こわれたせかいの むこうがわ ~少女たちのディストピア生存術~

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 翌朝、王の絵にトマトをぶつける男の「この糞野郎!」という罵声で目が覚めた。
 今日もやってるのか。フウは少し呆れながら身支度を整えた。準備を済ませたフウは散歩がてら周囲を散策する。王に「糞野郎」という男がいる一方で、中流層の学校の運動場では生徒が整列して王への感謝の言葉を大声で叫んでいた。
「今日も神の御霊を授かりし王の聖なる精神を冒すことなく清く正しく生きていきます!」
 少年の声に教師が腕組みをして「うんうん、それこそ清く正しい少年の在り方だ」と言わんがばかりに頷いている。チオウの臣民はかみの肉体と魂の一部を授かっているので、王への忠誠は正義ではなく摂理のようなものと理解され、逆に忠誠を示さぬものは王の神聖から外れて迫害の対象となる。フウはそういう神秘主義からは脱していたが、王への疑問を口に出せばどうなるか理解していたので表面上は良き臣民を演じていた。とはいえ、税を納めていない管轄区民は「王への忠誠が足りていない」と中流階級から露骨に蔑視されるのだが。
 グランドに集った子供の何人かがフウを指差し軽蔑するように笑ったので、フウは居心地の悪さを覚えてそこを立ち去った。
 その足でジャンクの山や公園をぶらぶらと散歩する。少女ヤツの姿はない。
 アサに尋ねてみても「ピピピいないよ」と返ってくる。フウはキンベイを出る時に何度か後ろを振り返った。
 自分は夢を見ていたのではないだろうか、とフウは不思議な気分になった。考えれば考えるほど変な奴だったな、とフウはジャンクの代わりに手に入れた硬貨をポケットで転がしながらチオウを出た。
 チオウに宿泊する目的はいくつかある。鳳凰銀行で資産管理の説明を受けたり、仕事で知り合ったクライアントとの情報交換、等。だが、一番の目的は余裕を持って家に帰れるということだ。昼の内にチオウを出れば、夕方には帰れる。夜飯を食って明日の身支度をして、九時に歴史ドラマを聞きながら余裕をぶっこいて寝るまでが完璧な流れだ。
 最近は野盗がかなり出没しており、管轄区が出す外出警戒指数は五段階の四となっている。銃を手に入れる前は、そういう日は水を買いに行くことすらできなかった。母が死んだ遠因もそれだったりする。フウは警戒をしながら、あの乾いた岩場を通り、そして片道五時間かけてようやく自宅に戻った
 実家の入り口をくぐると疲れがどっと押し寄せてベッドのシーツにダイブしたくなる。でも、寝具は小さい頃からずっと同じものを使い続けているのであまり手荒に扱いたくない。外套を壁にかけ、肌着だけになる。身体を洗いたいが、ここのところは雨が降っていなくて雨水をためておくバケツは空っぽだ。明日の昼にキンベイの公衆浴場で身体を洗うので今日はそのまま寝ることにした。フウは銃の手入れや弾丸の確認、ナイフの研磨、保存食の残り等諸々の装備のチェックを済ませて布団に入る。
 フウは一度入口の方を確認してから、目を閉じる。疲れていたからか、ラジオドラマを聞きながらすぐに眠ってしまった。