こわれたせかいの むこうがわ ~少女たちのディストピア生存術~

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『アイデアってのはそれだけでお金を払う価値があるわ。何故なら、独創的な発想は自分達だけが得をするから。自分だけが利益を得る。商売人にとって、これ以上の殺し文句はないわね』
 それは〈社会代謝機構〉という番組で聞いた話だ。
 〈社会代謝機構〉日曜以外の夜十時に放送される帯番組で、その名の通り社会のあらゆる事がテーマになる。講師はフウの好きなマユミ先生だ。
 チオウの東端、出稼ぎ労働者の町シモガジョウには旅人やスカベンジャー用の精肉加工店がある。精肉加工店は鳥や犬など、様々な肉を販売している。中には何の肉か分からない物体も陳列されていた。その裏の小さな加工場からは血と臓物の臭いが流れて来る。その精肉店の裏口に、フウは姿を現した。ゴムのエプロンを付けた大男が訝し気にフウを見下ろしている。
「ガキ、ここは売り場じゃねぇぞ」
 フウの傷らだけの顔を見て、男は眉を微動させる。
 フウは何も言わず、麻袋を地面に置いた。男が麻袋をさかさまにすると、野生化した犬や砂漠コヨーテの死骸がその場に落ちた。男はフウを見る。
「成程、今まで訪ねてきた中で一番小さな狩人だ」
 男の目つきが職人のソレに変わった。
「……三〇〇オウチってとこだな」
 そんなものか、とフウは首を垂れる。男は犬の首にナイフを当て、スッと刃を引いた。ドロ、とドス黒い血が地面に流れ落ちる。
「血抜きと内臓処理をしてればもっといい値で買ってやる」
 ほらよ、とフウは一〇〇と書かれた銅貨を三枚手渡された。フウは三枚の硬貨を握りしめその場を立ち去った。
 これではデンチを買うのはいつの日になるのか分からない。
 帰宅途中、岩場のキャンプでフウは腕を組む。正直、「呪い」を持っている犬とそう何度も戦えたものではない。今回のコヨーテとの戦いも死を覚悟した。動物を殺すのもいい気分ではない。この三〇〇オウチでもっと効率よくお金を稼げないだろうか。
 そう言えば、〈明日へのリレキショ〉という歴史教育番組でその中でボーエキの話が出てきた。いんどの胡椒はよーろっぱで高値で売れる……とかそんな内容だった。その場所で中々手に入らないものは、胡椒ですら宝石を越える高値で売れるらしい。
 フウは第五管轄区に帰って住民を観察した。
「ねぇ、お母さん、のど乾いた」
「今日はもう水が無いの。今度は少し多めに買うからね?」
 彼等の家は普通に出稼ぎ労働者の父親がいる。父親が死んだフウの家と違って、水を買っても余るお金がある。大体十日ほどの間隔で軍用のヘリコプターが管轄区南の発着場に降りることがあって、彼らはその輸送便を使って水を買っていた。無論輸送の手間がある分、水の値段はチオウで買うものよりも高く、補助金だけで生活するフウにはなかなか手が出せない。一週間分の水を買いだめしている彼らは、長い時間をかけて水を買いに行かなくてもいい。が、気候次第で水が足りなくなることがある。そういう時は次の輸送便が来る日まで少ない水でやりくりしなくてはならない。
「お父さんいつ帰ってくるのー?」
「もうちょっと待ちなさい」
 フウの中で眠っていた何かが目を覚ます。ただ生きるだけなら使わない、脳の機能。それの名前が「ひらめき」だと知るのはもう少し後だった。