フウはいつもより体感一時間早く起き、チオウへ向かった。再び第五管轄区に帰ってきたのは大地が夕暮れに染まる頃だ。
フウは第五管轄区の中を歩いた。すると、昨日とは別の親子を見かけた。昨日の親子の様に子供が何かをねだっている。
「ねぇお母さん、お水」
「今度の輸送便が来るまで我慢しなさい」
少女と母親の二人組に歩み寄り、母親の肩を叩いた。
「え、水を売ってくれるの? このボトル一つで一〇〇オウチ……」
値段を聞いた母親の顔はサソリの尾でも食べたような渋い顔つきになる。拾ったガラス瓶に入った水は、チオウで買えば五〇オウチほどで買えるだろう。
「お母さん、お水! お水!」
「その水飲んでも大丈夫なの?」
フウはガラス瓶を太陽で殺菌した旨を説明した。
『ばい菌を抹殺する正義の剣! その名を紫外線! ギンギラギンの炎天下に布団や食器を出しとけばあら不思議! 身体に悪い病気のもとは漏れなく紫外線が抹殺してくれる!』
と〈童心科学倶楽部〉のアナウンサーが声高々に叫んでいた。その後講師がディーエヌエーがどうのこうの言っていたが、そのあたりは難しいので自分なりに噛み砕いて理解していた。フウはその噛み砕いた内容を女性に説明する。
水が安全だと分かると、母親はため息をつく。ボトルを三つ受け取る代わりに三枚の硬貨を出した。
「はいこれ」
フウは微笑しながら硬貨をポケットに入れる。
「ありがとうお姉ちゃん!」
女の子は晴れやかな笑顔を浮かべていた。フウの顔が少し熱を持つ。フウの空白の胸で、何かが鼓動を奏でるのが分かった。
「行こ、お母さん」
晴れやかな女の子の顔を見た母親の顔が自然とほころんだ。
「そうね。ご飯にしましょう」
そう言うと、二人は手を繋いで遠ざかっていく。フウはその背中が見えなくなるまでそこに立ち尽くしていた。あの女の子の手はどれだけ温かいのだろうか。母親が歌っていた曲を口ずさみ、フウは右手を優しく握りしめる。掌に返ってきたのは冷たい硬貨の感触だった。
その日の夜、家のベッドで横になりながら金のことを考えた。この世の中は金になるものばかりだ。そして入手困難なものほど金になる。
フウはまた一つ、金儲けの方法を考えついた。
だが、これは少し危険な方法になる。
