スタジオから出て空を見上げると、すっかり夜になっていた。
春の夜風は少し肌寒く、無意識に腕を擦る。
「よっと」
小物入れを取り出し、外していたネックレスを付け直した。
収録中は、音が鳴るものは身に付けない。マイクにノイズが乗れば録り直しになるからだ。音を立てずに台本のページを捲るのも、今では慣れたものだった。
遅い時間にはなったが、収録にはそれほど時間は掛かっていない。
音響監督からの説明。
一回通しでのテスト収録。
微調整をしてからの、本番の収録。
ミスした箇所や、演出意図の異なる部分の細かいリテイク。
それだけやっても、雑談の時間の方が長かったくらいだ。もっと演りたかったな。
「けどまぁ……、こんなものなのかな……、ん?」
駅の方からやってくる、ひとりの女の子に目が留まった。
由美子と同じ高校の制服だ。
オフィス街の中で、制服姿は自分と彼女だけ。
すれ違いざま、そちらに視線が吸い寄せられる。
けれど、彼女の目は
由美子はつい足を止めて、振り返った。
「あの子、こんなところで何やってんだろ」
学生服でひとり、夜のオフィス街を歩く理由がわからない。いやまぁ。それは自分にも当てはまるのだけど。
……まぁいっか。由美子は再び、駅に向かって歩き始める。
――そう。この時点では、全く気が付いていなかった。
彼女がある意味で、運命の相手であることを。
