こわれたせかいの むこうがわ ~少女たちのディストピア生存術~

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 出発から五時間。太陽は真南に移動し、死の烈日が大地を焼く。外套の上からも熱を感じる。素肌を数分晒せば夜は日焼けで皮膚が剥がれ落ちるだろう。
 灼熱の地獄と化した砂礫の原野をフウは一歩、また一歩と踏みしめる。
 左手の小指が痛い。折れたか、はたまた骨折だけは免れたか。背中の辺りは皮膚が剥けて出血し、歩く度に服とこすれて痛みが広がる。水の運搬で痛めた腰が犬との戦いで大きく悲鳴を上げていた。岩石に近い硬さの地盤も実に辛い。
 歩くという拷問に顔をしかめながらも、フウはようやくチオウに辿り着いた。
 フウはフードの下から、鉄で出来た巨大な門を見上げた。チオウは巨大な鉄の外壁に囲われている。外壁の根元には幾つもの穴が掘られ、そこからボロボロの衣服を着た人間が時折顔を見せる。それは都市の生存競争に敗れ、家を無くした人々の住処である。昼は自分で掘った穴に籠っているが、夜になれば外に出て食べ物や小銭を調達しに行く。
 検問所の前には、防具付きの軍服を着た男が銃を携えて立っていた。
「君か。どうしたんだ、野犬にでも襲われたのか?」
 黒いヘルメットの中から若い男の声が聞こえてくる。フウは心配無用とだけ告げた。
 フウが門の外にある黒いボードに手を翳すと赤い光線が掌を走査する。数秒後、ボードが青く発光する。
『認証完了。第五直轄地区。第一六世帯』
「よし、通っていいぞ」
 巨大な鉄の門扉はそのまま、隣の小さなドアが開けられる。チオウの淀んだ風がフウの鼻をついた。