<script> (function(d) { var config = { kitId: 'poz7nec', scriptTimeout: 3000, async: true }, h=d.documentElement,t=setTimeout(function(){h.className=h.className.replace(/\bwf-loading\b/g,"")+" wf-inactive";},config.scriptTimeout),tk=d.createElement("script"),f=false,s=d.getElementsByTagName("script")[0],a;h.className+=" wf-loading";tk.src='https://use.typekit.net/'+config.kitId+'.js';tk.async=true;tk.onload=tk.onreadystatechange=function(){a=this.readyState;if(f||a&&a!="complete"&&a!="loaded")return;f=true;clearTimeout(t);try{Typekit.load(config)}catch(e){}};s.parentNode.insertBefore(tk,s) })(document); </script> <style> p.radio { margin-block-start: 0; margin-block-end: 0; font-family: tbudrgothic-std,sans-serif; font-weight: 400; font-style: normal; font-size: 1.2rem; line-height: 2.4; } p.main{ margin-block-start: 0; margin-block-end: 0; font-family: tbudmincho-std,sans-serif; font-weight: 500; font-style: normal; font-size:1.2rem; line-height: 2.4; } .em-sesame{ text-emphasis-style: filled; -webkit-text-emphasis-style: filled; } .gfont{ font-family: ryo-gothic-plusn, sans-serif; font-weight: 300; font-style: normal; } @media screen and (max-width: 450px) { p.radio{ margin: auto 10px; font-size: 1.1rem; line-height: 2; } p.main{ margin: auto 10px; font-size:1.1rem; line-height: 2; }} </style>
「雰囲気が独特な人だね」
「ずいぶん良心的な感想ね」アルムの言葉を聞いて、フローライトが笑いながら言った。
「少しとっつきにくいだけじゃ?」
「ここに来てもうずいぶんたつのに、ゼキはわたしのことをずっと囚人と呼ぶの」
「でもおれのことは呼んでくれてた。もしかしたら女の子が苦手なだけなのかもしれない」
「女の子?」
「きみは女の子じゃないの?」
「……女の子扱いされたことなんてないもの」
フローライトはアイボリーの長い髪を手櫛で整えて、細い指でゆったりとした三つ編みにすると、それを肩の前に流した。昨日とはまた印象が変わった。
「疲れた顔をしてる。ゆうべは眠れた?」
アルムは答えるかわりに苦笑いを浮かべた。
任務初日でからだはくたくたに疲れていたのに妙に頭が冴えていて、ほんの少しまどろんだだけで結局眠ることはできなかったのだ。
「あの後、カルセドニーにわたしのことを根掘り葉掘り聞いたんでしょう?」
「聞いたけどなにも教えてもらえなかった。本人に聞けとか、おれには話す権限がないとかで」
「はぐらかされたわけね」
アルムは頭をかいた。今日もフローライトのペースで話が進んでしまうようだ。
「だからきみに聞きたい」
「いいわ。じゃあその前におはなしをひとつ」
「また?」
「今日はあなたの家族のことを話してもらおうかな」
「……父さんはマリネリスで汚染物質除去技術の研究をしてる。おれが小さいときからずっと」
「お父さんの名前は?」
「コラン」
「お母さんは?」
予測できていたのに。アルムは顔が硬直して、からだに緊張が走った。
なんとか平然を装い、自分の顔をフローライトが見ていないことを祈った。
「母さんは……おれが小さいときに死んだんだ」
「そっか。名前は?」
「え?」
「名前。お母さんの」
「ああ……エリス、エリスだよ」
あの日、なぜなにもせずにおれは母を見下ろしていたんだろう?
アルムはフローライトに気づかれないように息を大きく吸い込み、静かに吐き出して落ち着こうとした。古い記憶に揺さぶられて呼吸が速くなっていたことに気づいたからだ。
「エリス……か。すてきな響きね」
アルムは同じことを父がよく言っていたのを思い出した。
ドーマがワゴンをガタガタと揺らして入ってきた。たっぷりのお茶が入ったティーポットと、カップが二つ。ドーマは七本の指を器用に使って、ポットとカップを載せたトレイをドロワーに入れフローライトに合図をした。
「ありがとうドーマ」
ドーマは返事の代わりに赤い目を二回点滅させた。
アルムは椅子から下りて床に直接座ると天井を見上げた。
ほんの少し、気持ちを立て直す時間を稼ぎたかったから。