?」
「ラボにちょっとね。おやおや、パパの部屋でなにしてるんだい?」
「雷ゲームをしようって誘いに来たら、女の子が……」
「女の子?」
「女の子がいきなり出てきて、いなくなっちゃった」
「アルム、それは夢じゃないのかい? それとも……寝ぼけていたのかな?」
「わかんない……」
「雷ゲームはどうする? いまからやるかい? でも……」
そう言って父親は窓の外を見た。
「雷は遠くに行っちゃったねえ」
「セコイアに雷が落ちたでしょ? 大丈夫だったの?」
「樹冠が少し焦げたけ。セコイアは雷に強いから心配いらないよ」
「よかった。ねえパパ、ここの床だけふかふかするんだよ」
「いつもこの上から雨漏りがするだろう? 床板をだめにしちゃうんだ」
父親は天井を指さしながらアルムに言った。
「へえぇ……」
「眠そうだね。よし、パパがおぶってベッドに連れてってあげよう」
「ぼくもう八歳だし、ひとりで戻れるよ」
「きみがいくつになったって、パパはきみをおんぶしたいんだよ」
父親は腰を落として、その広い背中でアルムを迎えた。
父親の背中にからだを預けた途端、アルムはうとうとしはじめた。
ベッドにたどり着く前には、すとんと眠りに落ちていた。