【???】 4/29 22:30 観測開始
きみたちは『情報化社会』という言葉をまるで便利な魔法のように使うが、そもそも情報化社会とは、情報があらゆる資源と同列の存在価値を有し、社会の中心として機能している状態を示している。インターネットにおいて、きみたちのプロフィールはデータという形を取り、電子の大海に投げ捨てられていく。そうして堆積した漂流物をきみたちは崇め、奉り、縋り、阿り、訳知り顔で活用しようとして、結果的に振り回される。
今回だってそうだろう。
『死んだ』が世間に放った角砂糖に、蟻は馬鹿のひとつ覚えみたいに群がった。
時を刻むごとに、テーマパークへの爆破予告投稿は膨大な拡散数を獲得していく。
期限は大型連休が終わるまで。さあ、観測開始といこう。
「さてと…………うん?」
どんな結果が得られるか心待ちにしつつPCのディスプレイを眺めていると、『RootSpeak』のトレンドワードに新たな単語の羅列が追加された。
『神村まゆ ストーカー』
彼の名はもちろん知っていた。
動画サイトで配信活動をおこなう現役の男子高校生。女の子よりも女の子らしい容姿と立ち居振る舞いから、主に女子中高生を中心に人気を集めている。
近ごろなんの告知もないままライブ配信が休止状態にあったが、どうやら裏でストーカー被害に遭っていたらしい。その旨が本人の口から公表されたということで、キュレーションメディアに取り上げられて拡散されているようだった。
なるほど、興味深い。
マジョリティが数多の情報に行動を左右される中で、自然発生的に自らが情報の発信源となる存在が出てきた。インフルエンサーと呼ばれる人間である。
インフルエンサーは実在する人間でありながら、その存在自体が情報としての価値を持つ。
注目を集めれば、より多くの肯定と否定を一身に背負うことになる。
事実、神村まゆの配信アーカイブにはさまざまな声が寄せられていた。
──そういえば。神村まゆの居住区域は以前から近畿地方のとある地区だと噂されていた。人の口に戸は立てられない。インターネットを中継すればなおさらのこと。
火焰の立つ場所には、光と影が現れる。
その影に消えた、哀れな消し炭がある。
これは──観測結果として申し分ない。
「さて──次にきみたちは、どんな声を聞かせてくれるのかな?」