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フウは白い砂漠に立っていた。ここに来るのは初めてじゃない。母を失って以来、ごくまれにここが夢に出て来る。砂漠の中央にはベッドがある。聞こえてくるのは母親が鼻歌で奏でる「あの歌」だ。フウは「またか、」と思いつつベッドに近づいて行った。どうせこの夢の結末はいつも同じだ。母親の死体がそこに横たわっているのだろう。その母親の死を確認しないと、この夢は覚めない。フウは恐る恐るベッドを覗き見た。
目の前には天井があった。身体が朝の到来を告げている。フウは嫌な予感がして恐る恐る、母親が使っていたベッドに歩み寄る。
「すー」
と安らかな吐息を立てて眠る者がいた。そのセーラー服は見覚えがある。約一日ぶりの御対面だ。フウはじとっとした目つきで少女を見下ろすとベッドの脚を蹴った。
「んあ、もう朝ごはん?」
寝ぼけて馬鹿なことを言う少女とは対照的に、フウは顔を引きつらせた。まさか、後を付けてきたのか? 「アサ」に気付かれることなく。
「お兄ちゃん、お腹減った」
なぜここにいる。とフウは問う。
「今夜だけでも、がダメでしたので日をあらためました」
馬鹿なのか? それとも馬鹿にしているのか? 今夜が駄目なら次の日も駄目に決まっているだろ。
「それよりお腹が減りました」
少女は無邪気なものだった。事実、この少女に邪な気持ちがあるのなら金か命のどちらかは奪われているだろう。だから、この少女は恐らくフウにとって無害だ。
フウは首を左右に振った。そして出口を指し示す。
出ていけ。二度と私の前に現れるな。少女は以前よりも悲しい顔をした。
「もしかして、私の事が嫌い?」
嫌いだ。と、ハッキリと言った。胸の衣服を右手で強く握りしめながら。
少女はそれがよほど堪えたらしく、目に涙を浮かべた。そして、振り返ることなくとぼとぼと部屋から出ていく。少女のいたベッドに視線を移す。ずっと、意味もなく敷き続けていたシーツ。母が死んでから、ずっと平たいままだったシーツ。そこに皺が生まれていた。その皺に手を当てると、まだ温もりが残っていた。シーツの取り換えはフウが母親から教わった家事の一つだ。母が朝食を用意する間、皺と温もりに塗れたシーツを取り換えるのが日課だった。母が死んでも、フウはそれを
いつか、母が帰って来るような気がして――
この胸にやって来るもどかしさはなんだ。あんな素性の知れない人間など放っておけばいい、と理解しているはずなのに、心のどこかが「追え」と叫んでいる。あの、泣きそうな少女の顔がフウの頭にこびりついて離れない。
フウは自分の髪の毛を掻きむしった。それを見ていたアサが「ピピっ」と鳴いた。本当に自分は何も成長していないと、アサを見て自虐する。
家を出ると、稜線と空の隙間から朝日が漏れていた。やがてそれは管轄区に降り注いで幾つもの長い影を作る。
少女は西に延びた長い影を引きずって管轄区を出ようとしていた。
フウは少女を呼び止める。
少女は肩を一瞬竦めて、捨てられた犬コロのように振り返った。
問うた。お前は、何が目的なのかと。
「一人がいやだった」
少女の視線には、軟弱と言うよりはむしろ芯を感じさせる力強さがあった。この少女の発言に嘘はない。そうフウに信じさせるような不思議な力がある。
「父さんや母さん、お兄ちゃんみたいな存在が、欲しかった」
しばらく沈黙を挟む。空がゆっくりと青くなっていく。
「ただ、誰かと一緒に喜んだり悲しんだりしたかっただけ」