こわれたせかいの むこうがわ ~少女たちのディストピア生存術~

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 その日はとりわけ暑かった。太陽から注ぐ「紫外線」の雨が、乾いた大地に降り注ぐ。大地は「陽炎」を吐き出し、西の地平線はゆらゆらと揺れている。フウは外套の下に肌を隠し、チオウへ至る岩場を歩いていた。
「ピッ」
 外套の下でサバクオオブンチョウの〈アサ〉が顔を出す。拳二つ分ほどの身体を純白の体毛が包んでいる。つぶらな瞳に黒い過眼線がいいアクセントになっていた。二年の歳月はよちよち歩きの雛を立派な成鳥へと変化させる。最近は昔ほど甘えてくれないので少し寂しいフウである。
「ピピピッ!」
 そのアサは緊張感のある声を発した。岩場のどこかから野犬の足音が聞こえてくる。
 フウは腰に刺さった武器を抜き、スライドを引いて臨戦態勢に移った。
「グゥ」
 一際体格の大きな犬だった。恐らく、ドテンの闘犬が野生化したものだろう。黒い毛に覆われた肉体は筋肉で隆々としており、血走った眼はフウの喉笛を見据えている。
 フウは冷静に犬を見下ろした。辺りに大人の男の気配はない。叫んでも誰も助けてくれないだろう。犬は長い四足をたたみ、姿勢を低くする。恐らく飛び掛かるための「運動エネルギー」をためている。野犬がフウに飛び掛かろうとしたその時だった。
 乾いた銃声が岩の間を飛び回る。薬莢が地面に落ちて「キン」と小さく鳴いた。フウが高々と掲げた半自動式拳銃がわずかな硝煙を昇らせている。
 野犬は銃声を聞くとフウとは反対方向に飛び上がり、文字通り尻尾を巻いて逃げ出した。フウは拳銃を腰のホルスターにしまう。そして懐のオオブンチョウの頭を撫でつつチオウへ向かった。