そう言いながらスマホを操作して動画アプリを立ち上げて、ストレージに保存しておいた番組のサムネイルをタップした。ソーシャルメディアを介した未成年淫行や売春、迷惑行為の様子を動画におさめてアップロードする犯罪者について取り扱う企画である。
「ほら、これ」
 指し示すと、画面の中央で教授が発言しているところだった。
『SNSの普及によって従来おこなわれていた迷惑行為が表面化したという意見について掘り下げる前に、まずは問題を切り分けて考えるべきだ。未成年淫行についても同じだろう』
 1秒間に何ワード話すんだってくらいの早口に、司会者が面食らっている。
『たしかに、Instagramインスタグラムのストーリー機能のような時限制で投稿が削除されるサービスなども最近増えてきていて、こうした機能面の特性を悪用する事例も存在しますよね』
 隣から教授に同調する形で新たな意見が出て、議論は活性化していく。
「あっ、しらさぎ教授の隣に座ってる人も知ってます。有名な方ですよね」
おおとりせんさんだっけ、IQ200の天才美人女子大生。スペック高すぎない……?」
「司会者の芸人さんは土曜日のお昼にレギュラー番組をやっているシッチャカ×メッチャカのくりばやしさんですね。こっちの髪の長い女の人は女優の生明あざみふうさんでしょうか」
「教授って改めてすごい人たちと共演してるんだなぁ……実感わかないよ」
 そこまで考えたところで、ふいにスマホのインカメラを向けられる。
「それじゃ、とりあえず言われたとおり写真撮りましょうか」
 反射的にわたしも少しだけ口をすぼめてピースサインを送る。アヒル口ってどうやるんだっけ。
 次の瞬間。
 カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ!
 と、ゆきくんの手元から、すさまじい勢いでシャッター音が鳴り響いた。
「めっちゃ撮るやんっ!?」
 思わず素の言い回しで叫ぶわたしに、ゆきくんは真剣な表情でスマホを見せてくる。
「とりあえず80枚ほど撮ったんですけど、どうですか?」
「はちじゅうって……それに、どうですかと言われましても……」
 思わず敬語になる。画面いっぱいにわたしとゆきくんのツーショットが広がっていた。
 なにこれ……映画のフィルムかなにか?
「……どうかしたんですか? としか言えないんだけど……」
 するとゆきくんは、まるでパラパラマンガのようなカメラロールを指さして言う。
「光の当たり具合や顔の角度って、ひとコマごとに変わるんです。この中からベストショットを選んで、編集アプリで少し加工してからSNSに投稿します。いっしょに選びますか?」
「あー、うん、いいや。任せるよ……」
 こんな大量に自分の顔を眺めていると目が散らかる。ていうか、ちょっと気味が悪い。
 ただ、わたしより少し下の世代の子たちには、これが普通なのかもしれなかった。ジェネレーションギャップというやつだろうか。
 ゆきくんの連写に面食らってしまったものの、わたしの常識が誤っていただけ……という線も十分にありえる。
「とりあえず、教授からの課題は済ませたわけだし、いったん研究室に戻ろうか」
「そうですね……あっ、飲み物ごちそうさまでした」
「いえいえ。後輩にごそうするのは先輩の役目ですから」
 そんな会話を交わしながら席を立つ寸前、ゆきくんがぼそりとつぶやく。
「すっぴんで写真上げたの、はじめてだ……」
 聞き間違いかなと思ったので、これも詮索はしないでおいた。